余命1年らしいから寿命を削る糞スキルをつかってみる。
「ジュードさん、あなたの余命は一年もないでしょうな」
「…は?えぇっと…それは何かの冗談でしょうか…?」
「いまジュードさんの身体を蝕んでいる病なのですが、かの英雄ザカライアの死因となったと言われる死心病です。文献によるとザカライアはエリクサーを服用したにも関わらず命を落としたそうです。医者として悔しいですが手の施しようがありません。そもそも死心病は罹患する者が十年に一人いるかいないかの――――」
治療院の先生から告げられた言葉が理解出来なく、いや、理解したくなくて一縷の望みをかけて言葉を捻り出した。
しかし、返ってきた答えは望んだものとはかけはなれていて、ごちゃごちゃと病気の説明をしているが一切頭に入ってこなかった。
取り敢えず、俺はあと一年で死ぬらしい。
☆☆☆
俺はジュード・キャンサー。
歳は今日で19になる。
平民に多く居る焦げ茶色の髪と瞳をした中肉中背の男だ。
早い話がどこにでも居るような男ってこと。
両親は6歳の時に死んでしまって居ないけど孤児院の神父様やシスターが愛情をもって育ててくれたから、これまで変にひねくれたり曲がらず誠実に生きてこれたと思う。
成人になる15歳の時に同い年でいつも一緒に居たリシーと孤児院を出た。
15歳になると成人の儀により女神様からスキルを頂けるからだ。この受け取ったスキルを使い自立することが求められる。
リシーとは成人の儀が終わったら結婚をしようなんて約束をしていたし、俺もリシーと結婚して幸せな家庭を築けると思っていた。
いま思えば俺の人生の絶頂期はここだったのかもしれない。
しかし、成人の儀で俺が手に入れたスキルは【魂燃機関】という儀式官の人でさえ知らないスキルだったのだ。
☆☆☆
「俺は【鍛冶】のスキルだったぜー!」
「ワイは【算術】や!」
「くっそー!かじはかじでも【家事】なんだけど!!」
「やったわ!【服飾】よ!!」
成人の儀が終わり周りの新成人達が盛り上がって騒いでいるなか、俺は未知のスキルを手に入れたため儀式官に連れられて自分のスキルを調べることとなった。
なんだか物々しい雰囲気の人達が集まっている小部屋で戸惑っている俺のスキルが詳しく鑑定された。
役人だと言う鋭い目付きで俺を観察していた男性によると、【魂燃機関】はその名の通り魂を燃やして強い力を発揮するスキルらしい。
強いスキルのように聞こえるが、魂を燃やすという関係上使えば使うほど寿命が削られ、更に一度火のついた【魂燃機関】は燃え尽きるまで発動し続けるそうだ。
「いま君が【魂燃機関】を発動すると節約を心掛けたとして燃え尽きるまでに約20年、全開で使い続けたとすると5年持つかどうかというところだろう」
「スキルを使うと俺は35歳で死ぬんですか…?」
「もしジュード君がスキルを使って国のために働いてくれるというならば、我々は君のこれからの20年が幸福である手助けを全力でさせてもらうよ」
役人は未知のスキルである【魂燃機関】の力に期待しているようだし、善意からの申し出であることもその眼差しから分かった。
「すいません、とても有り難い申し出だとは分かっています。
でも俺はリシーと幸せな家庭を築くと約束しているんです。俺がスキルを使ってしまったらリシーは35歳で未亡人になってしまう、それに子供が出来たら十代半ばで父親を失ってしまうことになるかもしれない。
僕は両親を失って孤児院で育ちました。神父様もシスターも優しくて幸せだったけど、親と一緒に出掛けている近所の子供を見てとても羨ましく思いました。そんな思いを自分の子供にさせたくないんです」
僕の考えを告げると役人はニッコリと笑うと言った。
「余計なお世話だったようだね。幸せな家庭か…君ならきっと出来るだろう」
役人は気が変わったらいつでも伝えるように俺に言うと部屋を出ていった。
☆☆☆
しかし、それから俺の人生は急落の一途を辿っていった。
スキルによって職業が決まる世の中なのだ。
スキルを使うことが出来ない俺には働き口が無かった。
どこで働こうともその道のスキルを持つ者の足元にも及ばないのだ。
たくさんの場所で働くことを拒まれた俺は、最終的に冒険者ギルドの下働きとして働くことになった。
待遇は最悪だった。
雑用や汚れ仕事を任されるのはスキルでハンデを持っているのに働かせて貰っているのだから構わなかった。
しかし、ギルドの職員や荒くれ者の冒険者達にストレスを発散するサンドバッグのように扱われるのが一番辛かった。
ギルドの上司に相談しても「我慢してくれ」や「別に他の場所で働いてもらっても構わない」と言った言葉が返ってくるだけだった。
どうやら俺は無能としてサンドバッグにされることでギルドに対する不満などのガス抜き要員として雇われ居たようだった。
リシーも初めの内は【魂燃機関】を歴史上で見ても俺しか持っていないスキルだと喜んでいたし、冒険者ギルドでの待遇には憤ってくれていた。
そんなリシーもいつの間にか、ボロボロにされて帰ってくる俺を情けないと言い、俺を痛め付けて喜んでいた冒険者のもとへと行ってしまった。
リシーも失ってしまったことだし役人のところへ転職しようかとも思ったのだが、幸せな家庭うんぬんと格好いいことを言ってしまった手前どの面を下げて行くのかと躊躇してしまう。
ずるずると躊躇している間にどんどん時間が過ぎますます行きづらくなってしまって19歳の誕生日を迎えてしまった。
ここ数ヵ月体調が悪いなと感じていたので「誕生日だし休みを取ってもいいだろう」というこで上司にグチグチと嫌味を言われながら休みを取って治療院に出掛けたのだった。
☆☆☆
治療院からの帰り道、医者から言われた「余命が一年」という言葉が頭の中をグルグルと回っていて昼間だっていうのに自分の一歩先さえ見えない気がした。
「余命が一年、か
余命が一年ってことは…あと一年しか生きられないってことだよなぁ
あと一年かぁ」
言葉に出してようやく自分が死ぬということが理解出来た気がする。
「余命一年…ククク、フヒッ、アーッハッハッハッハ!!
ツイてないなぁ!俺の人生ってクソじゃないかっ!
だーはっはっはっはっはっはっ!腹いてぇ~~っ!!」
なんだか無性に笑えてきて往来の真ん中で笑い転げてしまった。
通行人達が怪訝な表情で遠巻きにこちらを見ている視線を感じるが気にしない。
「クヒヒッ、こんなクソみたいな人生とおさらば出来るなら余命一年ってもの悪かないかもなぁ!だっひゃっひゃ!」
「オオイ!!真っ昼間っから騒いでる馬鹿が居ると思いきや、無能のジュードじゃねえか!テメェ、仕事サボって何やってやがる!」
道に転がっていた俺に話し掛けてきたのは俺をいつもいたぶって遊んでいる冒険者の一人でリシーを俺から奪っていった男、ダレンだった。
家屋のなかから出てきたところを見るとここはダレンの家の近くだったらしいを
「クヒヒッ、いやぁ~、今日は誕生日なんで仕事は休み貰ったんですよ~」
笑うのを堪えて立ち上がりながら答えるが、ダレンはその態度が気に入らなかったのかこめかみがピクピクとしている。
「無能のくせにふざけた態度とるじゃねえか、テメェは俺のサンドバッグになってりゃあいいんだよッ!!オラァッ!!」
「グァッ!!」
ダレンに殴り付けられ数メートル吹き飛んだ。
「分かるかぁ?無能のテメェと違って俺には【剛力】スキルがある。これがテメェと俺の違いよ、リシーもテメェと違って逞しくて素敵だってよぉ!」
こうなると、いつもの俺なら踞ってダレンの暴力を耐え続けるだけだが今の俺は違う。
なんせ家族も恋人も居ないし何もしなくてもあと一年で死んでしまうのだ。
自暴自棄とも言うが今の俺は無敵と言って過言ではない!
敵わなくと死ぬまで抗ってやる!!どうせ一年したら死んでしまうのだから!!
「うるせぇんだ!脳筋野郎が!!お前の大好きな尻軽女はケインにもカークにも同じこと言ってんだよ!!」
「あ、なんだとぉ!?無能のくせに今日はイキがってんじゃねえよ!いい加減なこと言いやがって!!」
ギルドでサンドバックにされてる時以外は居ない者のように扱われているため冒険者や職員達の噂話はよく耳に入るため知っていたが、リシーはダレンの女になったあともギルドで有能そうな男には全員股を開いていたようだった。
おかげでリシーに対する未練のようなものは一切無くなったがダレンはリシーの所業を知らなかったらしい。
ダレンは凄まじい形相になって腰に括ってある剣を抜いた。
どうやら無能と馬鹿にしていた俺に挑発されて本格的にキレてしまったらしい。
ダレンをキレさせたはいいが俺は所詮無能、ここで殺されてしまうみたいだ。
一矢報いてやりたいところだが…
(俺にも使えるスキルがあればなぁ…)
ふとここで気付く、役人はなんと言っていたか。
【魂燃機関】は"全開で使い続けたとして5年持つかどうか―――"
(十分じゃないか!!どうせ一年で死ぬんだ!【魂燃機関】は俺にはデメリットのないチートスキルになる!!)
【魂燃機関】の使い方はスキルを授かったときに何となく理解出来ていた。
問題は効果だ、【魂燃機関】の効果がどれ程なのかが分からない。
少なくともダレンの【剛力】を越える力を発揮してもらわないと困る。
ダレンの形相から見るに奴は明らかに俺を殺すつもりだ。
そんな危機的状況にも関わらず俺はダレン程度には勝てると根拠の無い自信に満ち溢れていた。
「それにしても、まともに生きるためにスキルが必要なのに死ぬと決まったからスキル使えるようになるなんてなぁ…」
「なにボソボソ言ってやがんだ無能が!!もーう我慢できねぇ、テメェには死んでもらう!!」
しびれを切らしたダレンが斬りかかってくる。
「【魂燃機関】起動」
途端に身体の芯がカァッと熱くなるのを感じた。
凄まじい全能感と共に身体中に今まで感じたことの無いほどのエネルギーが駆け巡っていくのが感覚で分かる。
同時になにか大事なものが磨り減っていくような感覚もある。
(これが魂を燃やすということか…)
魂が磨り減る感覚はするものの身体の中に感じる魂の大きさを考えれば微々たるものだ。
全開で使っても5年持つというのも理解できた。
【魂燃機関】の使用感を確かめるのに夢中でダレンのことを忘れていた。
が、ダレンはやたらスローな動きでこちらへと斬りかかってきている途中だった。
(これは、ダレンが遅いんじゃなくて俺の反応速度が上がってるってことか)
【魂燃機関】は魂を燃やしているだけあってかなり強力な戦闘スキルのようだ。
反応速度以外も試してみようと考えダレンの剣を掴んでみることにする。
「うぉっ!ここまでの力が…」
格好つけて刀身の中程を指摘まんで受け止めてやろうとしたが力が強すぎて刀身を握り潰してしまった。
「なッ!?テメェなにしやがった!!」
長さが半分程になってしまった剣と俺を交互に見ながらダレンが喚く。
「さあね、なにしたんだろうなァッ!っと」
答えながら張り手を喰らわせてやるとダレンは面白いほどに吹き飛び道端にあったダレンの家の中へ壁を破壊しながら突っ込んでいった。
「やばっ、ダレン生きてるかな?…まぁ、いっか!
あれくらいのこと散々やられてきたし!
それにしても【魂燃機関】は凄まじい性能だなぁ!!
あと一年しかないことだし今まで出来なかったやるのも良いかもしれない!
役人さんのところに行こうかな?あー、でも一年しかないのに国のために働くってもの微妙かな?
うーん、ますはギルドの上司に辞表叩き付けてくるか!!」
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たった一年という時間で国を2つ潰し、世界から奴隷制を廃止し、悪魔竜と呼ばれた邪悪な神を討伐し、ついでに異世界人から教わったカツドーンという食べ物を世界に広めた男の伝説が始まったのだった。