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二十ページ目:成果のままに

「よし、十発いくぞー!」

「おっけー!」


 合図の後、宣言通り十発の真っ黒な火の玉が俺目掛けて放たれる。その直後、音もなく魔法陣が宙に展開されて十発の黒い火の玉は消滅する。ワンテンポ遅れてガキィンと激しい音が鳴り響き、展開された魔法陣がヴォルクの振るった剣を受け止めていた。すかさずヴォルクが持っていた剣を捨てつつ俺の側頭部目掛けて蹴りを放つが、それも新たに表れた魔法陣によって防がれた。

 よし、完璧だな!


「ここまで防げれば十分だろう。魔力の蓄積量も問題なさそうだな」

「だな! かんしょうもしなかったから、かさねてももんだいないし」


 あれから十日ほどが経って、護身用魔法陣はなんとか実用化できるレベルまで来ていた。今のはその性能チェックと、複数付けた場合の問題が起こらないかの確認だ。手加減しているとはいえ、魔王であるヴォルクの攻撃を防げたのだし中々良い性能なんじゃないだろうか。

 試作品として作ったのは三種類。フードと袖、それから裏地に魔法陣を刺しゅうしたローブと、何層にも重ねて魔法陣を刻んで最後にティアドロップ型に成形した結晶で作ったペンダント、細かく魔法陣を刻み込んだ幅広のリングだ。

 それぞれには魔法陣を起動するための最低限の魔力が込められている。一度魔法陣が発動すると、その後は吸収した魔力によって動き続けるようになっているのだ。魔法を検知すると蓄積された魔力を使って起動、直ぐに魔力を吸収しつつ防御壁を展開、余った魔力は蓄積して次回起動時に使用という流れだ。

 自分自身にかける強化魔法にも反応するようにしたので、純粋な魔法による攻撃だけでなく肉弾戦にもある程度対応出来るようになったのが強みだ。まあ、防御をぶち抜いて攻撃できるようなのが現れたら無理なんだけど、それはもう自分の不運を呪うしかない。

 性能に問題が無いことが分かると、ヴォルクは耳元に手を当てて誰かと話すような仕草を見せた。前にもこの仕草を見たことがあるけど、おそらく連絡を取っているのだろう。道具を量産させる指示かな。これから信用できる職人に依頼をして数を作っていくはずだ。他人が真似できないようかなり見た目に偽装も凝らしたので、それなりの腕とかなりのコストが必要になってしまった。必要なことだし仕方がないと思うけども。お陰で俺も随分と魔法陣を描く技術が上がった。


「よし、一旬(とおか)後には配布出来るようになったぞ。本当にありがとうな、カナメ」


 指示を終えたヴォルクがイケメンスマイルを惜しげもなく晒してそんなことを言った。さらっとすごいことを言っているが、これを作らされる職人は大丈夫だろうか……。俺は中々罪なことをしてしまったかもしれない。その代り報酬がたんまりと貰えるだろうから職人には頑張ってもらうしかないのだけれども。

 さて、試行錯誤の末に完成したのは大変感無量な訳だが、達成感と同時にここいらで思うことがある。うん、考えることが多ければ忘れられるけど、それがなくなるとやっぱり思い出すもんだよな。


「りょこうにいきたい!」


 旅行に行きたい。とにかく行きたい。何処か見知らぬ土地に行きたい。珍しい物をみながらその土地特有のものを食べたい。旅行が! したい!

 ここに来てからというものの、俺は殆ど旅行が出来ていないでいる。この国に来てすぐの頃は旅行気分で色々と楽しめたけど、家を持って住むようになってからはそんな気分とっくに消えてしまった。移動範囲も狭いし。しかも最後に遠出をしたのはヴェルメラ山でペティラを見た時だ。ぶっちゃけ、その後五歳になってしまったから旅行どころか家から出てすらいないんだけど。


「でかけたい! めずらしいものみたい! たべたことないものたべたい! でーかーけーたーいー!」


 というわけで俺のストレスはマッハだ。肉体に引き摺られているからか、駄々を捏ねたい気持ちしかわかない。こうやって暴れていればヴォルクがどこかに連れて行ってくれるような気がしてやってる。この際プライドなんて関係ない。俺は旅行に行きたい。


「あー、分かった分かった、護身用魔法陣を配布しに行く時に連れてってやるから……」

「とおかごじゃん! やだ! そんなにまてない!」


 しかも自由に楽しめないやつだろ! 俺知ってる!

 旅行は自由気ままに見たいところを見ながら、その地域ならではのものを食べ歩くのが醍醐味だ。誰かの用事について回るだけの出張みたいなやつは旅行とは認めない。時間に縛られるなんてもっての外だ。それに十日も待てない。行けることなら今すぐにでもどこかに行きたいぐらいなんだから。


「うーむ……確かに、旅行に行けるのは一旬(とおか)後だが……。じゃあ、その代りにその旅行で面白いことをするっていうのはどうだ? で、その準備の為に一旬(とおか)使う」

「おもしろいことってなんだ?」


 それが本当に面白いならその話に乗ってやらないこともないけど、面白くないんだったら嫌だぞ。俺は疑り深いのでちゃんと詳細を聞くまでは判断しないんだからな。


「ここに、微量の魔力が含まれる特殊なインクがある。このインクを使って、かつて居た何者かの手記を書くんだ。いろんな情報を何枚にも分けて書いて、旅行先に持っていく。で、各地にそれをこっそり隠して回る。隠し場所はそうだな……偶然見つかる、ぐらいのところがいいな。全く見つからなくてもつまらないし、すぐに見つかってもつまらないからな。ああ、中でも一番重要そうな情報が書かれているものだけは一番見つかりにくい場所に隠そう。理想は世界各地にちりばめることだな。商人の荷物の中にこっそり忍ばせるなんてどうだ? まあ、上手くいけばインクの魔力と合わさって、それが本当に起こっていることだと錯覚することぐらいは出来るだろうな」

「……それは……」


 それは、ゲームでよくある謎の手紙を集める系イベントのアイテムを作るということだ。本編では見えにくいストーリーの細部を別視点から知ることが出来るようなあれだ。

俺の全くの空想で作ることにはなるが、俺には神に授けられた文章力がある。そこに微量の魔力が合わされば、確かに錯覚させるぐらいのことは出来るだろう。上手くいけばの話だが。

 ちょっとした落とし穴をつくる感覚で、争いの絶えないこの世界にほんの少しのイベントの種を作る。それはきっと楽しいだろう。楽しいに決まっている。だって想像しただけでこんなにも楽しいのだから。


「やる!」


 気づけば俺は元気よく返事をしていた。まあ、仕方ないな。だって面白そうだもん。

 そうと決まれば十日で出来るだけ細かく設定を練って何枚か書かないといけないな。今回行くのはレオマティア国内だからそんなに書いておかなくてもいいとは思うけど、各地に散らばらせることを考えるとある程度は作っておきたい。一から十まであるとして、二と七だけ見つかればその前後が欲しくなるのが人間というものだ。この世界に暮らしている種族は人間だけじゃないんだけど。

 俺は早速ペンを取って設定を練り始める。旅人の手記もいいが、謎めいた感じがあった方が良さそうなのでとある研究者の手帳、という設定にしよう。この研究者は世界を揺るがすような『何か』を作るため、日々実験を繰り返している。

 世界を揺るがすような『何か』でまず初めに思い浮かぶのは世界の滅亡だけど、魔王だらけのこの世界でそれを企むのはちょっと無理があるな。魔王ならまだしも、ただの研究者が企むにはどう考えても力が足りない。研究者だからこそできて、魔王にすら影響を及ぼすような何か……若返りとか、クローンとかかな。

 好みなのはクローンだな。若返りだと魔法でどうにかなりそうだけどクローンなら細胞をどうとか科学っぽいことが入ってきそうだし。

 どうせだったら、魔王たちの細胞から作り上げる人造の魔王というのはどうだろう。其々の魔王の力を手にしているので、各魔王よりも強い。そのためにはまず魔王のクローンを作ったり、魔王の力を研究する必要があるよな。


「そういうのならフルトゥニスの研究者ってことにするのがいいと思うぞ。リアリティが出る」


 フルトゥニスとは九つある国の内の一つだ。レオマティアから行くにはもう一つ国をまたがないといけない場所にあるので少し遠い。雷の魔人が魔王をやっている国だったと思う。でも研究者がいるようなイメージは無い。


「ああ、あそこは肉を培養する為にいろいろやってるんだよ。もう培養肉は出来てたんだったかな」


 かなり疑問だったので素直にヴォルクに聞いてみるとそんな答えが返ってきた。まさかの培養肉。SFっぽいワードが出てきたので素直に驚く。そうか……魔法が発達しているからって科学が全くないわけじゃないんだな。何の肉を培養しているのかが気になるところではある。

 それはさておいて、培養という概念があるということがわかったし、これなら細胞をうんぬんかんぬんとか書いてあっても問題ないよな。問題があるとすれば、俺にその道の知識が無いことだが……まあ、世界各地に散らばっている紙にそこまで具体的なことが書いてあるわけもないし。その辺りは知識がある人たちでなんとか読み解いてもらおう。

 よし、じゃあまとめよう。

 これを書いたのはフルトゥニスのとある研究者。彼は九柱の魔王の力について研究していて、魔王の力を超えるものをつくりだそうとしている。彼が行きついたのは九柱全ての力を掛け合わせて新たな個体を生み出すという考え方。そのためにはまず、魔王の細胞を採取してそれを培養し、魔王の力を再現しなくてはならない。


「なあヴォルク。実在しない魔王をここに書くのってアリか?」

「いいんじゃないか? 歴史に残らなかった魔王が居るかもしれないってだけで随分と面白くなりそうだ」


 俺の書いた設定を読みながらヴォルクはニヤニヤと笑ってそう言った。多分今なら何を言っても全肯定してくれると思う。なら、全肯定してくれる間に際どい設定とか全部決めてった方がいいよな! こういうのは勢いが大事だ。この身体でどこまで出来るか分からないが、深夜テンションを求めにいくぐらいの気持ちで作ってやろう。

 こうして、旅行に行くまでの十日間で俺は二十枚の『とある研究者の手帳』を書き上げた。それが、今後この世界にどんな影響を与えるかなんてこれっぽっちも考えないまま、俺とヴォルクはこれを世に放った。

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