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二ページ目:流されるままに

 重たい瞼を開けると、眩しい青空が広がっていた。

 爆撃の音は聞こえない。ここでの戦闘は終わったようだ。


「うー……ん、よし。やっぱり()()()みたいだが……まあ、無事だな」


 変なところで寝ていたから身体が痛い、というのは置いといて、岩壁にぶち当たった時の痛みはどこにもなかった。「あー、あー」と声を出してみるが問題なく出る。心なしか声が高くなっているような気がするが、それはまあ、そういうことだろう。

 よっこいしょ、とオヤジくさく声を出しながら立ち上がる。元々岩だらけの荒地だったが、先の戦闘で更に酷いことになっていた。まだポツリポツリと生き物の身体のようなものが転がってるし、煙に混じって血の匂いもする。

 全く、最悪だ。せっかくの観光が台無しじゃあないか。

──もっとも、この世界で安全に観光ができる場所などとっくにないのだけど。




 俺がこの世界に転生をしたのは今から五年ほど前のことだ。

 自称神によって能力と祝福を授けられた後、俺はこの世界唯一の人間の国にある宿の一室で目を覚ました。

 夕陽のようなオレンジの長い髪に、アメジストの瞳。

 三十代の冴えない病弱サラリーマンだった俺は、十代の誰がみても『可愛い』と口にするような少女に生まれ変わっていた。

 異世界転生においてよくあるパターンだけど、いざ自分がなってみると超困惑する。「俺、女の子になってる!?」ってね。

 名前は男だった時──前世とでも言えばいいのか──と同じ名前、カナメを名乗ることにした。違う名前でもよかったのだが、特にいい名前が思い浮かばなかったし、なにより別の名で呼ばれても自分のことだと気付けない気がしてしまったのだ。

 自分がどんな姿かを把握した後で俺が真っ先にしたのは、紙とペンを用意して『絵を描く』ことだった。もっと正しく、分かりやすく言うと、『あの自称神が本当に俺の注文通りの能力を授けてくれたのか確認』をしたのだ。

 俺があの自称神に願った能力は三つ。

 一つ目は、『なんでも思い通りに描ける画力』。

 二つ目は、『どんな者の心にも響く文章力』。

 そして三つ目は、『覚えておきたいものだけを鮮明に覚えていられる凄い記憶力』だ。

 どれも前世の俺が欲しくて欲しくて堪らなかったものである。

 三つの能力を試すため、俺は一瞬だけ窓の外に見える景色を見て、それを紙に描き、更にその風景を描写する文を書いた。そして出来上がったものを見て確信した。あの自称神は本当に俺の願いを叶えてくれたのだと。

 思い通りの能力を手に入れた俺は、この世界を旅することにした。旅といっても魔物やらと戦って世界を救うような、そんな英雄譚として語られる冒険なんかじゃない。


 本当にただの観光目的の旅行だ。


 旅行をするにあたって一番最初にしたのは資金集めだ。お金がなきゃ宿も取れないし飯も食えない。最悪国に入れない可能性だってある。

 親切な自称神が数日分は過ごせそうなお金を用意していてはくれたものの、これだけでずっと過ごすわけにもいくまい。せっかく女の子に生まれ変わったんだからお洒落だってしてみたいしな。

 しかし、かと言って俺には魔物を退治して稼ぐようなことはできない。絵が上手いだけの、か弱い女の子だからな。

 というわけで、俺は能力を最大限に生かして絵を描いて売った。この国の街並みを写真同然のクオリティで描いていったら割と売れた。貴族と思わしき連中に気に入られたのが大きかったかもしれない。

 こうして絵を売って十分な資金を得た俺は、この国でこの世界に関する知識を蓄えつつ、この世界の絶景ポイントを目指して旅行を始めたのだった。




「過去に戻ってやり直せるのなら、転生の時に戻りてぇ……一つぐらい戦闘に関する能力を願っておけばよかった……」


 ホロリと涙が出そうになる。

 目の前に広がる惨状は、俺が夢見た絶景とは真逆のものだ。おかしいな、こんなものを見たかった訳じゃなかったのにな。

 戦闘に巻き込まれたお陰で服もボロボロだ。一回り俺が縮んだお陰で色んなところがはみ出るあられもない姿を晒すことにはなっていないが、それにしたって……それにしたって!


「流石にこれ以上死んだら不味いよな……次死んだら十歳以下の幼女になりかねないぞ……」


 自分で口にしてゾッとした。

 例え中身が大人(おっさん)だとしても、流石に身体が幼女だったら世界を闊歩することすら出来ない。というか、幼女になってしまったら筋力やら体力やらが無くなって観光どころじゃなくなる。それはなんとしてでも避けなければ。


「クッソ……あの自称神め! 余計なモン寄越しやがってェ……!」


 恨み言が自然と口から溢れた。

 俺が転生した時、自称神が『祝福(プレゼント)』とか言って俺に寄越したもの。

 それは、いくら死のうとも生き返るが、生き返る度に若返るという能力──『逆行する不死(アンデット・リバース)』だったのだ。

 この能力のお陰で、俺は五年経った今でも十代のままだし、もっと言えば転生の時は十七歳くらいだったのに、今じゃそれより若返って十三歳ぐらいだ。まったく、なんてことを。

 いや、そもそもの話だ。

 そもそも、この世界でこんなに日々争いが絶えないなんて話を聞いてなかったのがいけないんだ。

 魔法があるとは聞いた。

 魔物がいるとも聞いた。

 この祝福が無ければ、俺なんてすぐに死んでしまうだろうとも聞いた。

 だけど、この戦争は聞いてない。


「魔王が九柱揃って権力争いしてるなんて先に教えておけよなァッ!!」


異世界転生でTSまで盛るの、悩みはしたんですけど見た目にそぐわない言動に萌えるタチなので強行します。

性癖には素直に!

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