十四ページ目:研究のままに
ディミオは色々なことを俺に教えてくれた。
例えば彼らが今まで巡ってきた土地のことや、戦争の発端から今現在の戦況。これまでに見てきた美しい景色や、美味しい食べ物の情報なんかも教えてくれたし、錬金術に関する知識についても教えてくれた。
驚いたのは戦争の発端だ。世間一般では、『自分の領地では満足いかなくなった魔王たちが領地を広げるために戦争を始めた』としているが、実際はそうではない。闇刻の内に一国の魔王が倒され、新たな魔王が生まれ、その新しい魔王が八柱の魔王に宣戦布告したのだ。必ず全員を打ち滅ぼすと。すべての国を滅し、一纏めにして己の手中に入れるのだと。
そうしてある日突然、一柱の魔王によって戦争が始まった。ただ、それは静かな水面に石を投げ入れた程度のきっかけに過ぎず、これに乗じて他の魔王や国民たちが争いを始めたのが今の戦争に至る。
「ボクたちはぁ、そんな世界を鎮める為に旅をしてるんだよぉ。まあ、ボクたちっていうかぁ、ラルガが、なんだけどねぇ。ボクとリミテラーはほとんどオマケなんだぁ。クラレオはよく分かんないけどねぇ」
言いながらディミオは採れたての雑草を丁寧に種類別に分けて、水洗いをしていく。魔法でぱぱぱーッというわけにはいかないらしい。
「ところでぇ、キミはどうして彼と出会ったんだい? こんな家をくれるってぇ、どういう関係?」
彼、というのはヴォルクのことだ。そういえば、世界を旅して見た景色を絵に描いてるという話はしたけど、そこからどうやってこの家に住み着くようになったかについては話してなかった。
俺とヴォルクの出会いについては特に隠すような話でもないし、俺の能力のことだけ伏せて岩山でのことを話した。ついでに、植物図鑑というところはぼかして、絵についての依頼をこなしてその報酬にこの家をもらったという話もした。
「くッ、フフッ、ふふふふふ! キミは想像を超えていくねぇ! どうせキミのことだ、本当はその岩山から自ら飛び降りたんじゃないのー?」
全てを話し終えるとディミオは腹を抱えて笑った。そんなに笑うような話だっただろうか。
能力についてぼかす為に、『岩山から飛び降りた』という部分を『足を滑らせて落ちた』ということにして話だけど速攻でバレた。鑑定スキルを持つディミオはもしかしたら俺の能力についても見抜いてるかもしれなかった。
「なるほど、なるほどぉ。そっかぁ。だから彼はキミに対してあんなに優しいんだねぇ。ふふふ、彼は本気でキミが岩山から落ちてしまったと思ってるわけだ……ふふッ」
「……ちょっと笑いすぎじゃないか?」
「いやぁ、こんなの面白すぎて笑っちゃうってぇ。んふ、キミは彼がどれだけ怖いか知らないからそんなことが言えるんだよぉ。この前の彼の顔、キミはちゃんと見てないでしょう?」
確かにこの前初めて機嫌の悪いヴォルクを目の当たりにしたわけだけど、だからってディミオがヴォルクの何を知っているのだろうか。その言い方はヴォルクを前から知っているように聞こえるけど……。でも、よく考えてみればクラレオが最初から敵意剥き出しだったし、もしかしたら前々から知っていたのかもしれない。
「会うのは初めてなんだけどねぇ。キミは知らないだろうけどぉ、実は彼、ものすごーく、有名な人なんだよぉ」
ディミオはクスクスと笑いながら不思議そうな顔をする俺にそんなことを言った。へぇ、ヴォルクって有名人だったのか……。まあ、あれだけ顔が良いんだし、イケメンとして有名になってしまっても仕方ない気がする。それに、岩山から落ちてきた俺を飛んでる状態で受け止められるってことは高度な技術を持っているんだろうし、家やら巨額の報酬やらをホイホイと俺に与えられるぐらいだからそれなりの金持ちでもあるんだろう。金持ち、というところに着眼すれば身なりといい動作といい高貴さが滲み出ているような気がしなくもない。
ちなみに、滲み出る高貴さでいえばディミオも負けていない。飲んでいるのは雑草茶なのに、飲む姿は動作の一つ一つが美しい。作法をきちんと心得ているのだと感じられる。服装もどことなく御坊ちゃま感が否めないし。まあ、本当に御坊ちゃまだったら錬金術なんて嗜んでいないだろうし、勇者と共に戦争を止めるための旅なんてしないと思うんだけど。
ディミオに手伝ってもらい始めてから、雑草茶は随分と改良された。味は前回の奇跡をそのまま生かし、性能に重きを置いた改良を進めた。お茶にするなら、一度茶葉を作っておけば好きな時に飲めるし作り置きも可能になるから、作る工程にどれだけの手間があってもいいと気付いてからは性能がグンと上がっていった。素材はあくまでも雑草に拘り、葉、茎、花、根と各部位に分けて処理を行なっている。
「雑草一番の強みはぁ、根っこだと思うんだよねぇ。根っこさえあれば幾らでも生えてくるしー」
というディミオの呟きをきっかけに、雑草茶の主成分は根の部分にすることにした。これまでは葉や茎の方がそれっぽいという理由だけで使っていたが、効果を考えたらこっちの方がいいのか、と納得させられた。
根の処理は地面から引き抜いた後丁寧に土などを洗い流すところから始まる。洗い終えたらひげ根タイプのものはそのまま乾燥、主根、側根タイプのものは側根を削ぎ落としてから主根を細かく刻んで乾燥させればいい。単純だけど純粋に数が多いし、洗い方が雑だと茶を入れた時に土の味がして最悪な気分になった。
葉と茎は先に乾燥させてから強めの力で揉んで、そのあとでじっくりと蒸していく。蒸し終えたらまた乾燥させる。朧げな記憶だけど、これは確か紅茶を作るときの工程と似ていた気がする。蒸す時間は今のところ勘だ。どの蒸し時間が一番いいのかは味と性能を見ながら追々考えていく予定だ。
根と葉と茎は乾燥し終えたら軽く煎ったほうが飲みやすくなるような気がする。別に煎らなくてもいいが、それだと雑草感が少し強くなる。煎ると香ばしさが出て草独特の青臭さみたいなものが抜けていくような気がする。
こうして出来上がったものと、乾燥させただけの花を最後にブレンドすれば雑草茶の完成だ。ブレンドの割合は完全に適当だ。材料にした雑草をそのまま全て使っているのでその時によるというのが本当のところだ。大事なのは花と根と葉と茎の割合じゃなくて、どの雑草をどのくらい混ぜるかなので気にしなくていいのである。
「やっぱりこれが限度みたいだねぇ。これ以上の性能は今のボクじゃ見込めそうにないやぁ」
最後に出来上がった茶葉を鑑定すると、ディミオはため息をつくように言った。試行錯誤を重ねて雑草茶は無事に飲める味へと進化したのだが、やっぱりどうしても性能の面で回復ポーションに劣るのである。飲むと擦り傷が治る程度の回復力しかない。あとは飲んだあとはしばらく回復速度が上がるのを強みにするしかないだろう。
「もしかしたらだけどぉ、毎日これ飲んでたら雑草みたいな再生能力を手に入れられるかもだけどねぇ。その辺りは良くわかんないやぁ」
眉を下げて笑いながらディミオはそう言った。もしそれが本当だったらどんなにいいことか。俺の理想である死亡率の低下に直結する。……実験も兼ねてこれから毎日飲んでみようかな。
「話は全く変わるんだけどねぇ」雑草茶を飲んで一息ついてから、ディミオは改めるように言った。「明日、公式に魔王様に会える事になったんだぁ。で、魔王様に会ったあとは最悪ボクたちここを追い出されると思うからぁ、キミとはしばらくお別れかもしれないんだぁ」
公式に会ったあとで国から追い出されるって何をするつもりなのだろうか。戦争を止めるために魔王に会うのだから、魔王の協力を得られればいいと思うけど……この国の魔王、ヴォルケルド・レオマティアとそういう関係にはなれそうもないってことなのだろうか。うーん、分からん。というか知らんけど。
せっかく仲良くなったディミオと別れるのは惜しいけど、引き止めるほどではない。俺もこれからまた旅行をする予定だし、ディミオたちも旅をしているわけだし、多分またどこかで会えるだろう。生きてさえいれば永遠に会えないということはないはずだ。
「次に会った時には、何か面白い物でも用意しておくよ」
「それなら旅行のお土産話を期待してるよぉ。キミのことだからぁ、また何かやらかしてくれそうだしー」
俺たちはクスクスと笑い合ってそんな約束をした。
そうして別れて、次の日からディミオが俺の家を訪ねてくることは無くなった。勇者一行はまた戦争を止める旅に出ていったのである。




