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一ページ目:欲望のままに

「こんの、クソッタレがァァァァッ!」


 泣くしかない。喚くしかない。後は必死に逃げるしかない。

 自分の持てる最大限の速さで、俺は背後で轟く爆音から逃げ回っていた。

 自強化スキルだとか、そういう系の薬だとか、風のように駆け抜けられる装備だとか、そういった便利な物は一切無い。そもそも俺は戦地から脱兎の如く逃げられるような技術は持ち合わせていない。

 唯一持ち合わせている技術は壁役(ガーディアン)なのだ。

 壁が逃げていい訳がない。


「って言いながら逃げるんですけどねェッ!」


 誰と会話してるわけでもないのだが、叫んでいなければやってられない。叫んだ分だけ体力を消費するのは重々承知しているが、叫ばないことにはテンションを保てない。この狂ったテンションを維持し続けなければ、俺はここから逃げ切ることができないのだ。

 っていうか、なんで俺ってばパーティを組むわけでもないのに(ガーディアン)の技術だけ覚えたんだろうなぁ!? 何を護るってんだよ! いや、俺自身を護る為に生存率を上げる為に選んでるんだけどさァ!

 背後で一層大きな爆撃音が響いた。ついでに熱もやってきて、更に言えば爆発の衝撃がやってきた。そりゃそうだよな。結構な至近距離で爆発しやがったもの。


「ぅぐァッ!」


 喉のあたりから変な声が漏れる。

 俺の身体は簡単に宙を舞って、簡単に岩壁にぶち当たった。

 カヒュッという空気の漏れる音と、メキメキという身体の骨が軋む音がした後に、俺は無様に地面に落ちた。痛みはまだ来ていない。脳が衝撃を把握しきれなかったからだ。けどそれもじきに──


「────ッ!! ァ、ぐ……ッ、」


 ヤバい。声すら出ない。

 痛過ぎて何処が痛いのかも分からない。だが痛いのは確かだ。身体は指一本として動かせないのでのたうち回ることすら出来ない。

 息が出来ているのかも分からない。視界はチカチカと点滅を繰り返すばかりで当てにならない。

 畜生、こんなことならもっと役立つ──例えば『最強』と名乗っても遜色無いような能力だとかそういうものを願っておけばよかった。




 何かとベッドの上で天井を見つめるような人生を送って来ていた。

 壊した事のない内臓が無いと言っても過言では無いのかもしれない。まだまだ三十代だというのに、入院した回数は子供の頃から累計するとどんな数字になるか分かったもんじゃ無いし、入院していなかったとしても自宅で療養していた期間は人生の半分を占めていただろう。

 行事という行事を見学して来たし、見学が出来ればいい方だった。修学旅行みたいな一大行事にはまず参加が出来なくて、悲しいことに遠出をしたことがなかった。

 だから俺が知っている景色は、自宅と病院、学校と会社。あとはその周辺だ。

 こんな貧弱に貧弱を重ねた貧弱を極めたような身体をしていたから、自分が死んでしまったという現実に対して特に取り乱すこともなかった。


「なんというか……運命のバランスを大いに間違えちゃったみたいだね。我がそうしたわけでは無いんだけど」


 妙にフランクな口調で言うのは、神を名乗る謎の人物だ。男か女かも分からない。本人曰く、性別的な概念を持っていないそうだ。神だから。

 いや、神だって男か女かぐらいの概念はあるだろうに、と突っ込みたいところだったが、俺の死因について話し始めたのでタイミングを失った。無念。


「キミは心筋梗塞で亡くなったよ。熱中出来ることを見つけてしまったことが災いしたね。無茶が出来ない身体だってことは自分が一番知っているはずなのに、無理を通してポックリ逝った。……まあ、それだけ貧弱な身体が出来上がったこと自体がそもそものエラーなんだけどね」


 そりゃあそうだよなぁ。

 改めて言われると納得するしか無い。仰る通りだ。ぐうの音も出ない。だけど、俺にはそれを我慢することは出来なかった。

 そう考えると最期は自分のやりたいことをやって死ねたから御の字か? 悔いがないか、と言われればそれは明らかにノーだが、でも最悪じゃあ無い。あとは来世の肉体がもう少し丈夫であることを願うぐらいだ。


「うん、そのことなんだけどね。これから我が慈悲をキミにくれてやろうってことにしたよ。今のキミの精神はそのままに、別の世界で別の肉体で全く違う人生を謳歌させてやろう。なぁに、我は神だ。そのぐらいのことはチョチョイのチョイさ。ちなみに拒否権はない。神ってのは気紛れなのさ。拒絶したら最期、キミという存在は抹消される」


 自称神はそう言ってニヤリと笑った。その顔には『一度やってみたかったんだよね』と書いてあるような気がしてならない。

──うん、知ってるぞ。ベッドの上のお供に読み耽ったあれやこれやに混じっていた。要は異世界転生ってやつだな。


「そうさ。話が早いね。いやー、他の神がそういうの一杯やっててさー、我も一度やってみたかったんだよね。だって面白そうだろう? ほら、キミのいた世界でもそういうのを娯楽として扱うぐらいだし。それはもう、好奇心旺盛な我としてはやってみないわけにはいかないのさ。で、やりたいと思った矢先にキミがポックリしてくれた。だから勘違いしないで欲しいのは、キミだから助けてやったんじゃない。タイミングよくやって来たのがキミだった、というだけの話だ」


 俺が選ばれた訳ではないと、そんなに強調することだろうか。強調しすぎてその裏にある言葉をついつい疑ってしまいたくなる。


「強調するさ。そうでないと、キミが神に選ばれた者になってしまうからね。神に選ばれたら最後、無駄に大きな運命を背負って世界の為に奔走しなきゃいけなくなる。そういうのを創るのは他の神がしときゃあいいんだよ。我の趣味じゃあ、ない」


 ああ、でも。と自称神は続ける。「せっかく我と目見えてるんだ。他の神がやってるみたいに、転生後のキミがどんな能力を有するか、そのぐらいの要望は叶えてやるつもりだよ? そのまま何の能力もない凡人を生み出しても我がつまらないだけだしね。だからほれ、適当に欲しい能力を三つか四つ上げていきなよ」

 話を聞く限り動機は完全に子供染みたそれだが、願っても無いことだったので鼻で笑って一蹴する訳でもなく、俺は心の底から欲しいと願う能力を三つほど口にした。


「──キミって奴は……」


 それを聞くと自称神はポカンと表現するのが一番相応しい表情を浮かべて、それからニヤリと笑った。そして言う。「一周回って最高だね。いいよ、最高に面白い」

 俺の願いを聞き届けると、自称神は一枚の紙を俺に差し出した。それを何も言わずに受け取ると、視界が真っ白な光に包まれていく。自称神の姿は見えなくなって、声だけがぼんやりと脳に響いてくる。


「いいかい、その紙がこれから行く世界さ。これまでの世界とは違って、魔法が存在する世界だ。魔物もいるし、人間以外の種族で繁栄する国も多くある。一応、最初は人間の国で住んでいることにしておいてあげるけど、その後は自由だ。好きなところで好きなように生きるといい。ああ、あと一つだけ我から祝福(プレゼント)をしておくよ。神に選ばれた運命を背負わないにしろ、多少の特典はつきものなのさ。それに、それが無いとキミはまたすぐに死んでしまいそうだからねぇ──」


 最後の注意書きが無駄に長い奴だ。

 心の中でそう毒付いた頃には視界は暗転して俺は闇の中に包まれていた。


初めてやりました、異世界転生もの。

転生する必要性を考えつつ私らしい味付けにしていきたいものですね。

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