18「そう、だな、受けてみるのもいいか」
「あとこの子の魔法適性を調べてくれ」
「かしこまりました。ではティル様、こちらの石板に触れて魔力を流して下さい」
「は、はい」
ティルは石板を受け取り、言われた通りに魔力を流した。すると石板の上に炎の塊が出現する。拳大くらいの炎であり、燃える勢いが半端ないが、不思議と熱くはなかった。
「これは素晴らしいです。魔法適性は十分にあります。属性は火ですね、この大きさですと文句なしのAです。それにこちらに風のシンボルも見えますので、風属性にも適性はあるようです。こちらはCといったところですね」
受付嬢が言ったように、確かに炎の塊に隠れるようにして小さな竜巻があった。なるほど、適性のある属性のシンボルが出現するのか。いまの言い方だとシンボルの大きさで、どの属性がより使えるかわかるようだ。
ティルは火属性に一番適性があるらしい。それはそうだろ。ティルの魔眼は緋眼といって炎を操る超攻撃特化型だ。なので、得意な属性も火に決まっている。風は火と相性がいいから適性があったのだろう。
「この歳でこれだけ高い適性属性を持っているとは、ふふ、将来有望ですね」
「あ、ありがとうございます」
あまり褒められ慣れていないティルは、顔を真っ赤にし俯いてしまう。それとは逆に主人を褒められたルビーは、我がことのように胸を張っていた。
「それとこちらはギルドの利用規約が載っている冊子になります。わからないことがありましたらいつでも訊いて下さい」
「ああ、わかった」
まぁ、こっちにはオールがいるから、訊くことなどないと思うがな。一応冊子は受け取っておくか。情報収集は大事だからな。
「クロム、試しに依頼を受けてみるか?」
いきなりオールがそんなことを言ってきた。依頼か、どういうものなのか一度経験してみるのもいいのかもしれない。
冊子によると依頼をこなしランクを上げていくシステムのようだ。依頼は採取、討伐、雑務、護衛、指名、緊急の六種類あり、こちらの意思で選んで受けるものもあれば、強制のものもある。依頼にもランクがあり、自分のギルドランクと同じか一つ上のランクしか受けられない。
いまの俺だったらFランクかDランクの依頼しか受けられないことになる。
「そう、だな、受けてみるのもいいか。どうせならティルも一緒に受けられるものがいい」
「では、こちらなどいかがでしょうか」
俺たちの会話を聞いていた受付嬢が、一枚の依頼書を見せてきた。
「Fランクの依頼でして、農家での作物収穫の手伝いです。こちらは見習い専用の依頼ですが、同じ農家からFランクで柵の修復依頼も出ているので、初めての方にはうってつけかと」
「なるほど、それなら俺もティルも受けられるな。ーーティルどうする?」
「受けます! 受けさせて下さい!」
元気に手を上げるティルに、俺は頷く。
「この依頼を受ける。手続きを頼めるか」
「承知しました。この依頼の期限は一週間です。依頼達成は期限内でお願いします。それと依頼達成の際は、依頼主からサインをもらうのを忘れないで下さい。それがないと依頼達成とは認められませんので」
「わかった」
依頼書を受け取り懐にしまう。さて、ここでの用事はだいたい終えたし、そろそろ移動しようと思う。それをオールに告げれば異論はないようで、俺たちはギルドをあとにした。
その後は街の中を巡り、武器やポーション類、雑貨などを揃えていった。
俺は適度な値段のショートソードを二本購入した。値段が値段なだけに質はあまりよくない。だが、俺にはそれで十分だった。ようは剣として使えればいいのだから。
ティルには魔法初心者でも使いやすいとオススメされた杖を買ってやった。シンプルなデザインではあったが、杖の先端に赤い宝石が埋め込まれていて、そこがワンポイントになっているようだ。
それと魔法書。値段は一冊金貨三枚と高額だったが、読むだけで魔法を覚えられるということでティルのために購入した。火魔法の初級、中級、風魔法の初級、とりあえずこれだけ使えるようになれば、それなりに戦えるようになるだろう。
これからは依頼を受け、情報を集めていくのだ。討伐依頼も当然あるわけだし、ティルにも自衛するだけの力をつけてもらわなければ。
ルビーもいるが、あれの元はティルの魔眼。いずれはティルの中へ戻るべきものだ。
しかし魔法を覚えても魔力制御ができなければ、宝の持ち腐れなわけで。そこは俺が徐々に教えていこうと思う。せっかく杖も買ったわけだし、杖術も並行して教えよう。
そうそう俺とティルは武器を買ったが、オールは何も買わなかった。オールの剣は俺が折ってしまったため、いまは丸腰のはずなのにだ。
「俺のことは気にするな」とのことだったが、一応一振りのロングソードを買い、俺のアイテムボックスへ入れておいた。これでオールが武器を必要とした時には、すぐに取り出せる。
何かあった時のためにポーションも買った。初級の安い物だが、ないよりましだろう。擬骸に設定されたスキルに回復魔法があるから、使う機会はないだろうが、まぁ、念のためにである。