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17「素晴らしい。予想以上だ、マダム」

 次に入った店は、庶民向けの古着屋だった。さっそくティルの服を選ぼうとしたところで、店番をしていた恰幅のいいマダムに声をかけられた。どんな服を探しているのか訊かれ、俺は迷うことなく答える。


「この子に似合う服を探している。なるべく動きやすい物で、且つこの子の可愛さを引き立たせる物がいいんだが、あるだろうか?」


「お前……、面倒くさい注文つけるな」


「何を言う! 大事なことだろうが!」


 呆れたように呟くオールに、俺は真っ向から反論した。可愛い子に可愛い格好をさせるのは当たり前のことで、決して面倒なことではない。


 俺が力説しているなか、オールはマダムに声をかけ、ティルの服を見立ててくれるよう頼んでいた。


 マダムはにっこりと笑い、ティルを連れて奥の試着室へと消えていく。俺がそのことに気づいたのは、ティルがいなくなってから五分後のことであった。


 ティルが試着室から戻ってきたのは、それからしばらく経った頃だった。


 控え目にフリルがあしらわれたチュニックにかぼちゃパンツ、細い足は黒タイツで覆われており、上着として髪と同じ色のポンチョを羽織っている。


 動きやすい上にとても可愛らしい。まさに俺の注文どおりのコーディネートだ。やるな、マダム。


 ティルは恥ずかしそうに俺の前まで来て、上目遣いで見上げてきた。うん、これは破壊力抜群だ。他の男の前ではしないように、あとでよく言い聞かせておこう。


「あの、クロムさん、どうでしょうか?」


「似合っている。見違えたぞ、ティル」


 俺が誉めると嬉しそうに笑った。その目元が微かに濡れていたが、気づかないふりをしてやさしく頭を撫でてやる。


「まずは幸せ一つだな。これからまだまだ幸せはやってくるんだ。楽しみにしてろよ」


「ーーはい!」


 昨夜、光漂う中で話した内容が現実になるように、俺はお前に幸せを届けよう。


『ご主人、ご主人、とっても似合ってるぜ』


「ありがとうルビー」


 ルビーを抱きしめ笑っているティルを眺めていると、マダムが隣にやってきた。


「どうだい? あんたの注文どおりにしたつもりだが」


「素晴らしい。予想以上だ、マダム。いいセンスをしている」


「やだよ、あんたみたいな若者にマダムなんて呼ばれたら照れちまう。あたしのことはセリエと呼んどくれ」


 マダム改めセリエはからからと笑った。とても気持ちの良いご婦人だ。最初からこの店にくればよかった。


 俺はセリエに、もう何着かティルの服を選んでもらい、ここでの買い物は終了した。


 さて、次は冒険者ギルドだな。明が持っていた小説では、新人が絡まれるシーンがあったが、ここではどうなのだろう。






 結論、特に何もなかった。ガンをつけられることも絡まれることもなかった。物珍しげに見られはしたが、それだけだ。


 まぁ、それもそうか。俺とティルだけだったらわからなかったが、今回はオールがいるのだ。明らかに場慣れしている奴が共にいるのに、絡んではこないだろう。


 それにしてもギルド内は、思っていたより人が少なかった。奥のほうには食事ができる所もあるっぽいが、そこにもあまり人がいない。


 俺が辺りを見回している中、オールはさっさと受付まで歩いていっていた。オールの接近に気づいた受付嬢は、見事な営業スマイルを浮かべる。


「いらっしゃいませ、冒険者ギルドラウルス支部へようこそ。どのようなご用件でしょうか」


「この二人のギルド登録を頼む。それとこの子のほうは従魔登録も」


「承りました。では始めに、こちらの登録用紙にご記入願います。文字が書けない場合は代筆も致しますが」


「いや、必要ない。ーーおい、クロム、お前は自分で書けるな? ティルの分は俺が書こう」


 オールから用紙を受け取った俺は、まず内容を確認した。名前、年齢、種族、職業、基本的な情報を書くようだ。しかし書くといってもこの世界の文字は書けないのだがな。オールもなんの根拠があって、魔物の俺が書けると思ったのか。まぁ、それっぽく英語で書いてみるか。きっと異世界言語がいい仕事をしてくれるだろう。


 スラスラと書いていき、職業の欄は適当に双剣使いと書いてみた。


「できた」


「こちらもだ」


 どうやらオールたちのほうも書き終わったようだ。俺よりも少し遅れて受付に用紙が出された。


「ありがとうございます。ではこちらの方から登録を行います」


 受付嬢はカウンターに握り拳大の水晶を置いた。それは犯罪歴を調べる時に使用した鑑定装置と似ている。


「名はクロム様ですね。恐れ入りますが、血を一滴この水晶につけてください。そうすることで、ギルドカードにクロム様の情報が登録されます」


 説明と共に針を渡され、俺はそれで指を刺し、血を水晶につけた。すると水晶が淡く輝く。


「はい、これで登録終了です。こちらがクロム様のギルドカードになります。紛失された際には、再発行するのに銀貨十枚かかりますので、お気をつけ下さい」


 受け取ったギルドカードをまじまじと見る。用紙に書いた情報がそのまま載っている他、ランクFという項目が追加されている。


 なるほど、Fランクからのスタートか。ここから依頼をこなし、ランクを上げていくのだろう。


「次はあなたですね。えーと、ティル様は12才ですので、冒険者見習いとし、後見人が必要となります。後見人の方がいなければギルドで講習を受けつつ、街の中の依頼をこなしていただきます。もちろん宿舎もご用意致します」


「いや、後見人には俺がなる」


「後見人になれるのはDランク以上の冒険者です。失礼ですが、ギルドカードを拝見致します」


「ほら」


 オールがギルドカードを渡し、受付嬢が受け取る。そこまではよかった。カードの情報を見た受付嬢が、悲鳴に近い声を上げるまでは。


「Bランクッ、あっ、二つ名まである!」


 受付嬢の声がギルド内に響き渡った。それを聞きつけた冒険者たちが、わずかにざわめき始める。


 ギルド内には少ないながらも冒険者がおり、その視線がすべてオールに向く。冒険者たちの視線を受けながら、オールは深々とため息をついた。


「ーー後見人の資格は十分だろ。登録を進めてくれ。それと大声でギルドカードの情報を叫ぶのは、受付嬢としてあまり誉められたことではないと思うが」


「あっ、も、申し訳ありません!」


 オールの非難めいた言葉に、受付嬢は顔を真っ赤にし、頭を下げた。しかし勢いよく下げたせいで、カウンターに頭をぶつけている。


 痛みに呻く受付嬢に、オールは呆れた眼差しを送りつつ、ギルドカードを懐にしまった。


「痛ー…、し、失礼しました。では後見人もいるので、ティル様のギルド登録を行います」


 俺の時と同じ手順をふみ、ティルのギルドカードも無事できた。ちなみにティルの職業はテイマーで申請したらしい。オール曰く、ルビーもいるからというのが理由だ。


 従魔登録は、タグに主人となるティルの魔力波を記録して終了した。こうすることで、誰の従魔かすぐに判別できるようにするそうだ。

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