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16「この俺が腕によりをかけてもっともおぞましい呪いをプレゼントしてやろう」

「申し訳ありませんが、当店ではあなたがたに売れるような物はいっさいございません。どうぞお引き取りを」


 丁寧な物言いではあったが、その顔には侮蔑の表情が浮かんでいた。明らかに俺たちを軽んじている男の態度に、俺は困ったように笑い静かに口を開いた。


「そうか、なら仕方ない。別の店に行くか」


 オールとティルを促し、俺たちは出口へと歩いていく。その際、金貨の入った布袋をわざと落とし、相手に中身が見えるように仕向けた。


 後ろで息を飲む気配がしたが、俺はそれを無視し布袋を拾い店を出た。


 なぜ俺たちがこんな胸くそ悪い店に入ることになったのか。まぁ、簡単に言えば俺の独断だったのだが、まずはそこまでの流れを説明しようと思う。


 始まりは、俺たちがティルの服を買うため、店を探していた時だった。


 店先にとても質の良い服を飾っている店を見つけた。その店はいかにも高級店といった外観と雰囲気を醸し出していたが、飾ってある服は可愛いし、金もあるからと俺はウインドウショッピングの感覚で足を踏み入れたのだ。


 入る前にオールから散々止められたが、たかが服を見るくらいと聞き流してしまったのは俺の失態だ。ここは地球ではなく異世界であり、人間には身分の差があるということをすっかり忘れていた。


 そうでなければ、ティルに嫌な思いをさせずにすんだのに。


 店に入った俺たちは、二人の女性店員に迎えられた。だが、二人は俺たちの姿を見た途端、困惑した表情を浮かべ、片方が奥へと姿を消す。


 不思議に思ったが、深くは考えず俺はティルの服を見繕い始めた。置いてある服は、すべてが一級品だとわかるもので素晴らしかった。


 なるべく動きやすいもので。ティルには護身術含め戦う術を教えていく予定なので、その辺りを考慮して選んでいった。


 そうこうしている内に、消えていた女性店員が、一人の男を連れて戻ってきた。男は俺たちを一瞥し、目を細める。


「お客様、当店へのご来店、誠にありがとうございます。わたくし、この店【ルナ·リェナ】ラウルス支店を任せられておりますグレゴリと申します」


 丁寧に頭を下げたものの、グレゴリの態度はどこか白々しいものがあった。


「つきましてはお客様、当店は貴族様御用達の洋服店となっておりまして、それに見合うだけの品質の物を取り揃えております。それに伴い、値段のほうも高くなっておりまして、ン、コホン、失礼ですがーー」


「俺たちが買えるものはないと?」


 グレゴリの目が、俺たちの容姿を隅々まで観察していることには気づいていた。明らかに金を持っていなさそうな男に、孤児だとまるわかりの少女、そして冒険者。貴族御用達の店にいるには、違和感ありありのメンバーだ。


 この男は、俺たちの容姿から金を持っていないと判断したのだろう。金がない者は客ではない。分かりやすい態度だった。


「そうですね、話が早くて助かります。古来より人には身分の差というものがありまして、この店にお客様がたは相応しくないと思われます。ですので………」






 そして冒頭のセリフへーー。


『なんっだっ! あの髭野郎は!!』


 店を出た瞬間、ルビーは仁王立ちになりシャドーボクシングを始めた。それでも再度、店に突撃しないのは、いらぬ騒ぎを起こさないためだろう。従魔登録はまだしていないもののティルの従魔となっているため、騒ぎを起こせば責任はすべてティルにいく。そうならないように我慢しているのだ。


『あいつ、ご主人見て嘲笑いやがった! あの髭すべて引っこ抜いて消し炭にしてやりたいぜっ』


 ずいぶんと過激なことを口走っているが、その気持ちはわかる。俺やオールのことならまだしも、ティルのことを軽んじたのは赦さん。


 俺はルビーの頭に手を置き、大きくサムズアップしてみせる。


「まかせろ、ルビー。あいつの情報は鑑定で確認済み、体の一部も入手済み。この俺が腕によりをかけてもっともおぞましい呪いをプレゼントしてやろう」


 地球産吸血鬼の本気を見せてやろうじゃないか。


「やめんかっ!」


 オールの手刀が俺の頭部に直撃する。加減なしの一撃に痛む頭を押さえながら、俺は唇を尖らせた。


「痛いな、いきなり何をするんだ」


「うるさい、得意気に物騒なことをいい放つな。ここ、街中だからな」


「だが、あそこまで言われたら腹が立つだろ」


「それはそうだが、ああいう輩もいるということだ。いちいち腹を立てていたらキリがない」


 オールにもいろいろあったのだろうか。その目はどこか疲れていて、どんよりとしている。


 俺もそれ以上は何も言わず、ぽんとオールの肩を叩いてやった。

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