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12「これはお前の使い魔だ」

 朝がきた。それでもティルは起きず、どうしようか考えていると、クーという音が聞こえた。昨日も聞いたその音に、目を瞬かせていると俺の膝の上でティルがもぞもぞと動き出す。


「うー…、おなか、すきましたー」


 眠そうにしながら体を起こしたティルは、まず空腹を訴えた。うん、健康的でよし! それを聞いたオールもどこかほっとしていた。


「おはよう、ティル」


「うぇっ、あ、はい、おはようございます、クロムさん、オールさん」


「ああ、おはよう」


「ティル、体に不調なところはないか? 特に左目」


「左、め………あ」


 ティルはそこで初めて左目に包帯が巻かれていないことに気づいた。それをきっかけに昨夜のことが思い出されているのだろう。次第に顔色が悪くなっていき、体も震え始めた。


「ティル、思い出したか? 昨夜、お前の身に何が起こり、俺が何をしたのか」


「あ、あ……、わ、わたし、クロム、さ……、もや………」


 ティルの記憶には、俺を燃やしたことが、鮮明に残っているらしい。やはりそうなってしまったか。罪悪感から涙をぼろぼろこぼすティルの頬を手で優しく包み、目を合わせる。


「ティル、確かにお前の魔眼で俺は燃えた。だが、俺は無傷でここにいるだろ」


「………」


「あれはお前の意思じゃない、暴走しただけだ。それに比べて俺はどうだ。俺は俺の意思でお前の魔眼を抉り取った、そこに指を突き入れて」


 俺はティルの左の目元をさすった。その際、わざと爪を立ててやる。


「覚えているか? 俺が抉り取った。自分の身を守るためにこんなひどいことをする魔物など燃やされて当然だ。だから、お前が罪悪感を感じる必要はない、泣く必要もない。恐がっていいんだ、目玉を抉る魔物のことなど」


 目の前にいるのは残虐な魔物。燃やされて仕方のない者。むしろ怯えればいい。罪悪感など恐怖で塗り潰してしまえ。


 それが、俺が考えたティルに罪悪感を抱かせない方法。決していい方法じゃないのはわかっている。俺の魔眼で記憶を消すこともできるが、そこだけ空白ができてしまうのはいただけない。それが魔眼に関することならなおさらだ。


「ーーーわく、なんか………りません」


「ん?」


 ティルの呟く声が聞こえる。いま、なんと言ったのだろう? 俺は耳をすまし、ティルの声を拾おうと集中する。


「恐く、なんかありませんっ! 私はクロムさんの非常食です! なら、何をされてもいい、私はクロムさんのものだからっ」


 小さな手が俺の服を掴む。自分の想いを必死に告げるその姿に、俺は呆気にとられた。


「それに自分の身を守るためって言いましたが、結果的に私の身も守ってもらっています! だからっ、恐くなんかないです!!」


 さらに涙をこぼすティルに、俺はたじろいだ。恐がらせたはずなのに、恐くないとティルは言う。なのに泣く。ああ、子供が泣いているのを見るのは苦手だ。


 どうにかして宥めようと口を開きかけた時、視界の端を白い影がよぎった。




『何、ご主人泣かせてんだっ、このロリコン吸血鬼が!!』




 怒声と共に顎に衝撃を感じた。後ろに仰け反る俺の姿に、ティルも驚いたらしく涙が止まっている。


 俺は痛む顎を押さえ、ある一点を睨みつけた。そこには純白の毛を逆立て、こちらを威嚇しているウサギもどきがいる。


「お前、やってくれたな……」


『ハンッ、この程度避けられないんじゃ、実力の程度が知れるぜ』


 流暢に喋るウサギもどきだが、口が大層悪い。おかしい。ティルの一部からなんでこんな使い魔が生まれるんだ。


 実を言うと使い魔が動いて喋るのを、俺はいま初めて目にしたばかりだった。ティルが目を覚ますまで使い魔も眠らせていたほうがいいと俺が判断したからだ。しかし目を覚ましたらこの態度とは……。


「あの、クロムさん、この子は……?」


「あ、ああ、これはお前の使い魔だ。核に魔眼を使っているから契約は必要ない。それに一時的だが、魔眼の制御を担ってもらっている。これで魔眼が暴走することはない」


『ご主人、よろしく頼むぜ! 不本意ながらこのロリコン吸血鬼に創られた身だが、オレっちはご主人一筋だからそこんとこよろしく!』


 後ろ足で立ち、元気よく喋るウサギもどき。つーか、ロリコン、ロリコンと創造主に向かってなんて言いぐさだ。


 ティルはそんなウサギもどきに若干戸惑っているようで、不安げに俺とウサギもどきを交互に見ている。


「ティル、大丈夫だ、噛んだりしない」


 俺の言葉に、ティルはおそるおそるウサギもどきに手を伸ばした。ウサギもどきは大人しくしており、ティルはゆっくりと頭を撫でる。


「ふわ、モフモフです」


 ふわふわの毛が気に入ったのか、ティルは目を輝かせ本格的にウサギもどきを撫で始めた。頭、背、腹、耳、モフるティルの様子はとても楽しそうで、もう泣いてはいなかった。


「良かったな、泣き止んで」


 横から声をかけられた。誰の声かはわかりきっているので、俺は視線を向け、頷きだけで返す。


 すると微かに笑う気配がしたのは内緒だ。きっと本人は笑っていることに気づいていないと思うから。


「そうだ、ティル、そいつに名前をつけてやれ。主人であるお前が名付ければ【繋がり】はさらに強固になる」


「名前、ですか?」


『ご主人、いっちょ格好いいのを頼むぜ』


 ウサギもどきはノリノリで、ティルは難しい顔をして考え込んでいる。


「クロムさん、この子の姿って何を参考にしたんですか?」


「ん? ウサギ、と言いたいところだが、カーバンクルという魔物を参考にしたぞ」


「カーバンクル……、じゃあ、カー……」


「ティル、その名はだめだ」


 ティルの肩をがしりと掴み、俺は首を振る。ティルが言おうとした名は、いろいろと問題がありすぎる。


「えっと、なら【ルビー】なんてどうでしょう? 額に赤い宝石がついているからそこからつけたんですけど」


 ティルがウサギもどき改めルビーを抱き上げた。自分がつけた名を気に入ってくれるかどうか不安そうにしている。


『ルビー……、いいね、気に入った! オレっちはいまからルビーだ! ご主人、格好いい名前ありがとよ!』


「えへへ、気に入ってもらえてよかったです」


 クゥー……。


 ウサギもどきの名も決まり、ほのぼのとした雰囲気の中に鳴り響く音。俺は二度目だからすぐにわかったが、オールとルビーは目を丸くしていた。

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