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10「吸血鬼の再生能力を舐めるな」

【グラシオ大森林】

 オルテンシア王国の南側に拡がる大森林。いくつもの魔素溜まりが存在し、そのせいで魔素濃度が他より濃い。棲息する魔物も魔素の影響から凶暴で、高レベルのものが多い。


 いま俺たちは、その大森林の中を馬に乗って疾走していた。オールによるとアジトから馬で二日ほど走ると街があるらしい。


 何をするにしてもまず街に行き、準備を整えるのがいいとオールより助言をもらい、なら行くかと決めた。


 そこで問題になったのが、移動手段だ。ここから馬で二日。馬なんてどこにもいない。まぁ、いないなら創ればいいと俺は影から馬(使い魔)を二頭創り出した。雄々しい姿をした漆黒の黒馬。我ながらいいものを創ったものだ。オールにはジト目で見られたが。


 さっそくティルを乗せ、その後ろに俺も乗った。残り一頭にオールも乗り、俺たちは街に向けて出発したのだ。


 俺の使い魔は普通の馬より速い。オールは二日かかると言っていたが、それよりもっと早く着くだろう。だが、出発したのが、太陽が真上に昇った頃だったので、さすがにその日の内には着かなかった。


 オール指導のもと、野宿できそうな場所を確保し、一晩過ごすことになった。


 使い魔たちには周囲の見張りをしてもらい、俺たちは焚き火を囲み食事の準備に勤しんでいた。主にオールが。


 簡易的な石窯を作り、俺がアイテムボックスから食材をゴロゴロ出すとオールは額を押さえていた。頭痛でもするんだろうか。ついでに鍋も掻っ払ってきていたので、それも渡したらため息をつかれた。


 料理は完全にオールまかせだった。俺もティルも料理などしたことがないので、出来上がるのを待つしかない。


 そこで俺は思いついた。料理が出来るまでティルの身を綺麗にしようと。


 さすがに服は街に行ってからだが、身体を綺麗にするだけならここでもできる。ティルの身はかなり汚れていて、綺麗にしてあげたいと思うじゃないか。


 俺はオールに声をかけ、ティルと共に少し離れた場所に移動した。繁みでオールからこちらの姿が見えないことを確認し、スキル【魔法創造】を発動させる。


 土魔法で人一人が入れる風呂桶を作り、そこに火魔法と水魔法で湯を作り溜めた。簡単手作り風呂の完成だ。


 俺はさっそくティルを風呂に入れた。温かい湯につかりティルの顔が緩む。気持ち良さそうにしている姿を見ると風呂を作ったかいがあるというものだ。


 入るまでは物凄い勢いで遠慮されたが、最後は実力行使で、服を剥ぎ取り湯に突っ込んだ。おい、そこ、セクハラとか言うなよ。俺にとっては幼女も少女も美女もすべて一緒だ。何年生きていると思っている。気分は子を見守る親そのものだ。


 だからといって入浴姿をずっと見るつもりもない。俺は少し離れた所で、背を向けていた。光魔法で作った光球がふよふよ浮かび、辺りを照らしている。


「ーークロムさん、ありがとうございます」


「ん?」


 暇潰しに光球を目で追っていた俺は、聞こえてきたティルの感謝の言葉に首を傾げた。


「私、お風呂なんて初めて入りました。美味しい食べ物ももらって、昨日までは苦しさしかなかったのに私こんな幸せでいいのかな」


 ポタリと湯に何かが落ちた。続いて聞こえる鼻をすする音。背を向けていてもわかる。ティルがいまどんな状態でいるのか。


 だから俺は気づかないふりをして話す。これからのことを。ティルに訪れる幸せな決定事項を。


「こんなことで幸せを感じてどうする。街に行けば新しい服を買うんだぞ、食べ物だってもっと美味い物が食えるだろうし、その魔眼の制御だって俺が教えるんだ。きっとすぐに扱えるようになる。そうだ、戦い方も教えよう。そうすれば人買いだろうが、盗賊だろうが怖くないぞ」


 魔眼を狙ってくる奴がいたらボコボコにしてやれ、そう言うとティルは笑っていた。


「ああ、魔眼といえば……」


 俺はあることを思い出し、湯船にいるティルに近づいた。俺が目の前に来たことにより、ティルの頬が別の意味でほんのり赤くなるが、気にせず手を伸ばす。


「髪を洗うのに、その包帯は邪魔だろう。いまだけ取るぞ」


「でも…、これがないと」


 左目を手で押さえティルは俯く。


「大丈夫だ、例え暴走しても俺が止める、安心しろ」


 俺はティルの包帯を外した。弱くても封印具。外す時に小さな抵抗を感じたが無視する。


 包帯の下から現れたのは、綺麗な紅色の眼。炎を具現化したような色合いに一瞬、目を奪われていると、急激な魔力の上昇を感じた。


 防御しようとしたが一歩遅く、俺の体は高温度の炎に包まれる。


「む!?」


 油断した。まさか包帯を外してすぐに暴走するとは。いくら制御できないからといって、暴走するのが早すぎる。可能性があるとすれば、ずっと封印され発散されない魔力が、溜まりに溜まって出口を求めて暴発したこと。もしそうだとすると、いずれは封印を破りティル自身を燃やしたか。そう思うといま封印を外したのは逆に良かった。


 炎がジリジリと肌を焼く。しばらく思考にふけっていたが、いまはそれどころではなかった。


 ティルが泣きながら悲鳴を上げているのが見える。ああ、大丈夫と言った手前、泣かせるなど可哀想なことをした。待っていろ、すぐに鎮めてやるから。


「なんだっ、何があった!」


「オール!?」


 血相を変えたオールが飛び込んできた。そりゃあ、暗い中、盛大に火柱が上がったら、何事かと思うよな。だが、いまはタイミングが悪い。


 オールの登場に、ティルの目がそちらに向けられた。推測だが、ティルの魔眼は見たものを燃やす。暴走していようとそれは変わらない。


 俺は咄嗟にティルとオールの間に、体を滑り込ませた。そうすることでオールに向けられるはずだった視線をカットする。その代わり体を包む炎の熱量が増した。


「クロム! これはどういうことだ!!」


「ティルの魔眼が暴走した。視界に入ると燃やされるから、お前はどこかに隠れていろ」


「燃えているのはお前だろうがっ、それにしても魔眼持ちとは、あの包帯は封印だったか……」


 魔眼と聞いてオールは神妙な面持ちになった。最初こそ喚いていたが、いまは冷静に状況を分析している。


「暴走を鎮める方法はあるのか?」


「魔力が尽きれば鎮まる。だが、それではティルの身がもたないし、一時しのぎにしかならない」


「お前のほうはどうなんだ? ずっと燃えているが……」


「吸血鬼の再生能力を舐めるな」


 皮膚が焼けていくそばから再生していく。ティルにとっては悪夢のような光景だろうが、魔眼の力を俺に集中させていたほうがいい。そうしなければ周囲は火の海だ。


 問題はティルの魔眼だ。落ち着いたらゆっくりと制御方法を教えていくはずだったのだが、予定が狂った。早急に鎮めなければならないが、一体どうしたものか。


 きっとこの暴走はティルの心に大きな傷を作る。しかも俺を攻撃したとなると、俺に対しての罪悪感で苦しむことになるかもしれない。


 ーーだったら、そんなもの感じないようにして止めればいい。


 俺はごきりと指を鳴らす。


 暴走を止める方法。その後の処置。イメージは固まった。


 俺はティルに向かって疾走する。腕を閃かせ、そしてーー。




 そして、俺はティルの魔眼を抉り取った。

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