学園のアイドルが本当にアイドルになった件
短編2作目です。
例によって勢いとノリだけで書いてます。
生暖かい目でお見守り下さい。
「私、アイドルになります!」
夕日の差し込む放課後の生徒会室でそう声高に叫んだのは高野花という女子生徒だ。
確かに彼女はいつも元気百倍!アン○ンマン!といわんばかりに活発な生徒であるが、
いきなり突飛なことを言い出すような子ではなかったと記憶している。
「急にどうしたんだい?」
すると花は少し不満そうな顔でこう言った。
「いえ、ちょっとアイドルと呼ばれる存在になりたくって」
どうやら花はアイドルというネームバリューに惹かれているようだ。
「それならば君はすでに学園のアイドルと呼ばれているじゃないか」
そう、花はすでに高校という狭い世界でならアイドルとして十分に輝いている。
月並みな言葉で表すならば、容姿端麗で学業の成績はもちろん
スポーツさえ難なくこなし、生徒からの人望もあるばかりか教師からの信頼も厚い。
生徒会長である僕より副会長の彼女のほうが人気も高い。
学園のアイドルといえば高野花だと生徒は皆、口を揃えて言うだろう。
「どうもそれだけじゃダメみたいなようなので」
「と、いいますと?」
「鈍感うんこ野郎の先輩には教えてあげません」
・・・強いて彼女の欠点を挙げるとすれば、僕に対して口が悪いことだろうか。
「まぁ、それはいいとして。具体的にはどうやってアイドルになるつもりなんだい?」
アイドルになると口で言うのは簡単だが、その道のりは茨で覆われていることだろう。
目指しただけでなれるのならこの世の全ての女の子は皆アイドルになっていても不思議ではない。
「あ、いえ。これからなるのではなく、実はもうなってるんです」
ん?
「何に?」
「アイドルに決まってるじゃないですか」
ほうほうなるほど。
「エイプリルフールはついこの間終わったばかりではないか?」
「嘘じゃないですよ!」
「ではそこの準備室に会計の山田君が看板を持って潜んでいたりしないか?」
「あっはは~ばれちゃいました?そうなんですよ~実はドッキリ・・・」
言いながら花は準備室のドアを乱暴に開け放つ。
「なわけないでしょうが!」
「素晴らしい、見事なノリツッコミだ。君にもう教えることは無いよ」
「ありがとうございます。もう先輩は私にあとを任せて現実から逃避するのをやめてはどうですか?」
「何を言う副会長。僕は常に現実しか見ていないよ」
「う〜、もう!冗談ばっかり言っていないでちゃんと聞いてください!」
怒られてしまった。
しかしこちらが戸惑うのも無理はないと思わないか。
アイドルになると聞きふむふむそうか簡単じゃないだろうけど頑張れよくらいに思っていたものが、実はもうアイドルなんですと事実のみを突きつけられて一体どうしろというのか。
「すまなかった。突然アイドルになったと言われて気が動転してしまった」
「まぁ鈍感うんこ野郎の先輩にはちょっと刺激が強すぎたのかもしれませんね」
ひどい言われようだ。
「いや、まぁ、うん。とりあえずおめでとう」
「ありがとうございます!それで、他にはないんですか?」
そう言って微笑む花。
な、なんだ、褒めて欲しいのか?
「流石は我らが学園のアイドル、可愛いは正義をその身で示したな」
「当然です!だって私ですから!それで、他には?」
自信に満ち溢れていて頼もしい限りですよほんと。
「花は歌がうまいからCDを出したらミリオンヒット間違いなしだな」
「あぁ、明後日に出ますよ」
さらっとCDデビュー宣言ですか、そうですか。
「と、ということはもうあれだな、花はもう僕なんかでは手に届かないくらい遠い世界の住人になってしまうんだな」
すぐさま同じように肯定してくるのだろうなと思った。
やれやれこの褒められたがりめと言おうとしたところで花が叫んだ。
「なんでそうなるんですか!手が届かないとか言ってないで早く私に手を出してくださいよ!」
怒りの形相でそうまくし立てる彼女は目に涙を溜めていた。
なんだ、彼女は何に怒っているんだ。
「は、花。君は僕が手を出さないから怒っているのか?」
「そうですよ!」
なんだ水臭い。それならそうと単刀直入に言ってくれればよかったのに。
「はい」
僕は右手を差し出す。
すると花はおそるおそる僕の手を両手で包み込んだ。
そのまま数分の時間が過ぎる。
その間に言葉はなく、ただお互いの手のぬくもりを感じていただけだった。
「何もしないのか?」
「・・・え?」
そう言うと花は顔を赤らめわたわたと慌てはじめた。
「ちょ、先輩は私になにをさせようっていうんですかぁっ!?」
何を言っているんだこいつは。
「俺にわかるわけないだろう」
「・・・うん?」
「いや、花が手を出せっていったんだろう。僕の手でなにかするんじゃないのか?」
「・・・」
二人の間を沈黙が支配していた。
花がかすかに震えている。寒いのだろうか。
「先輩のあほぉ!!」
うおっ、なんだ、また怒り始めてしまったぞ。
一体何がそんなに気に入らないというのだ。
昨今の若者はカルシウムが足りていないのではないか?
「手を出せってそういう意味じゃないです!男女交際的な意味で言ってるんです!」
「待ってくれ花、それだと君が僕に交際してくれと告白しているように聞こえる。誤解を招くような言い方はするべきでないぞ」
「だーかーら!そう言ってるんです!そのために私はアイドルになったんですよ?」
「君がアイドルになったことと僕と君の男女交際についてなんの関係があるんだ」
すると花は顔を真っ赤に染め上げて、まるで火山が噴火するように怒り始めた。
「忘れたって言うんですか!?前に私が交際を申し込んだときに先輩が『アイドル以外は恋愛対象として見ることができない』っていうから!私頑張ってアイドルになったのに!あれは嘘だったんですか?」
なるほど、そういうことか。
「花が言った事は全て覚えている。いやすまない誤解があったようだ」
「どういうことですか?」
「確かに花の言った通り、僕はアイドル以外は恋愛対象として見ることができない。でも同時に、生粋のアイドルオタクであるがゆえに彼女たちアイドルを恋愛対象として見てはいけない。なぜなら僕にとってアイドルとは応援するものであって傍にいてほしい存在ではないからだ」
花の表情が困惑に染まる。
何言ってんだこいつと言わんばかりの視線だ。
花には以前も告白を受けている。
そのときに使った断り文句を彼女はどうやら真に受けているらしい。
「悪かった。僕の言葉が足りなかった」
花の頬は涙に濡れていた。
「・・・それじゃあ、私はアイドルになり損ってことですか」
「そんなことはない。花がアイドルになったならば俺は応援せざるを得ない。なんたってアイドルだものな」
「でもそうなったら付き合ってはくれないんでしょう?」
「当然だ。アイドルは皆の偶像であり、個人で抱えるにはいささか荷が重過ぎる」
「じゃあ私がアイドルを続けている間はずっと傍で応援してくれて、引退したらお嫁さんにしてくれるってことですかね?」
「そんなことは一言もいってな・・・」
「じゃあ先輩!!」
俺のセリフを遮った花は、涙で赤くなった目をこすってのち、満面の笑みで声高に叫んだ。
「私!アイドルになります!」
最後まで読んで頂きありがとうございます。
反響次第で続きを書くかもしれません。