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レイザックたちの物語(仮)

作者: ソウジロウ

登場人物

レイザック・キンリン 十七歳

詳細 黒髪で眼鏡をかけている。ニーナが好き。空気に関する実験が行われた。心の能力も使える。

ニーナ・リディ 十七歳

詳細 紺色の髪を三つ編みにしている。レイザックに複雑な思いを抱いている。実験内容は不明。

メルリア・マルリア 十七歳

詳細 緑髪をハーフツインテールにしている。ニーナと仲が悪い。水に関する実験が行われた。

カルファ・メゴルート 十三歳

詳細 金髪をショートカットにし、振袖を着ている。メルファの姉。心に関する実験が行われた。

メルファ・メゴルート 十三歳

詳細 カルファと同じ髪型、服装をしている。カルファに何か隠していることがある。氷に関する実験が行われた。

マクリス・ゲルチャー 四十五歳

詳細 温厚な老人。ルクリスの父。レイザックをルクリス以上に守りたいと思っている。目に関する実験が行われた。

ルクリス・カミラ 十六歳

詳細 黒髪を肩で揃え赤黒いリボンをつけている。大人っぽい雰囲気だが暗いところが苦手。目に関する実験が行われた。

ロザリンド・リンカ 十四歳

詳細 青い髪を腰まで伸ばし一部小さく括られている。資産家の娘の超お嬢様。風に関する実験が行われた。

ハグリット・グリー 十八歳

詳細 緑色の髪を肩で揃えた好青年。レイザックの親友。気怠そうな喋り方が特徴。光に関する実験が行われた。

マスター ??歳 見た目年齢二十六歳

詳細 何もかも謎に包まれた人。組織の皆が好き。実験内容は不明。

リーン・クラスチェル 十一歳

詳細 有名な軍師の息子。あと一歩のところで人身売買されそうになった。何やら実験が行われた形跡があるので仲間に加わった。

クレイン ??歳

詳細 突如現れた漆黒の少女。銀髪のエルフ。

インフィ二ティ・サラブレア 十六歳

詳細 一流騎士を目指す女の子。「皆の涙は私の涙。共に分かち合う」という意志を持った心優しい子。


プロローグ

「ただの飾りに過ぎない

やあはじめまして。あっ、もしかして僕の独り言聞いちゃった?

恥ずかしいなー・・・何が飾りに過ぎないか、だって?

決まってるじゃない。命だよ、い・の・ち。自分が生きていることを証明するだけのね。

そりゃーね、命がないと生きられないけどさ。別に死んでもいいじゃん。ていうか僕死んでるし。で、君は生きたいの?まあここに来るってことは君はもう死んでるってことじゃん。だから迷うことなんてない!・・・でも君には不思議なものを感じるよ。ねえ君名前は?・・・そうかようやく合点がいった。君を殺すわけにはいかない。君は「イレギュラー」だからね。まぁ僕の言葉を深く考えたらホントに死ぬよ?今は見逃してあげる。僕は優しいからね。さあそろそろ目覚めの時間だ。いってらっしゃい。というかご武運をって話しだけど。それじゃあバイバイ_____________


第一章


『愛しています・・・。いえ、愛していました』

ハッ、と目を覚ます。ベッドで寝ていた少年は枕元に触れ愛用のメガネを探す。

これがいつもの日課だ。少年の名前はレイザック・キンリン。

「またあの夢・・・」

と小さく呟く。

「ニーナ・・・」

彼が呟いた女性の名前はニーナ・リディ。先ほどの夢に出てきた人だ。ずいぶんと口調が変わっていたが顔はニーナ自身だ。

「会いたいよ、ねぇ・・・何処にいるの??」

誰に問いかけたのかわからない彼の疑問は沈黙に飲み込まれていく。そして一つの答えが彼自身によって作り出される。

「僕は彼女に・・・」

『愛していました]

彼女の言葉が頭に響く。

「ううぁ、いやだよぉぉこれでお別れなんて、そんなの嫌だぁぁぁ・・・!!」

彼・・・、レイザックは泣き出す。泣いて泣いてそれでもまた彼女を求める。彼女に別の男ができていてもいい。僕のことを忘れていてもいい。僕を、嫌いでもいい。彼女に会いたい。

そんな気持ちが募るなか少年は必死に涙を拭う。

「なんで?なんで止まらないのぉぉ・・・!」

そのとき不意にドアが開いた。

「おはよって大丈夫?レイ、またあの夢見たな・・・。ニーナはもういないの!!」

入ってきたのは艶やかな腰くらいまでの緑髪をハーフツインテールでまとめ垂らした少女だった。そして名前は、

「勝手に入ってくるな。メル」

メルリア・マルリア。名前が踊り子みたいなことは無視しよう。

「いや、ここ私の家なんだから無理よ」

メルリアはレイザックのルームメイトでもある。

「ニーナはいる」

「どこによ?」

メルリアはレイザックの言葉に怪訝そうな顔を向ける。

「それは・・・まだわからない・・・」

レイザックは唇を噛みしめる。

「そういう根拠の無い発言はやめなさい」

レイザックはメルリアを睨み付けた。

「希望を持つことの何がいけない・・・?」

メルリアは溜め息をついた。

「もう知らないわ」

そういって足早に部屋を立ち去った。

「何がダメなのか・・・?」

ニーナがいなくなったのは半年前。突然消えたニーナをレイザックは心配し、毎日のように探し回った。そしてようやく隣町フルールでみつかった。レイザックはニーナに家に戻ろうと説得したがニーナはなにもいわなかった。

______愛しています。いえ、愛していました。

そういってレイザックから逃げるように走り出したニーナの背中を、目に溜まった輝きをレイザックは忘れることができなかった。

「いまどこにいるんだろう・・・?」

レイザックは真っ白な天井を見上げた。

「お腹すいたな・・・。ニーナはちゃんと食べて暮らしているのかな?」

そう呟いたのを最後にレイザックは部屋を後にした。


一階に降りたらここの仲間が朝食をとっていた。

「レイ、おはよ!!」

「レイくんおはよう・・・です」

最初に話しかけてきたのは双子の姉妹だった。姉のカルファ・メゴルートははきはき物を話すタイプで金色の髪をショートカットにし右のこめかみ部分には百合の髪飾りが輝いている。

妹のメルファ・メゴルートはゆっくり物を話すタイプでこちらも金色の髪をショートカットにし左のこめかみ部分には蓮の花(多分本物)が水けを帯びて輝いている。

二人とも振袖をミニスカートにしカルファは赤色、メルファは緑色の振袖を着ている。

「ああおはよう、カルファ、メルファ」

「レイくん元気ない・・・ですね。どうしました?」

メルファは勘が鋭い。

「なんでもないよ」

「そう・・・ですか」

ならよかった・・・ですと小さく呟く。

「メルファ!!もう少しちゃんと喋りなさいな!!!」

カルファが注意する。

「ゴメン・・・ね。姉さん」

「だから!!」

とカルファはじたばたする。

「もうやめないか、君たち。レイも困っているだろう」

なあ、と同意を求めるようにレイザックの方へ向く。

この人はここの最年長のマクリス・ゲルチャー。この人の外観は・・・普通すぎて何も言えない。

「おいおい普通はひどいなぁ」

「あなたもレイを困らせているじゃない!!!」

カルファは怒る。

「やめないか、おまえら」

後ろから凛とした声が響いた。

彼女はルクリス・カミラ。マクリスの娘である。真っ黒な髪を肩で揃え後頭部には赤黒いリボンが結ばれていた。

(何でも、もとはまっ白なリボンだったらしいけど人の血で赤く染まったとか)

「ルクリス姉さま!あなたも言ってくださいな!!」

カルファが叫ぶ。

「とにかくカルファも父さんもやめろ。そうすれば解決する」

そうルクリスは断言した。

「いつも悪いな、ルクリス」

「いいや気にするな」

レイザックがニーナのことを思い泣いた日はいつもこうなのだ。

「朝からなんでございますの。わたくしの起床時間が早くなってしまいましたわ」

すると奥の部屋から女の子が歩いてきた。

「おはよう!ロザリンド!!」

「おはよう・・・です」

彼女はロザリンド・リンカ。資産家マルリンド・リンカの孫娘だ。腰まで伸ばした青い宝石のような髪は今だけおろされ少し寝癖が立っている。今はピンクの花柄のパジャマを着用している。

「おはようございます。皆様」

腐ってもお嬢様。ちゃんと返事はするらしい。

「あら?メルリア様は?」

ロザリンドが辺りを見る。

「さきほどレイを起こしに行ったはずだが・・・?」

そういってルクリスはレイザックの方を見る。

「実は、喧嘩になって・・・」

「喧嘩・・・ダメです」

メルファが悲しい顔で言う。

「わかったよ。メルファ」

そう言うと微かに笑った。

「そういえば他の殿方たちはどこですの?」

ロザリンドが訊ねる。

「全員寝坊だと思うよ。昨日の任務は労力を使ったからね」

マクリスが言う。

「ふぁ~、起きた起きた。ん?どうした??」

ロザリンドが出てきた扉の向かいのドアからひょろりとした少年が出てきた。

「おはようございます。ハグリット殿」

ロザリンドが挨拶をする。

彼はハグリット・グリー。レイザックの親友で髪は男にしては長くルクリスとほとんど変わらない。色は緑色だ。赤と青のピエロのような格好をしている。

「おはよーロザリン、それにみんなも」

「あとはマスターだけかな」

マクリスが呟く。

「さきほど廊下でみたぞ」

そう言ったのはルクリスだ。

「マスターにしては早いですのね」

カルファが呟く。

「それで・・・、メルさんは?」

メルファが言う。

「そういえば・・・」

レイザックも呟く。

「メルリアにはお使いを頼んだんでーす!!」

突然、颯爽と現れた男の人はハイテンションで告げる。

「マッ、マスター!!?」

ハグリットは天井を見ながら驚愕の表情を浮かべる。なぜならマスターは・・・天井に逆さになっているからだ。

「みんなーげ・ん・き??」

歌のおねいさんのような呼びかけをするこの人がここのトップ。

この人の本名を知るものはおらずそもそも性別すらよくわからない。

「メルリア泣いていたわよ・・・レイ」

マスターは自分が元気?と訊ねたのに無視して話す。

「そうですか・・・」

レイザックは少ししょんぼりした顔になる。

「レイは愛が何かわかるかしら?」

「愛ですか?」

いきなりレイザックに訊ねる。

「そうよ愛よ。例えばあなたは愛してるとか好きとかどういう言葉だと思う?」

「どういう言葉という疑問の返答になっていない気がしますが」

といって一呼吸して言葉を紡ぐ。

「相手を縛り付ける言葉だと思います」

マスターは驚いたような表情をする。

「どうしてそう思うのよ」

マスターの目は真剣だった。

「だって好きなんて言われたら、特に好きな人から言われたらすごく嬉しいじゃないですか。よく言えませんがとりあえず嫌なんですよ。自分を好きって言ってくれた人に裏切られたら」

「・・・・・・だいだい分かったわ、レイは怖いのね。人に裏切られるのが、誰かを好きになるのが」

マスターは少し暗い顔をする。

「僕はニーナも好きとかそんな言葉で縛っていたんです」

レイザックはその場に座り込む。

「それは違う・・・です」

「それは違うわ!!」

メルファとカルファが同時に叫ぶ。

「メルファ?カルファ?」

レイザックは二人の方を向く。

「そうです!!レイ様は何でそう一方通行なんですの!!?」

ロザリンドまで参戦する。

「ニーナは本当に苦しそうな顔をしていたか?」

ルクリスまで。

「私の目にはそうは見えなかったな」

マクリスも。

「よくわからんがニーナはレイのことを本当に好きに見えたぞ」

とうとうハグリットまで。

「・・・え?」

レイザックの両目には涙が溜まっていた。

「でもニーナは僕に愛していましたって、涙を流しながらいったんだよ?」

「あの・・・レイくん。ニーナさんは涙を流すほど・・・レイくんを愛していたんだと思う・・・です」

メルファが言う。

「メルファの言うとおりです!!!」

「あのねレイ、涙を流しながら愛って言葉を口に出す人はたいてい何かを抱えてるのよ。

愛されたいのならどうやったら愛されるのを考えるんじゃなくてね、愛されるには何を必要とするのかを考えるのよ。レイはニーナに愛されたいんでしょ。ならその目標に向かって走ればいいのよ」

マスターは悲しそうな顔をする。

「でもニーナはいません」

「探せばいいじゃないかっ!!!」

いきなり叫んだのは・・・ルクリスだった。

「ルクリス・・・?」

マクリスが驚いている。

「・・・あっいやその、君には後悔してほしくないんだ」

ルクリスは落ち着きを取り戻す。

「わたくしもですわ」

ロザリンドも意見を述べる。

「・・・とりあえず今日の任務を実行しなきゃいけないから準備してきて」

マスターが言う。

「今日もご飯にありつけなかったか」

ハグリットが苦笑する。

「わかりました」

レイザックは立ち上がり扉の方へ歩く。

「レイ」

突然マクリスがレイザックを呼び止める。

「はい」

「私は君を守れる存在になりたい。君は『イレギュラー』だ」

イレギュラー、レイザックはそのことを他の誰かにも言われた気がする。

「僕は守られる存在ではなく人を・・・守れる存在になりたいです」

そう言い残して部屋をたちさった。

「レイくん・・・」

「レイ」

カルファとメルファが閉まりかかった扉を見つめる。

「さ、あなたたちも準備してっ!」

マスターが言う。

「・・・はい」

________________________________________

「今日の任務を説明するわ」

マスターが机に模造紙を広げる。そこには地図が描かれていた。

「ここは・・・博物館かい?」

マクリスが訊ねる。

「正解よ。ここは一見普通に見えるけど実はそうじゃないの」

「どういうことですか?」

ロザリンドがマスターの目を見る。

「この地下では・・・人身売買が行われているわ」

「うっ・・・!」

突然カルファがのど元を押さえた。

「姉さん!!?・・・大丈夫?」

メルファが後ろからカルファを支える。

「ええ大丈夫よ、ちょっと過去を思い出しただけだから」

「それで今ここに捕えられているのが、有名な軍師の息子よ。その少年を奪還するのが今回の任務」

マスターはまだ顔色の優れないカルファを心配しながら言う。

「カルファは今日後方に待機するんだぞ」

ルクリスがやんわり言う。

「はい、姉さま」

しぶしぶ承諾する。

「今日は4チームに別れて行動するんだけど・・・レイ、メルリアと仲良くやれる?」

「・・・がん、ばります」

次第に声が薄れていく。

「・・・今日はルクリスと組みなさい」

マスターが言う。

「レイと組むのも久しぶりだな」

「そうだな」

二人で目を合わせる。

「ロザリンド、メルリアと組んでくれないかしら?」

「えっ、あっはい」

突然名前を呼ばれたロザリンドは慌てて返事をする。

「じゃあ私はハグリットとかな」

マクリスが言う。

「マクリスさんとかー・・・緊張するな」

ハグリットが苦笑いを浮かべる。

「じゃあカルファは後方に待機メルファはカルファの援護ね」

「了解しました」

「分かり・・・ました」

カルファもメルファも沈んだ顔をする。

「じゃあ作戦を説明するわ、レイとルクリスのチームはAチームね。Aチームは先に潜入して敵を一掃しなさい」

「はい」

レイザックとルクリスが返事をする。

「ハグリットとマクリスはAチームからの指示を待ちなさい」

「了解したよ」

「はーい」

ハグリットとマクリスも返事をする。

「カルファとメルファは後方にいる敵を見ながらAチームに敵の数を知らせること」

「はい」

「・・・はい」

「よろしい」

そしてマスターはロザリンドを見る。

「ロザリンドはメルリアと自由にしてなさい」

「えっ、どういうことですか??」

ロザリンドはあわててマスターを見る。

「あなたたちの成長をみたいのよ」

「成長・・・?ですか」

マスターが満足げに笑みを浮かべる。

「私が何も指示せずに放置したらどんな行動をとるかってことよ」

ロザリンドは小さくうなずく。

「さあ皆行くわよっ!」

「はいっ!!」

皆で返事をし部屋を後にする。

________________________________________

「レイっ!!そっちの敵は任せた!」

「わかったっ!」

やはり戦いの場には慣れないな、レイザックはそう考えながら額の汗を拭った。

「カルファたちから応答は!?」

「まだだっ!」

目の前の敵を倒しながら声を発するのはなかなか体力を消耗する。レイザックはもうへとへとだ。

「父さんたちは!?」

「今こっちに向かっているっ!」

「敵が多すぎる!!!」

レイザックとルクリスが戦っている部屋では30匹くらいのさまざまな形のモンスターがいる。

「ルクリスっ!あぶないっ」

いつのまにかルクリスの後方に回っていた敵にレイザックは空気の弾を連射させる。

「ありがとうレイ!」

そう叫びルクリスは刀で敵を切る。

「やばっ!返り血が目に・・・!」

ルクリスは目を押さえながら倒れこむ。その隙にモンスターはルクリスに殴りかかろうとした。

「ルクリスっ!」

レイザックの表情は絶望の色に染まる。


「まったく、ちゃんとしなさいよレイっ!」


いきなりレイザックの横を水の弾が吹き抜ける。

「メルっ!」

「わたくしもいますのよ」

そう言ってロザリンドは自分に風を巻きつける。

「皆さん避けて!必殺奥儀、暴炎風!」

その瞬間ロザリンドにまとられた風が熱気を帯びモンスターを撃退する。

「さあ今のうちに!」

「ああ!」

レイザックはドアへ走る。

「大丈夫ですか?ルクリス様」

「大丈夫だ」

二人もドアへと走る。そしてドアを開ける。

「はあにげれたか」

「というか何でこの世界で1割もいないモンスターが集結してるのよ!!」

メルリアが言う。

「違う、あいつらも私たちと同じ人体実験に使われた人間だ」

ルクリスの一言にその場が凍る。

「どうしてそう思うんだ?」

「おいおい忘れたのか、私も父さんと同じ実験に使われたんだぞ?」

ルクリスはあきれた様子でレイザックの方へ向く。

「確か人の心を読めるようになる実験でしたわよね?」

「ああ、そういえばロザリンドの過去を聞いたことがなかったな」

ロザリンドが苦々しい表情をする。

「わたくしは…それはむごいことでした。資産家の娘として情けなくて毎日絶望しました。でもカルファちゃんの方はメルファちゃんと引き裂かれて人身売買されそうになって、私なんてまだ軽い方ですよね」

ふふっと少し笑う。

「どうしたのロザリンド?」

「いえ、あんなに絶望的な毎日だったのに今はなんか幸せだなって思っただけです」

「まあマスターはどうか知らないけどみんな同じ体験をしてきたんだから、もっと甘えていいのよ?」

ありがとうございます、と呟く。

「おーいロザリン~!!」

「ハグリット殿!」

「父さん!!」

今みんなが向いている先からハグリットとマクリスが走ってきた。

「一体あそこは何なんだよ!」

「二人も入ったの?あのモンスターの部屋に」

メルリアが訊ねる。

「あそこにいる、と連絡があったからね」

マクリスが苦笑する。

「それにしてもどうするんだ?あの軍師の息子のところへ行くにはあの部屋の隠し階段を使わないと行けないんだろ?」

ルクリスが言う。

「そのことだけど提案がある」

________________________________________

ここはカルファとメルファが待機している後方。

「モンスターがいっぱいいるわ!気を付けてね」

「はい・・・姉さん」

カルファの調子はもどっているようだ。

「みんなは大丈夫かしら?」

「私たちは・・・現場の状況を伝える使命が・・・ある」

そうね、とつぶやいて前を向く。

「みんなは実験の副作用で特殊能力が備わってるけど、私は人に伝えることしかできないからね・・・。メルファは戦闘向きだよね」

「・・・うん」

そう言って目の前の敵を氷で裂く。

「確か氷の種を埋め込まれたのよね」

「・・・うん」

そう言ってまた氷で裂く。

「もういいのよ、私のためにそんな喋り方までして」

「姉さんは・・・気にしないで」

カルファはクスッと笑う。

「メルファはいい子ね、私なんてあの日誘拐されなかったらあなたみたいに純真無垢な子に育ったかもしれないのに・・・」

「姉さんは・・・私が絶対に・・・守ってみせる」

メルファはその無表情な顔を小さく歪める。

「頼りにしてるわ」

メルファはまた敵を氷で裂く。

「ここの敵もメルファが倒したようね、次に行く前に報告しなきゃ」

そう言ってカルファは手を額にかざした。

「レイ、応答して」

すると応答があったようだ。カルファはレイザックに敵を殲滅したこととおおまかな敵の数を知らせた。そして通信が切れた。

「・・・どうだったの?」

「レイもなかなか面白いこと考えるわね」

そしてニヤリと顔を歪めた。

________________________________________

モンスターの部屋入り口前

「本当にそれでいくのか?」

「ああ」

「私は君をみくびっていたようだ。さすがイレギュラーだね」

マクリスがまたよくわからないことを言う。

「ところでさーイレギュラーってなんなの?」

「わたくしたちのアジトでも言っていましたよね?」

ハグリットとロザリンドが言う。

「気にしなくていいよ」

そういってマクリスは笑った。

「気にはなるけど今は急ぎましょ」

「カルファちゃんのためにも、ですね」

ロザリンドが言う。

「どうしてこの世には人身売買なんてする人がいるんだろうな」

レイザックが呟く。

「そりゃあお金が欲しいからじゃないの?」

「ん~、でもさそんなの自分で稼いでほしいな~」

ハグリットが苦笑いをしながら言う。

「この世界って理不尽だよな」

「あら?どうして??」

メルリアが首を傾げる。

「だって、いくら人権を無視する人がいても、欲にまみれた人がいても・・・僕たちは人に産まれてしまった限り最後の瞬間まで、こんな世界で生きなきゃ駄目なんだから」

その場が静まる。

「まあレイの言うことも一理あるぞ。私たちは人間だ。いくら辛い過去があっても道行く人はそれに気づかないし気づこうともしない。それが当たり前だからな」

ルクリスが言う。

「これだから生きるって大変なのよね」

「ええ、そうですわね」

皆一斉に空を見上げる。

「でも私はこの世界が好きだよ」

マクリスの一言に皆が頷いた。

「さあ行きましょう、生きるか死ぬかの勝負になりそうだけど」

そう言ってメルリアは踵をかえした。長い髪が風で揺れる。

「はい」

そう言ってロザリンドはメルリアの後に続く。

「私たちも行こうか」

マクリスそしてハグリットも後へ続く。

「生きるか、死ぬか・・・」

そう呟いてレイザックは眼鏡をはずした。

________________________________________

ここはあのモンスターの部屋の前。

「皆、準備はいいか?」

ルクリスの声に皆が頷く。

「じゃあ計画始動だ」

そう言ってレイザックは部屋のドアを・・・破壊した。煙で前がよく見えないがそこにいるんだろう。

「ルクリス」

「父さん」

二人はお互いに呼び合い顔を見合わせた。

「いくよ」

そう言って二人だけで部屋に乗り込む。


モンスターの部屋の中。

「なあ、父さん」

「何だい?」

二人はモンスターの部屋の中央に立っている。

「私たちは敵を誘い込む役を仰せつかったんだよな?」

「そうだね」

ルクリスが刀を振る。

「ならどうして敵がいないのさ」

そう、今この部屋にはモンスターが一匹もいないのだ。

「召集命令がかかったんじゃないか?」

マクリスが笑う。

「おーい、レイ。入っていいよ」

ルクリスがドアの方へ向く。

「敵がいないのは想定外だったな」

レイザックたちも部屋へ入る。

「まあ、早く終わらせちゃいましょ?」

メルリアが階段を降りる。

「暗いですね」

ロザリンドもメルリアに続いて階段を降りる。

「私は暗いところは嫌いだな」

ルクリスはわざとらしくそういってハグリットを見る。

「はいはい・・・とうっ!」

ハグリットが手をあげた瞬間ハグリットの手に光が灯る。

「ありがとう」

「みんなー?早くこないと敵がくるよ?」

階段は螺旋階段になっているらしい。少しメルリアの顔が見える程度だ。

「今いく!」

レイザックは階段を駆け下りた。

________________________________________

人身売買開催場所

「軍師の息子さんはどこでしょう?」

ロザリンドが訊ねる。

「そもそも人の子一人見えないわ」

「というかこの部屋、少し不気味じゃないか?」

そういってルクリスがレイザックの腕に抱きつく。

「おい、ルクリス?」

「怖いのは得意じゃない」

ルクリスが頬を染める。

「もう、いちゃいちゃしすぎないでくださいね」

ロザリンドが複雑な笑みを浮かべる。

「はあ、疲れた」

ハグリットが薄汚れた壁にもたれかかる。

「大丈夫かい?」

マクリスがハグリットを見る。

「平気です、ってこれ何かな?」

ハグリットが指をさした方向には小さなスイッチがあった。

「・・・・・・えい」

何の前触れもなくメルリアがスイッチを押した。

「ちょっ、メル!?」

ルクリスが慌てる。

「大丈夫よ、ほら何もなってないじゃない」

メルリアがくるりと一回転する。その瞬間、レイザックたちが立っていた床がないことに気が付いた。

「え?うわああああああああああああああああああああああああ」

レイザックが大きな悲鳴をあげて落ちた。続いて皆も暗い底に落ちて行った。

________________________________________

よくわからない地下

「いたた、皆大丈夫なの?」

メルリアの声が響く。辺りが真っ暗で何も見えない。すると暗闇で声が聞こえた。

「だあれ?お姉ちゃんだよね?お兄ちゃんもいるのかな?」

幼い少年の声だった。

「ねえ、あなた名前は?」

「僕?僕はリーン、リーン・クラスチェルだよ」

「リーン・・・あの軍師の息子ね!よかった!!」

メルリアは安堵の息をついた。

「・・・あれ?ここは」

レイザックが目を覚ます。

「お姉ちゃん、お父さんを知ってるの?」

リーンがメルリアに訊ねた。

「うん、私はあなたのお父さんの友達よ」

「お友達?」

「ええ」

「よろしく、お姉ちゃん」

「リーン君がそこにいるのか?」

レイザックが訊ねる。

「無事みたい」

「ねえお姉ちゃん、体が痛いよ。なんだか僕から液体が流れてる。何これ?」

リーンが涙声で言う。

「液体?・・・ねえもしかしてそれって血、じゃない?」

メルリアが少し慌てる。

「とりあえず、ハグリットだ。このままだと何も見えない。」

「そうね」

辺りを見回しても人の子一人いないこの状況。

「ねえ、マスターからマッチとか預かってないの?」

「・・・・・・あ」

そういってポケットを漁るとマッチやら、ライターやらが出てきた。

「馬鹿」

そう呟いてレイザックからマッチを奪い取る。

「あれ?つかないわ」

「あのー・・・メル?擦る場所、反対」

「えっ?」

メルリアは自分の手元を見た。レイザックの言ったとおり反対だった。

「違うのよ、使ったのが初めてってわけじゃないのよ!!そうよ、本来私があっているの!このマッチが間違っているんだからぁ」

「今のはダジャレか?」

「へ?」

「いや、だからマッチが間違っているっていったよな?」

メルリアは茫然としている。

「・・・馬鹿じゃないの」

「お姉ちゃん?」

レイザックたちはリーンの存在を忘れていたようだ。

「ごめん、リーンくん」

「ごめんね、さあ今度こそつけるわ!私だってやればできるもん!!」

マッチ一本に何を言っているのかとレイザックは言いそうになったが一歩手前で飲み込んだ。

『シュパッ』

軽快な音を立ててマッチに火が灯った。

「熱いっ!ちょっと何か引火させるものっ!」

メルリアは慌てる。

「メル?・・・そういえば何もないな」

「馬鹿っ!!」

メルリアは無意識の内に自分の能力の一種、水を出してマッチの火を消していた。

「大丈夫?お姉ちゃんこれ使って」

そういってリーンが出したものは紙と木だった。

「どうしてそんなものが?」

「ここに来た人が置いていくから貰ってるんだよ」

暗くてよくは見えないがリーンははにかんだようだ。

「とりあえず、えいっ!」

『ゴシュッ』

何やらおかしな音を立てたが無事引火させることができた。

今まで暗くてよく見えなかった場所、そのあちこちに死体が転がっていた。

「ええっ!?何よコレ・・・」

二人がリーンの方に振り返るとそこには血だらけのリーンと怪しく光る目が見えた。

「リーンくん!!あぶないっ!」

レイザックが空気の弾を放つ。その弾は見事怪しい目に被弾した。

「おいおい、危ないじゃないか」

その怪しい目の正体は・・・ルクリスだった。

「ルクリスっ!?」

レイザックとメルリアは同時に叫んだ。

「その怪物を見るような目はやめてくれないか」

ルクリスは苦笑する。

「ああ、すまない」

「君がリーン君、だね」

リーンが振り返る。

「お姉ちゃんは?」

「私?私はルクリス。そこの二人の親しき友人さ」

微妙に口調が変わっている気がした。

「ロザリンドとハグリットとマクリスさんは?」

「ん?ああ三人なら、私が・・・殺した」

「・・・え?」

メルリアが呟く。

「・・・お前、ルクリス・・・だよな?」

「さあね」

微笑しながら跳躍する。その目は怪しく光っていた。

「あんた、だれなの?」

メルリアが呟く。

「アタシはね~この世界の創生者、クレインちゃんだよぉ!」

気づけばその姿はルクリスのものではなく、漆黒の少女になっていた。

「やめてっ!クレインちゃん!!」

そう叫んだのはリーンだった。

「なあに?あら、あなたこの間の死にぞこない君じゃないのぉ!!」

クレインは長い跳躍の末、着陸した。

「クレイン?だったよな。お前はいっ・・・」

「アタシを呼び捨てで呼んでいいのはパパだけよっ!」

クレインがレイザックの言葉を遮って刃を向けた。

「・・・あらぁ、アタシったら取り乱しちゃったわぁ」

そう言って刃をしまう。

「あなた、本物のルクリスたちをどうしたのっ!?」

メルリアが言う。

「だからぁ、殺したって言ってるでしょぉ」

「そんなことはないっ!」

メルリアは叫びながらクレインに水の弾を放つ。

「アタシはねぇ、殺し合いは好きだけどぉ戦いは嫌いだなぁ」

そう言って水をいとも簡単にはじく。

「じゃあねぇ、ちなみにもうモンスターちゃんはでてこないわぁ」

瞬間、消えた。音もなく消えた。

「えっ?」

「おいっ、ルクリスの居場所をっ!!」


「私がどうかしたのか?」


突如声がした。いつもの声が・・・。

「ルクリスっ!無事なの?」

メルリアがルクリスに訊ねる。

「この通り、ほらみんなも」

「は~、大変だった」

「そうだね」

「はい」

そこにはいつもの三人が立っていた。

「よかった・・・本当に」

レイザックはうなだれた。

「あのクレインって子、わたくしたちを膜のようなもので覆って隠していたんです」

「最後いきなり解除されてびっくりしたよね~」

「もう少し老人をいたわってほしいな」

三人は元気そうだった。

「さあ、リーンくんの治療もあるしもどろうか」

「僕も行っていいの?」

「もちろん」

ルクリスとリーンは仲良くなれそうだ。

「カルファ、応答を願う」

そう言ってレイザックは頭に手をかざす。

『そっちは終わったの?』

カルファから応答があった。

「終わった。アジトで合流しよう」

『ええ、わかったわ』

そう言ったのを最後に通信を切る。

「さあ、帰ろう。みんな」

第一章完



一応、第2章は執筆しているのですが投稿は反響できめることにします。紹介にでてきたインフィニティはそっちに出てきます。

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