ヤンデレの概説
人は愛されたいと思う。
家族に愛されたいと思うし、友人に愛されたいと思うし、異性に愛されたいと思う。これは時代や民族を問わぬ人類普遍の法則である。
人は誰しも承認欲求を抱いている。
おそらく「ヤンデレ」ほど前述の欲求をこれほど満たすことのできる属性はないと思う。一途な愛情と狂気にも似た信奉。ひたすら愛し続け、信じ続け、尽くし続ける。世界が対象と自分のみで完結している。他のものは一切不要で、大切なのは対象のみである。その狂気性と純粋さ。
傍流として、監禁や過剰な束縛といった行動をするものもいる。本来なら犯罪行為であったり気持ち悪がられるそれらの行為も、愛情ゆえと目されれば許容され、むしろひしひしと愛の重さを感じることができて心地よい、といった心情を狙っているものも多い。
逆説的に言えば、犯罪行為や人として終わっている行為をも辞さない覚悟こそが、奈落のような深い愛情の証左となるのかもしれない。
ヤンデレの語源はおそらく、「病み」と「デレ」だろう。好意が強すぎるあまり病み、好意が強すぎるゆえにデレになる。その二つの概念を貫流するものは無条件の愛である。両者とも愛が強すぎるから精神的に病み、愛が深すぎるからデレデレとしてしまう。
絶対の愛と本当の愛。
自分に対して失望も幻滅もしない、飽きもしないし裏切りもしない。対価や代償を求めない。健気に尽くしてくれ、不完全な自分を受け入れてくれる。そして、サブカルチャーに登場するヤンデレは容姿端麗な場合が多い。そうした都合のいい異性。
そして厳密な意味でメンヘラではないということ。筆者が思うに、ヤンデレは精神疾患や躁鬱病といった類ではないように思う。というのもヤンデレは対象のことに関しては過剰に反応するが、それ以外の事象に対しては常識的に振舞う場合が多いからだ。対象限定で頭のタガが外れる。
もちろん例外もあるだろうが、筆者の想像するヤンデレは、一見して普通のかわいい(カッコいい)人のように見えてその実、たぎるような暗い炎を内に秘めているイメージがある。
切り替えなのだろう。
ヤンデレは対象や、対象と接触している人間に対してのみ過敏に反応するのだ。これは人間不信や不安、依存、恐怖の延長線上にある、人間にとって普遍的な感情であると思う。それが過度に肥大化したのがヤンデレなのである。
もちろん過去のトラウマや悲劇に端を発するものもある。しかしながら語弊を恐れずに言えば、メンヘラはどこまでも自己中心的なもののように思う。その点、ヤンデレは突出して献身的で利他的。また割と常識的な性向を持つものも多い。