スィフルの称号を持つ者の力
宿屋に泊まるよ!→レニ暴走、そして沈黙→レニからアインへ報告
今回はいままでに比べてちょこっと長めになってますが、正直これでも削りながら書きました。あまり描写が細かすぎても読む側がだるくなるかなーって。え? 大きなお世話?
アインとレニはちょっとした情報の整頓をした後、眠りに付いた。と言うか、同室だと言う事に興奮したレニをアインが気絶させていた。
翌朝。何事もなかったかの様に二人は宿屋の一階にある食事処で朝食をとっていた。
「アイン様。私はここでオクスンさんが迎えに来るのを待たなければいけませんが……」
「俺はやる事がある」
そう言うと、丁度食事を終えたアインは立ち上がり宿を出て行く。そんなけんもほろろな態度のアインにレニはもぅ、と去りゆく背中を見送った。
適当にお茶を注文しながら約束の時間まで待ったレニのもとへ一人の男が近づいていく。
レニはその気配に気付いて視線をそちらに向ける。その男はオクスンだった。
オクスンはレニの傍まで来ると簡単な挨拶をし、早速行きましょうとレニに出かける事を施した。
先日と同じ様にオクスンの先導で暫く歩いていると長の家に着く。門の所には昨日の夜見かけた門番は居なかったが、その変わりと言うべきかイザヨとアババが立っていた。
二人はオクスンとレニに気づくとレニに対して朝の挨拶をする。
「それでは、早速モンスターが居着いた場所に向かいましょうか」
そうイザヨが言い、特に反対の意見が無かった他の三人は何かを言うでもなく歩きだした。
レニは前を歩く三人の後ろ姿を見つめながらアインの事を考える。
別行動をとる事自体、今に始まった事ではないが正直寂しさを感じてしまう。やる事があるとは言っていたものの、せめて何をしているのか位教えてくれても良いのではないかと思いつつも、直接伝えた所で自身の行動を改める人では無かったという答えに辿りつき人知れずため息をついた。
街を出て、昨日の話の通りに東の方向を進んでいく。道中は何もなく、黙々と歩いていくだけだった。
歩き続けて行くと森に辿りついた。
「森? 確かモンスターは洞窟に居ると聞いた筈ですが」
「ええ。この森の中に洞窟があるんですよ」
森の話を聞いていなかったレニが疑問を口にするとイザヨが間を空けずに答えた。
予め答えを用意していたかの様な早い間でのイザヨの応えに少し気になったが、そうでしたかと応えておく事にした。
そして、暫く森の中を進んで行くが一向にモンスターの気配を感じない事にレニは疑問を感じ始めた。
いかにレニとて、若い見た目だがそれなりに長い時をアインと共に旅してきた者だ。モンスターの気配、モンスターが持つ独特の魔力を感じる位の実力は持っていると自負している。
どう言う事かと問おうとした時、数人の人間に囲まれている事に気づいた。
モンスターにばかり思考が働いていた。失敗したとレニが内心反省しているとイザヨ達が立ち止まった。三人も気づいたのだろうかと思うと同時に、木の陰に隠れていた者達が姿を現した。
賊だ。全員で九人。それぞれに短剣や普通サイズの剣。中にはボウガンを持っている者も居た。
「ほーぉ。今回はえらい可愛らしい嬢ちゃんじゃないか」
「これは高く売れそうだな」
「いやいやいや。こんな上物だ。俺達で楽しもうぜ?」
次々と下品な言葉と笑い声が聞こえ、レニは思わず顔をしかめてしまった。
「くっ! 三人共、ここは私が食い止めておきます。隙を見て逃げて下さい!!」
レニがそう叫んで賊達に対し戦闘態勢に入った。その時!
「きぇぇい!!」
「なっ!?」
アババの声と共に、レニは自身の魔力が抑えられる感覚を感じたのだ。驚いて振り向くと、賊達と同じ様な笑みを、イザヨ、オクスン、アババの三人がしていた。
「ど、どう言う事ですか……これは!?」
魔力だけでなく、体の反応まで鈍くなった様に感じる。この感覚に余裕が無くなったレニは嫌な汗が頬を伝うのを感じた。
「何、簡単な事だ。君に依頼したモンスター討伐は嘘だ。そして彼らは……」
「グルだったと言う事ですか。先程の会話からするに、奴隷目的の取引の」
「そう言う事だ。話が早くて助かる。はっはっは」
「っ! 何故笑っていられるんです!! 貴方は街の長なのでしょう? 貴方の街の人達の事でしょう!?」
「ああ。我が街の住民だよ? だから、私の好きにしたのさ。金との交換と言う形でね」
「……この、外道が!!」
「もう良いよ、お嬢ちゃん。静かにしな!」
イザヨとレニの会話にアババが割り込む。アババが頭程まで上げた右手を勢いよく振り下ろすとレニの体がそれに合わせて地面に叩き下ろされた。
「きゃぁっ!」
魔力を抑えられ、体も鈍くなったレニは受身もろくに取れず倒れ込んでしまった。
そんなレニを尻目にイザヨは賊の一人に話しかける。
「それじゃぁ、金を先に貰うぞ。いつもの様に」
「ああ。それと、予備に持ってきた分も合わせて今回は多めだ。こんな上玉。高めの値段設定にしても簡単に売れるだろうからな」
そう言った瞬間、激しい爆発による音と衝撃に全員が襲われた!
大地は焼け、木々は吹き飛び、爆心地近くに居た賊達のうち四人が何も抗う事も出来ず命を落とす。
「な、何事だ!?」
突然の出来事に皆が驚きと混乱で取り乱す。
そして賊の一人が痛みに耐え切れず悲鳴をあげた。全員がそちらを向くと腕を捻られ押さえつけられている男と、アインが居たのだ。
「貴様! 何者だ!?」
「……」
オクスンが声を荒げるが、アインはそんなオクスンに反応しない。それどころか男を押さえつけながら後ろを振り向くのであった。
「!? お前らは……」
イザヨはアインが振り向いた先を見ると驚愕に目を見開く。街の自治会なので良く顔を合わせていた者と、見慣れないながらもその格好からギルドの者だと判る男が二人居たからだ。
また、その者も信じられないものを見たと言う顔をしていた。
「イザヨさん……ギルドの方々から話を聞いた時は信じられなかったのですが。貴方は……貴方達は」
そう言って握られた拳がわなわなと震わせる。信じていた者達に裏切られた。よほどショックだったのだろう。
「さてと……こいつをサッサと連れていけ。で、捕まったままの奴らが居るかもしれん。早くしろ」
そう言ってアインは取り押さえていた賊の一人をギルドの使いに引き取らせる。ギルドの使いは硬い口調で返事をし賊の男と街の者を連れて街の方角へと足を向ける。
「逃がさないよ!」
そこで慌て気味に行動を起こしたのはアババだ。このまま帰らせては自分達の立場は危うくなる。ならば殺せ。そう思うやいなや両手を突き出した!
すると手のひらサイズの大きめな石が大量に宙に浮き、目標に向かってもの凄いスピードで襲いかかる!
「甘いんだよ」
アインは妨害する為アババの魔法に割り込む。暴風を生み出し、魔力でがっちがちに固められた石の雨を全て吹き飛ばした!
「ちぃ!」
アババはこれならどうだと言わんばかりに魔法を次々を繰り出す! しかし、アインは全て無効化していく! 炎を操れば水で消され、雷を操れば落雷地点を誘導され、次々とアババの魔法をアインは防いでいく!!
「レニ! このババアの干渉魔法はとっくに解除されてるだろうが!! さっさと雑魚共を蹴散らせ!」
「! はい!」
アインの声にようやく自由に動ける様になった事に気づいたレニは返事をすると、全身に魔力を通す。身体強化と呼ばれる魔法だ!
通常の三倍にまで高まった力を使い、倒れていた姿勢から一気に飛び上がる! 頭上にあった木の枝を蹴り方向を転換! 蹴られた衝撃で折れた木の枝を全く気にせず近くに居た賊の真正面に着地した!
「くぅ、このお!!」
賊は手に持っていた短剣を振り下ろす! 長剣を持っていた者は反応出来なかったが、ボウガン持ちは慌てながらも標準を合わせレニに向かって矢を放った。
しかし、レニのスピードは捉えられない! ボウガンの矢でさえ追いつく事が出来ない速さを持って回避。目標を失った矢は勢いをそのままに短剣を持った男の足に突き刺さる!
痛みでしゃがみこむ男だが、その痛みを感じたのは一瞬だった。何故か。それはレニが男の首を切り落としたからだ。
余りのスピードに付いてけなかった賊達だが、レニの右手が氷で作られた刃に覆われている事に気付く。
「なっ!? いつのまに魔法を使いやがった」
長剣を持つ男がレニに斬りかかるも遅すぎる! 弱すぎる! いくら女の体とは言え、三倍に強化された筋力は簡単に男達の力を超えているのだ。
レニは振り下ろされた長剣に己の氷の刃をぶつける! 長剣は砕け散り、レニは体を回転させその勢いで男の体を上下に別れさせた。
残った賊は後二人。しかし、殺される仲間達を、そして無表情で殺していくレニに恐怖を感じ、恐怖に支配された二人はプライドも何もない。レニに背を向け逃げ出した! しかし、現実とは非常である。レニは逃げ出した賊に対し突き出した左手から先の尖った氷の塊を作り出し、放つ!
「ぐぁあぁ!?」
レニの魔法は見事に心臓に命中! 断末魔を上げ、連行されていった一人を除き、賊は全滅したのだ。
イザヨとオクスンは、余りにも圧倒的な惨状に恐怖しその場に座り込んで動けない。
「よぉ? ばあさん、後はてめぇ一人だけだ。どうするよ?」
にやりと笑いアインはアババを挑発する。アババは腐っても魔法使いの称号を持つ者。自分の不利を冷静に判断していた。
アインがすぐに攻撃をしてこないと判断すると、イザヨとオクスンの元へと走り出す。何をする気だとアインは思うが邪魔をせず様子をみるのだった。
「あ、アババ様……」
自分達のもとへと駆けてきたアババを見上げる二人。
「あんた達……命もらうよ?」
「え?」
二人が理解する前にアババがそれぞれの頭に手をおいた。
「!? ぐおあぁぁあぁ!?」
吸われた。命を。アババが二人の命を吸い出したのだ! 二人分の命を自身の魔力に変換させたアババは先ほど以上の力をもってアイン達に対峙する。
「その魔法は何ですか? 人の命を魔力に変換するなんて……聞いた事がない!!」
「ふぇふぇふぇ……この魔法はわしが生み出した新たな魔法よ。この魔法を使い、わしはここまでの力と地位を手に入れたのじゃ」
そう言うとアババの足元に大きな魔法陣が生み出される。その魔法陣はアイン、レニの足元にまで及んでいたので後方に飛び魔力により描かれた魔法陣の外へと出る。
「……この魔法はわしが得意とする土属性の中でも最大の威力を持つ魔法でね。あんたがさっきやってた様に魔法で相殺出来るなんて思うんじゃないよ!」
アババがそう叫ぶと大地が盛り上がった! 木々を巻き込み、死体を巻き込み巨大な岩がアババを乗せたままゆっくりと空中へ浮いていく!
「で、でかい……」
「……」
アインはその魔法にしかめっ面をした位だが、レニはその大きさに驚きを隠せなかった。縦、横、高さ全てが十メートルあるのでは無いかと思う巨大な岩をアババが作り出したのだ。
それは並大抵の魔法使いでは出来ない事だからだ。たまたまレニが知らなかった事だが、アババ・アルバア・アフチックはグランディクス全体で知る人ぞ知る大魔法使いだったのだ。
「ふぇふぇ、驚いて言葉も出ないかい? ……そのまま潰れちまいな!!」
アババの叫び声とともに巨大な岩がアイン達を襲う! レニは自分では対処出来ない事態の為口出しをしないが、アインを連れて逃げ出そうか迷ってしまった。そして後悔する。この期に及んでアイン様を信じられないのか。この愚か者が……。内心反省していたレニの事を知ってか知らずかアインは右手をアババに向けて突き出す!
するとあれほど大きかった岩よりも更にでかい魔法陣が描かれた球体が巨大岩ごとアババを覆う!
「な、何じゃこれは!?」
アババは焦った! 岩の進行を止められたのだ! 自分のもつ最大の魔法をあっという間に防がれ驚きに目を見開く!
「まぁ? 確かにこれだっけの質量に対して属性魔法で相殺なんて面倒くさいわな? だったら、属性なんぞ関係無く消滅させちまえば良い。違うか?」
「!? 無属性を使うとでも言うのか! 無属性を扱うなど、人間が使うなどこの世に一人しか……まさか!?」
「そういやぁ、初めましてだったよな? 俺はアイン。アイン・スィフル・スタイニウム。最強の称号を名乗らせてもらっている」
「あ……あ、アイン・スィフル・スタイニウムじゃと。そんな馬鹿なぁ」
アババは絶望した。アインという存在と敵対した事実に。最強はグランディクスに三人居る。そして、最強の称号を持つ者はグランディクス全土の戦力をたった一人で滅ぼせると言われる程の存在達だ。
更に言えば。アイン・スィフル・スタイニウムとは、最強の称号が生まれるきっかけの存在。原点にて頂点。このグランディクスで生きていくうえで、最も敵にしてはいけない存在。
「知ってさえいれば……知ってさえいればぁ」
後悔先に立たずと言う言葉がある。レニの後ろにアインが居る事を知っていたならば、レニを攫おうと考えず二人が街を出るまで絶対に行動を起こさなかっただろう。
しかし、それらもアインの予測のうちだった。
初めこそ出会わなかった事は偶然だったが、レニとアババ達が接触した時に自分の存在を悟られると警戒されると考え目立たない様に行動していたのだ。
そうすればどうだ。レニの外見に目を付けたと見るやトントン拍子で話が進んでいった。今までは自分が強かった。だから上手く事を運べたのだ。だが、とうとうここで今までのツケが回ってきたのだ!
アババを覆う魔法陣の輝きが増す。その事に焦る。ダメだ。このままでは死んでしまう!
「わ、わしが悪かった! どうか、どうか命だけは!!」
「……何か勘違いしてねえか? もう良い、死ね」
「ひぃ!?」
もう話は終わったとアインが突き出していた手を一気に握る!
魔法陣で出来た球体はその行動に合わせて激しく発光した! アババの叫び声が聞こえた! 今、球体の中はアインの攻撃的な魔力に満たされたのだ!!
その時の光は、数キロとは言え離れた街の人々でも目を覆う程の激しい輝きだった。
リメイク前のデータ間違えて消しちゃった(´・ω・`)
これからの話はリメイクどころか新作レベルかもしれないYO。




