レニ、事件に巻き込まれる
港街に到着→酔っぱらいに絡まれる→勝利!→ご飯食べます
「お仕事中すみません。貴方が店主で間違いないでしょうか?」
アインとレニは食事を終えた時、レニがカウンター越しの店員に支払いと共に声をかける。
「そうですね。私が店主を務めさせていただいています。どうかなさいましたか?」
店主の男は穏やかな雰囲気で応対する。
旅人が多く来るであろう街で料理を振舞う店を経営しているからか、慣れた様子で応えた。
「私達は旅をしている身なのですが、ここいらで最近何か……事件等があったと言う話はありますか?」
「事件……ですか。何故?」
「簡単に言えば、厄介事を避ける為です」
「なるほど、そういう事でしたか。そうなりますと……」
急に事件はあるかと尋ねられて訝しんだ店主だったが、触らぬ神に祟りなしと言うものかレニの言葉に納得し最近の出来事を思い出そうとする。
「あー、ありましたね。そうそう、お嬢さん。気を付けてください」
店主の言葉を聞いて眉をピクリと動かすアイン。実はこの男。さっきから欠伸やらなんやらで話を聞いていなさそうにしていたのだ。が、実は聞いていた様である。
「はぁ……気を付けて、ですか?」
「ええ。最近、街の若い娘……いや、それだけじゃなく街の外から来た娘が行方不明になった事件が起きているんですよ。それが前回で十回目」
お嬢さんもとても可愛らしい方ですから用心して下さい。と言う心配してくれた店主だったが、アインは立ち上がるとごっつぉさんとごちそうさまの砕けた言い方をしてすぐに背を向けて歩きだした。
そんなアインにレニが少し慌てて店主に情報の礼をして待ってくださいと小走りで追いかけていった。
扉をくぐり外に出るとアインはすでに数メートル先を歩いており、しかも人集りが凄くなっていて追いつく事がなかなか難しい状態だった。
「もう……アイン様ったら」
悪態を付いた言葉だが、しょうがないなぁと言った感じでその表情は優しげな笑みを浮かべている。
レニは追いかけようと思い動き出そうとするタイミングでこちらに近づいてきている三人に気づいた。
一人は髪を七三に分けてちょび髭を生やしたちょいと裕福そうなおっさん。次の一人は頭を綺麗に剃った若い青年。最後の一人は顔以外をローブで包まれた老婆。肌色がとても悪く、どちらかと言うと肌色と言うより鼠色みたいな肌をしていて健康はあまり良くないのかなーとレニは少しばかり場違いな感想をもってしまった。
ある程度近づいてきた三人組の一人、名前はまだ判らないので若禿と言おう。若禿がどこか嬉しそうな顔をしながらレニに声をかけてきた。
「失礼。先ほど酒に酔った男性三人に絡まれていたと言うのは貴女ですか?」
「? 間違いありませんが、何故それを?」
レニの疑問は本人としては当たり前の事だった。
基本注目の的になる事が嫌いなアインに合わせるレニなので、件の三人組をこちらから出向いてこの街の自治警備兵の下へ連れていく事も無いし、わざわざ野次馬達にアピールするなんて事もしなかった。
……つもりだが、男のアインはともかくとしてレニは十中八九高い評価をもらえる容姿をしている。
そんな彼女が酔っていたとは言え、大の男を三人もあっという間に葬り去ったのだからレニの意図は関係無くすっかり皆の記憶に残っていたのだ。
とても強くて、とても可愛い女の子が居た。として。
「あまりにも衝撃的な光景だったのでしょうな。騒動があってから瞬く間にわたくし達の耳に入ってきましたよ」
若禿とは違う方の男が言う。
「自己紹介が遅れました。わたくしはこの街の長を務めさせてもらっているイザヨ。こっちの頭を丸めているのが……」
「息子のオクスンです」
「そして、こちらのお方がこの街の発展の為に力を貸していただいているアババ様だ」
紹介されたオクスンは先ほどから変わらず笑顔と言うべきか、にやついた顔をしてレニを見ている。
その様にレニは話を円滑に終わらせる為に極力嫌悪感を出さないように意識した。
「私は、レニ・アルバア・ウム。未熟者の身ですが、魔法使いを名乗らせてもらっております」
「へぇ。レニさんも魔法使いの称号を。アババ様も魔法使いの称号持ちですが……さぞかし、お強いのでしょう」
レニの簡素な自己紹介を聞いたオクスンが目を見開いて驚くが、すぐさま賛辞の言葉を贈る。若さだからか、綺麗な娘に気に入られようとしている様子を感じられる。
「いえ……先程申しました様に、まだまだ未熟です」
「かっかっか……謙虚なさんな、お嬢さん。わしと比べれば確かに魔力量は少ない様じゃが、同じ年の者で比べれば十分過ぎる能力を持っておるぞ」
「おお。アババ様がそう仰る程でしたら、期待も大きくなります」
今まで黙っていたアババがレニの言葉に感心をもって返すとイザヨが嬉しそうにそう言ってきた。
隣のオクスンも頷いているが、未だに用件を聞いていないレニは首をかしげるしかなかった。
「さて、このままでは話が進みません。どういった様で私に声をかけたのですか?」
「ああ、すみませんな。立ち話で済ますには少々長い話になります。私の家まで案内しますので、そこで話をしましょう」
「ここでは話せない事?」
「ええ。レニさんの様に女性の身で強い方を、今この街で起きている事件を解決出来る様な方を探していたのですよ」
「……それはどういった意味で?」
「詳しくは家で、ですが……旅人である君に仕事を依頼したいのですよ」
そう言って、背を向けて歩き出すイザヨ。アババも続いて移動を開始し、オクスンはこちらですとレニに進行方向を提示してレニが歩き出すのを待つ。
レニは考えた。
何故、ギルドで依頼しないのか。何故、いきなり現れた私なのだろうか。何故、私よりも凄い魔力量を持つアババが動かないのか。
しかし、疑問点を挙げた所である言葉を思い出し考えるのを止めてオクスンの言われた方に足を進めた。
何か問題が起きたなら、それ以上の力で潰せば良い。
アイン・スィフル・スタイニウムの言葉である。
四人がその場から去った後、誰にも気付かれない儘小さな光を放つ玉が現れ、四人を追う様に飛んでいった。
ああ……戦う描写が無いと文字数が伸びないorz




