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この国での処世術ってやつだ


 翌朝の始業前、昨日はざっくりと課題を聞いたところで、後は雑談して解散。二人は見た目通りの課題だったが、さてどうやって教えたものか……。ぼやぼやとこれからの対策について考えながら教室の扉の前に立つ。


「あ! 双葉、おっは――」


 扉に手をかけたところで、後ろから聞き覚えのある元気な声が飛んできた。あ、これは……まずいかもしれん。華やかなルックスの人気者のうえ帰国子女という最強属性(俺調べ)を持つ佐倉と、クラスで目立たない凡庸な俺に関わりがあるとバレれば――確実にめんどうくさいことになるだろう。


「佐倉、ちょっとこっちに来い!」


 そのめんどうなことを避けるため佐倉の挨拶を慌てて制し、人目につかない廊下の掃除用具入れの影まで引っ張って隠れる。


「ちょっと、挨拶しようとしたのにいきなり何⁉」


「あー……えーっとな、その……他の生徒の前で、俺にあんまり話しかけないでほしいというか……」


「えー! なんで? せっかく知り合ったのにその扱いは酷くなーい?」


 憤慨気味の佐倉。その怒りはごもっともと言えばごもっともだ。しかし、こちらにだってそれなりの事情というものがある。


「んーっと、別に佐倉が悪いんじゃないんだよ。その……階級差というか、お前はクラスで目立ってるから、俺に声をかけるとそれだけで目を引くんだよ」


「だから? そんなの別に良くない?」


「よくないんだ。とにかく、人目に付くところで俺に声をかけるな。この国での処世術ってやつだ。これも、日本での勉強のうちだぞ?」


「知り合った人に話しかけちゃいけないなんて、変な処世術……」


「変で結構。ということで、俺が二人に日本語を教えてるってことは誰にも言うなよ。よって、教室でも話しかけてこないこと。いいな?」


「なーんか納得いかないけど……、まあいっか。おっけー」


 微妙に不満気な表情の佐倉を開放し、先に教室に入ってもらう。危なかった……。山城の言う通りモブである俺と、キラキラ帰国子女に接点があるなんてバレたらめんどうくさいったらありゃしない。しばらくして周りに人がいないことを確認し、俺も教室に入ることにする。

 あー、朝からスリルを感じたぜ。はぁ……。と、ため息をつきながら自席に座る。ん? 窓際から視線を感じる気がするんだが……。ちらりとそちらの方向を向くと、柊がこちらを見ている。視線がパチリと合うと、彼女は慌てて目を逸らした。ひょっとして、こいつも挨拶……しようとしてたのか? いやまさか、そんなことはないはずだろう。うん。そう自分を納得させておく。


「双葉、はよーっす」


「お、おおおおう若葉! 今日も早いな!!」


 そう自分を納得させている間に、いつのまにか登校してきた若葉の挨拶が横から飛んできた。やべ、こいつにだけは色々とバレないようにしないと……。


「? 別にいつもの時間だろ? てか様子おかしくね?」


「そ、そんなことはないぞー! いつも通り元気120%の俺だ!」


「いやその言動がおかしさ120%だっつーの。あと、さっきお前柊さんとアイコンタクトしてたように見えたんだが……気のせいか?」


 ちっ、やっぱり見られてたか……。なぜかやっぱりこいつ微妙に勘が良いところあるんだよなー……。ここはひとまずゴリゴリとごまかしておかねばいけない。勢いは大事だ。


「き、気のせいだ! きっと花粉症で目が霞んでそう見えただけだろ。俺がおかしく見えるのも……そうだ、春で浮かれてでもいるんだよ。ははははは!」


「……ふぅ~ん。なーんか双葉にしてはハイテンションで怪しい気がするが……つーか浮かれているって失礼だなお前。ま、別にいーけどよ」


 半眼で俺を見つめる友人に、ひとまずそう適当に笑ってごまかすことしかできなかった。



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