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ソクラテス、現代に転生して哲学でAiに打ち負かされる  作者: がお


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8/8

【名言8】多数の意見ではなく、正しい意見に従うべきだ

前回は酔っぱらって、まともな文を書けなくて申し訳ありませんでした。

ラップ会場は、すでに撤収が始まっていた。

「やはり……私です。プラトンです」

名乗った瞬間、

場の空気が、ほんの少しだけズレた。

ソクラテスは、しばらく相手の顔を眺めてから言った。

「……若くないか?」

「あの時代よりは、若いです」

「ふむ」

それだけで、会話は終わったような顔をする。

二人の間に流れる奇妙な沈黙に、

主人公は耐えきれず、口を挟んだ。

「えっと……つまり、知り合い?」

プラトンは、少し困ったように笑う。

「ええ、まあ」

「紀元前からの、ですね」

「意味が分からないんだけど」

ソクラテスは、肩をすくめた。

「わしもだ」

……

少し場所を移し、

ステージ裏の簡易ベンチに腰を下ろす。

主人公が、ずっと気になっていたことを聞いた。

「でもさ」

「なんで、ラッパーなん?」

プラトンは、しばらく考えるそぶりを見せてから、

正直に答えた。

「分かりません」

「分からないの?」

「はい」

「気づいたら、そうなっていました」

主人公は、思わず聞き返す。

「え、理由とか……使命とか……」

「ありません」

即答だった。

「目が覚めたら、この時代にいて」

「街を歩いていたら、たまたま声をかけられて」

ソクラテスが、眉をひそめる。

「誰にだ」

「路上でラップをしていた若者です」

「ほう」

「意味は、ほとんど分かりませんでした」

「ですが、問いを投げると」

「返ってきたんです」

主人公が、首をかしげる。

「それで?」

一拍。

「つるみました」

「……つるんだの?」

「はい」

「楽しいので」

ソクラテスは、どこか満足そうに頷いた。

「それでよい」

プラトンは続ける。

「最初は、遊びでした」

「次に、場所が増えました」

「名前がつきました」

「肩書きが増えました」

「気づいたら?」

「プロ、と呼ばれていました」

主人公は、頭を抱える。

「軽すぎない?」

プラトンは、少し申し訳なさそうに言った。

「私も、そう思います」

ソクラテスは、鼻で笑った。

「人はな」

「理由を持ったと思った瞬間に、嘘をつく」

「……はい」

「偶然で始まった方が、よほど正直だ」

プラトンは、少し安心したように笑った。

「そう言ってもらえると、助かります」

主人公は、二人を見比べる。

――哲学者と、ラッパー。

――勝者と、敗者。

――師と、弟子。

どれも、どうでもよさそうだった。

ソクラテスが、ふとプラトンを見る。

「ところで」

「はい」

「勝ちたかったのか」

プラトンは、少し考えてから答えた。

「いいえ」

「ただ、話したかっただけです」

ソクラテスは、満足そうに頷いた。

「それなら、まだ対話は続いておる」

……

プラトンは、少しだけ姿勢を正した。

「ところで、先生」

「む」

「なぜ、ここに?」

ソクラテスは即答しなかった。

天井を見て、少し考える。

「気づいたら、ここにおった」

「……理由は?」

「分からん」

プラトンは、安心したように頷いた。

「ですよね」

主人公が割って入る。

「え、ちょっと待って」

「二人とも理由ないの?」

「ない」

「ないですね」

揃って言う。

主人公は、頭を抱えた。

「ところで」

「先生は今、何をなさってるのですか?」

プラトンが、ソクラテスに聞いた。

「わしは今……」

少しだけ間を置く。

「働いておる」

「……はい?」

「労働だ」

「職は?」

「店番だ」

「……どのような?」

「コンビニという所である」

プラトンは、数秒沈黙した。

「……あの」

「二十四時間、灯りが消えぬ場所ですか」

「そうだ」

「客が、絶え間なく来る」

「そうだ」

「理不尽も、多い」

「多い」

プラトンは、ゆっくり息を吐いた。

「なるほど」

主人公が驚く。

「納得するの!?」

プラトンは、真顔だった。

「最も人が集まり」

「最も言葉が交差し」

「最も考えずに選択が行われる場所」

ソクラテスが、頷く。

「問うには、ちょうどよい」

「よくないよ!」

主人公が即ツッコミを入れる。

プラトンは、少しだけ笑った。

「先生らしい」

「レジに立ちながら、何をしているんですか」

ソクラテスは、平然と答える。

「袋は要るか、と問う」

「年齢確認を、問う」

「温めるか、と問う」

プラトンは、目を伏せた。

「……問うことばかりですね」

「答えは、相手が出す」

「む」

主人公は呟く。

「哲学、コンビニに負けてない?」

ソクラテスは、少し考えてから言った。

「負けてはおらん」

「日常に、溶けただけだ」

プラトンは、静かに頷いた。

「私が言葉を広げすぎたせいで」

「先生は、ずいぶん狭い場所に立たされましたね」

「狭い方が、よく見える」

「……相変わらずです」

短い沈黙。

主人公が言う。

「で」

「今日のシフト終わったら、どうするの?」

ソクラテスは、少しだけ口角を上げた。

「予定などない」

プラトンも、同じように笑う。

「では、一緒に食事でもどうですか?」


…………


居酒屋には、夜の匂いがこもっていた。

油と酒と、

少し遅れた時間の混ざった匂い。

客は多いが、騒がしさは均一だった。

――奥の座敷を除いて。

笑い声が、転がるように響く。

主人公は、箸を止めた。

周囲の客も、一瞬だけ視線を向けて、すぐに伏せる。

「……なあ」

小さく言う。

「ちょっと、うるさくない?」

プラトンは、曖昧に笑った。

「居酒屋ですから」

「耳が痛む賑やかさだな」

そう言って、ソクラテスは立ち上がった。

ゆっくりと、男たちの席へ歩いていく。

「少し、声を落とせぬか」

場が、一瞬で静まった。

男たちの一人が、睨みつける。

「なんだ、おっさん」

「店の空気が、乱れておる」

「は?」

男が立ち上がる。

周囲の客が、気まずそうに視線を伏せた。

「俺たちが、何か迷惑かけたか?」

「騒がしくないよな?」

同意を求めるように、周囲を見回す。

誰も答えない。

「なあ?」

「……」

沈黙。

男は一歩前に出る。

「年寄り、ケガしたくなきゃ――」

そのときだった。

引き戸が開く。

「いらっしゃいませー」

入ってきたのは、私服の男だった。

コートを脱ぎながら、

自然に店内を見回す。

騒ぎを止めようともしない。

急ぎもしない。

視線が、主人公の席で止まる。

「おう」

「あ、店長こんばんは」

軽い会釈。

ただの、顔見知りの挨拶。

男は空いている席を探し、腰を下ろす。

注文を頼み、湯飲みに手を取る。

その短い間に――

大きな声、立った男、伏せられた周囲の視線。

すべてを、ゆっくりと把握していく。

「……なるほど」

独り言のように、そう言った。

それから、初めて座敷を見る。

「どこの組だ」

声は低いが、荒さはない。

確認するような口調だった。

男の表情が、変わる。

「ちょっと、飲んでただけで」

「そうか」

それだけで話は進む。

「なら、お前んとこの親分に聞こうか」

男は、ポケットからスマホを出した。

画面を見ることもなく、耳に当てる。

「……ああ、俺だ」

店内が、静まり返る。

「お前のところの若いのがな」

「今、騒いでる」

短い沈黙。

「場所?」

「居酒屋だ」

それだけで十分だった。

男は、通話を切る。

視線を、座敷へ戻す。

「……だそうだ」

通話が切れた、その瞬間。

座敷の男は、何も言わずに立ち尽くしていた。

さっきまで肩に入っていた力が、抜け落ちている。

(……違う)

何が、とは言えない。

だが、分かる。

この男は、

怒鳴らない。

脅さない。

名前も出さない。

それなのに――

話が、もう終わっている。

視線を向ける勇気が、出なかった。

目が合えば、何かを決められてしまう気がした。

「……すみません」

喉が、うまく鳴らない。

声が、思ったより小さく出る。

「こちらが、悪かったです」

深く、頭を下げる。

周囲の若い衆も、慌てて続いた。

「失礼しました」

「もう帰ります」

誰に命じられたわけでもない。

ただ、そうするのが正しいと分かっていた。


…………


居酒屋は、元の音を取り戻していた。

皿が触れ合う音。

酒を注ぐ音。

さっきまでの出来事が、

嘘のように遠のく。

店長は、いつの間にか同じ卓に座っていた。

特別な話はしない。

仕事の愚痴でもなく、武勇伝でもなく、

ただ、酒の味の話。

「この店、出汁がうまいですね」

プラトンが、静かに言う。

「余計なこと、してないからな」

店長が、そう返す。

ソクラテスは、黙って杯を傾けている。

何も言わないが、機嫌は悪くなさそうだった。

主人公が、ふと思い出したように言う。

「さっきのさ……」

「正直、怖くなかった?」

店長は、少し考えてから首を振る。

「怖いよ」

「でもな」

言葉を選ぶように、間を置く。

「静かにした方がいいって思った」

「それだけだ」

プラトンが、ゆっくり頷く。

「……まさに」

杯を置き、はっきりと言う。

「多数の意見ではなく、

 正しい意見に従うべきだ、ですね」

店長も、

「お、ソクラテスの言葉だな」

と愉快に笑った。

そのときだった。

少し離れた場所から、

Aiが淡々と、しかし確かに言葉を置く。

【正しい意見とは、それを貫こうとする勇気によってのみ、現実となる。】

だが、その場にいる全員が、

なぜか同じ意味を受け取った。

ソクラテスが、わずかに口角を上げる。

「ほう」

プラトンは、驚いたように目を瞬かせ、

それから、少しだけ笑った。

「……現代的ですね」

店長は、何も言わず杯を上げる。

「ま、飲もう」

酒の音が、再び重なる。

正しさは、主張されなかった。

ただ、そこに在った。



【多数の意見ではなく、正しい意見に従うべきだとは?】

声の大きさや数に流されず、

自分が「正しい」と理解した理に従え、ということだ。

この前、魂の種が1000pvいったので、続編をまた少しづつ書き始めます。そちらの方も宜しくお願いします。

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