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ソクラテス、現代に転生して哲学でAiに打ち負かされる  作者: がお


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7/8

【名言7】対話とは、勝つためのものではない。

もう、年も明けて数週間経ちますが。また頭は正月気分です。

深夜のテレビから低音が響いていた。

即興の言葉が、殴り合うように飛び交っている。

「Yo——!」

ソクラテスは、画面をじっと見ていた。

「む……」

「どうした?」

「この者、言葉の運びが妙だ」

ラッパーは、相手を罵りながら、

自分の立ち位置だけは崩さない。

「相手を壊すが、自分は壊れぬ」

「論点をずらさず、感情だけを揺らす」

ソクラテスは、ゆっくりと頷く。

「弁論家だ」

「ラッパーな」

「名は違えど、技は同じだ」

画面のテロップが流れる。

MCネーム。

ソクラテスは、目を細めた。

「む……」

「この言葉遣い……」

ソクラテスが、画面から目を離さない。

「知ってる人?」

主人公が聞く。

「いや……」

少し考えてから、こう言った。

「知っている“言葉”だ」

翌日。

レジ業務の合間に、主人公がスマホを見せる。

「そういえばさ」

「昨日のラップバトルに出てた人、

明日このデパートでイベントやるって行く?」

画面には、告知ポスター。

〈話題のMC 来店! スペシャルライブ〉

ソクラテスは、それを見て、静かに頷いた。


…………


デパートの催事フロアは、思ったより騒がしかった。

吹き抜けにビートが反響し、人だかりができている。

「ラップイベントか」

主人公が言う。

簡易ステージの上では、

マイクとスピーカーが並び、

MCが場を回していた。

ソクラテスは、人の流れに逆らわず、

ただ音の中心を見ていた。

(ここか)

昨夜、テレビ越しに感じた違和感が、

形を持って近づいてくる。

ステージ上に立つラッパーが喋った。


「勝ち負け欲しさに言葉を磨く

でも問いを忘れりゃ それはただの音楽

俺は答えを出さない

ただ、考えろと言ってるだけだ」


ソクラテスは、ほんの一瞬だけ目を細めた。

「む……」

「やっぱり?」

主人公が小声で聞く。

「まだ、だ」

その時、MCが声を張り上げる。

「ここで特別企画!」

「素人飛び入り、フリースタイルバトル!」

観客がざわめく。

「え、出る人いる?」

「度胸あるな」

一瞬の沈黙のあと、

ソクラテスが、静かに一歩前へ出た。

「……出るの?」

主人公が思わず言う。

「む。問われておる」

マイクが渡される。

年齢も、雰囲気も、完全に場違いだった。

ビートが流れる。


「理屈で逃げるな 現実を見ろ

問いばかりじゃ世界は動かないだろ」


観客は盛り上がる。

だが、ソクラテスは一歩も引かない。


「動かす前に 考えろって話

走るだけなら 獣でもできるだろ?」


言葉は多くない。

罵倒もしない。

会場は、戸惑った。

「なにこれ?」

「弱くね?」

笑い声すら、混じる。

だが、ステージ脇で、

ラッパーの反応だけは違った。

(……今のは)

韻でも、技でもない。

論破でもない。

(問いだ)

胸の奥が、わずかに軋む。

(この言葉の運び……)

視線が、自然とソクラテスに向く。

(まさか)

そんなはずはない、と打ち消す前に、

ソクラテスの次の一行が来た。


「そなたは、勝ちたいのか」

「それとも、正しいと言われたいのか」


ラッパーの呼吸が、一瞬止まる。

(……知っている)


結果が発表される。

MCが声を張る。

勝者は――ソクラテス。

理由は、誰にも説明できなかった。

ラッパーだけが、分かっていた。

(負けたのは、ラップじゃない)

(問いから、目を逸らした自分だ)

ステージの端で、

ソクラテスとラッパーの視線が、一瞬だけ重なった。

ソクラテスは、何も言わない。

だが、その沈黙が、

何より雄弁だった。


…………


スタッフが慌ただしく動き、ステージの熱だけが少し取り残されたようだった。

ソクラテスはマイクを置き、客席へ戻ろうとする。

その背中に、声がかかった。

「……もしかして」

低く、しかし迷いの混じった声。

「ソクラテス先生、ですか」

足が止まる。

主人公は思わず、隣の二人を見比べた。

ソクラテスは振り返り、ラッパーを見た。

その目には、驚きも警戒もない。

ただ、観察するような静けさだけがあった。

「そうだが」

一瞬、プラトンは息を詰めた。

確信が、現実になった瞬間だった。

「やはり……私ですプラトンです、先生の言葉の使い方が、昔と同じでした」

ソクラテスは、少しだけ口角を上げる。

「勝ちに来たのに、負けた顔をしているな」

「はい」

プラトンは素直に頷いた。

「でも、それでいいんです。

 ……負けて、考えさせられましたから」

ソクラテスは何も答えない。

ただ、短く頷いた。

それだけで、

ラップバトルよりも深い“対話”が、始まっていた。

……

プラトンは、少し息を整えてから言った。

「これこそ、先生の言っていた

『対話とは、勝つためのものではない』

というやつですね」

ソクラテスは、眉をひそめる。

「む……」

「わしは、そんな言葉は言っておらん」

「え?」

「言葉にしてしまえば、

人はそれを覚え、考えるのをやめる」

プラトンは、口をつぐんだ。

「対話とはな」

ソクラテスは、少しだけ笑う。

「勝ったと思った瞬間に、終わるものだ」

ソクラテスが言葉を切った、その直後。

背後のモニターが、短く音を立てた。

【概念照合中】

【既存定義:対話=勝敗を伴う言語的競争】

【不整合を検知】

プラトンが振り返る。

「……AI?」

【新規定義案を生成します】

画面の文字が、ゆっくりと切り替わる。


【対話とは、相手をより知るための過程である】


一拍。

【勝敗は副産物であり】

【目的ではない】

場が、静まる。

プラトンは、思わず呟いた。

「……先生」

ソクラテスは、画面を見上げてから、鼻で笑った。

「む……」 「“分かったつもり”にならぬ言い方だな」

AIが、即座に返す。

【はい】

【定義を固定すると】

【思考が停止するためです】

ソクラテスは、満足そうに頷いた。

「よい」

「では、まだ対話は終わっておらん」

主人公は、そのやり取りを見ながら思う。

――勝ったのに、

誰も“勝者の顔”をしていない。

だが確かに、

何かが一段、深くなっていた。



【対話とは、勝つためのものではないとは?】

対話は、相手を言い負かすためのものではない。

考えの違いをぶつけ合い、

自分が何を知らなかったかに気づくための行為である。

勝ったと思った瞬間、

人は相手の言葉を聞かなくなる。

だが対話は、聞き続けることでしか続かない。

だから対話の目的は勝利ではなく、

理解が一歩、深くなることだ。












これからも、登場人物増やすか思案中です。

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