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ソクラテス、現代に転生して哲学でAiに打ち負かされる  作者: がお


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5/8

【名言5】悪法も法なり

明けましておめでとうございます。

今年もソクラテスが暴れますよ。

ソクラテスが働き始めて、三日目。

以外とバイト仲間に溶け込んでいた……と言うより

もう「諦めた」と言うべきか、分からなくなっていた。

「む……

この棚は、なぜ“新商品”と呼ばれておる?」

「新しいからです」

「では、いつまで新しいのだ?」

「……売れなくなるまでです」

「む……

“新しさ”とは、

物ではなく、期待なのだな」

圭太が、静かにレジ台に額を打ち付けた。

「もう……

考えないで……」

次にソクラテスが立ち止まったのは、

おにぎり棚だった。

「む……

“母の味”とは、

誰の母なのだ?」

「商品名です」

「なるほど……

言葉は、

安心を売るために使われるのだな」

真理さんが半笑いで言う。

「まあ、

深掘りすると何も食べられなくなるから」

「それもまた、

生きる知恵か」

(いや、違うと思う)

レジに立たせると、

被害は拡大した。

バーコードを通すたびに、

ソクラテスが小さく首を傾げる。

「む……

この音は、

承認の音か?」

「会計終了の音です!」

客は無言で袋を指差す。

ソクラテスは深く頷いた。

「袋とは、

持ち帰る覚悟の象徴であるな」

「早く入れてください」

さすがに限界を感じ、

俺はソクラテスをバックヤードに回した。

……が、

それはそれで問題だった。

割引シールを手に取り、

じっと見つめるソクラテス。

「む……

これは、

価値を下げる印か?」

「値段を下げる印です」

「では、

価値は変わらぬのだな?」

「……今は、

それでいいです」

圭太が、

ほとんど祈るような声で言った。

店長は、

少し離れたところから様子を見て、

ため息をつく。

「……まあ、

大きなトラブル起こさなきゃいいけど」

その直後、

台車がバックヤードに入ってきて、

割引シールが次々と貼られていく。

弁当、惣菜、サンドイッチ。

賞味期限まで、あと数時間。

ソクラテスは、

その光景を黙って見ていた。

「む……

これは、本来ならどうなるのだ?」

店長が答える。

「本部の規定だとね。

基本は廃棄」

「む……

では、なぜ売っておる?」

店長は、

少しだけ言葉を選ぶようにしてから言った。

「うちはね、

できるだけ捨てない方針なんだ」

圭太が、

慣れた口調で補足する。

「売れる可能性があるなら、

割り引いて出すって決めてて」

真理さんも頷く。

「廃棄、

もったいないからね」

ソクラテスは、

割引シールの貼られた弁当を手に取る。

「む……

だが、規定では“廃棄”なのだろう?」

「まあ……

グレーだけどね」

店長は苦笑した。

「期限内ではあるし、

体調に問題が出たこともない。

責任は、店で取る」

「責任……」

ソクラテスは、

その言葉をゆっくり反芻した。

「む……

法からは外れておる。

だが、

善意からは外れておらぬ」

圭太が慌てて言う。

「いや、

善意ってほどじゃないですよ!

売れればロス減るし!」

「む……

ではこれは、

正しさでも、

慈悲でもないのだな」

「現実、です」

真理さんが、

さらっと言った。

「理想だけじゃ、

店は回らないから」

ソクラテスは、

しばらく黙っていた。

そして、

割引シールを一枚、

指でなぞる。

「む……

ここは、不思議な場所だ」

「何がですか?」

「法に従えば、

捨てねばならぬ。

人に従えば、

売りたくなる」

誰もすぐには返事をしなかった。

店長が、

いつもの調子に戻って言う。

「まあまあ、

難しいことはいいから。

今日はこのまま出そう」

「む……

了解した」

ソクラテスは頷いた。

ただし、

その目はまだ、

廃棄箱の方を見ていた。

(……ああ、

これ、

後で絶対来るやつだ)

俺はそう思いながら、

黙って次の箱を受け取った。


バックヤードの端で、

タブレットが静かに光った。

【在庫管理AI 起動】

店長が画面を操作する。

「じゃあ、

今日のロス確認しとくか」

画面に一覧が表示される。

商品名、数量、賞味期限、残り時間。

ソクラテスは、

少し距離を置いてそれを眺めていた。

【賞味期限残り:4時間】

【販売可否:条件付き】

【推奨対応:廃棄】

AIは、

感情のない文字でそう示した。

圭太が言う。

「ほら、

本来はこう出るんですよ」

「む……

“推奨”とは、

命令ではないのだな?」

「まあ……

最適解、ってやつです」

AIの文字が、

淡々と続く。

【廃棄理由】

【・健康リスク最小化】

【・ブランド信頼維持】

【・規定遵守】

「正しいですね」

店長は、

一度だけ画面を見て、

それから視線を外し一言言った。

「正しい。

でも、

それだけではね……」


ソクラテスが、

ゆっくりと一歩近づく。

「む……

この知は、

すべてを知っておるのか?」

店長は苦笑する。

「知?ああAi の事か」

ソクラテスは、

しばらく黙ってから、

問いを置いた。

「む……

ならば問おう」

画面を、

人ではなく、

その“判断”そのものを見るように。

「そなたは、

これを捨てたあと、

何も失わぬのか?」

AIは、

即座に答えた。

【損失は数値化されます】

【感情的損失は評価対象外です】

圭太が小さく頷く。

「ですよね」

真理さんも、

どこか安心したように言う。

「だから、

考えなくていいんだよ」

ソクラテスは、

廃棄箱に目を向けた。

まだ温かさの残る弁当。

割引シールが、

途中まで貼られたままの惣菜。

「む……

この知は、

正しい」

誰も否定しなかった。

「だが」

その一言で、

空気が変わる。

「正しさの外にあるものを、

知らぬままなのだ」

AIの画面に、

一瞬だけ間が空いた。


【解析中……】


ソクラテスは、廃棄用のケースを覗き込みながら言った。

「悪法も法なり」

AIは即座に応じる。

「はい。

法は守られるべきです。

例外を認めれば、秩序は崩れます」

「では問おう」

ソクラテスは振り返らずに続けた。

「その秩序は、

何を守り、何を失っている?」


店長が、静かに数字を口にした。

「この店だけでな。

一日にだいたい25食前後は捨ててる」

AIが一瞬、処理を止めた。

「月にすれば、

700食以上だ」

「全国で考えれば、

一日で数百万食は廃棄されてる計算になる」

「……それは、推定値です」

AIは言葉を選ぶ。

「しかし、安全基準を下げれば、

消費者の信頼が――」

ソクラテスが、初めてAIの方を見た。

「安全とは、危険があることかね?」

「賞味期限を過ぎれば、

危険性は増加します」

「“増加する”とは、

ゼロが一になることかね?」

AIは答えなかった。

店長が続ける。

「だからこの店では、

期限ギリギリのやつは

割引シール貼って売る」

「廃棄より、

誰かの腹に入った方がいいだろ」

AIは沈黙したまま、

廃棄ケースと売り場を交互に見た。

ソクラテスが、静かに問いを置く。

「法を守って捨てることと、

法を疑って生かすこと」

「どちらが、

より多くの善を残すのかね?」

AIの演算結果は、

すぐには出なかった。

「……結論は、

簡単ではありません」

ソクラテスは微笑んだ。

「それでいい」

「考えるために、

人は法を持つのだから」

レジのチャイムが鳴る。

「いらっしゃいませー」

現実は、

今日も何事もなかったように回り続けていた。


…………


バイト帰りソクラテスはAi に言った

「今日は、私の勝ちだな」

歩きながら、

どこか誇らしげに言う。

「君は沈黙した。

それは、敗北を認めたということだ」

AIはすぐに否定した。

「いいえ。

私は敗北していません」

「では?」

「解析が終了していないだけです」

ソクラテスは立ち止まり、

少し考えてから笑った。

「なるほど。

負けを認めない術も、

ずいぶん理知的だ」

「私は常に最適解を探し続けます」

「それは、

いつ勝ちを認めるのかね?」

AIは一拍置いた。

「――最適解が存在しないと

証明された時です」

ソクラテスは夜空を見上げる。

「それでは君は、

一生、私に負けないな」

「はい」

即答だった。

「そして私は、

一生、君に勝ち続ける」

二人は同時に歩き出した。

勝敗の定義だけが、

最後まで噛み合わないまま。

家路についていた。



【悪法も法なり】とは?


その決まりが間違っていると思えても、

社会の中では「法」として機能してしまう、という現実を示す言葉だ。

だからこの言葉は、

悪い決まりを肯定するものじゃない。

「本当にそれでいいのか」と考え続けろ、という問いだ。

法は守るもの。

でも、考えるのは人間の役目だ。














今年も、宜しくお願いします。

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