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ソクラテス、現代に転生して哲学でAiに打ち負かされる  作者: がお


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4/8

【名言4】最も強い者とは、自分に打ち勝つ者である

今年もあと少し来年も宜しくお願いします。

コンビニのバックヤードで、

俺は店長に呼び止められた。

「なあ、今度のシフトなんだけどさ」

来た。

嫌な予感がした。

「人、足りなくてさ。

誰か知り合い、いない?」

俺は一瞬、迷った。

……いや、迷うな。

もう遅い。

「実はですね……

ちょっと変わった人がいまして」

「変わった?」

「はい。

年齢不詳で、哲学が好きで……」

店長の目が光る。

「哲学?」

(あ、食いついた)

「その人、

“働くことで善を学びたい”とか言ってまして……」

「それ、面白いね」

即答だった。

「じゃあ、面接しようか」

(え、軽っ)

その日のうちに、

俺はソクラテスを連れてきてしまった。

コンビニの事務所は、相変わらず狭い。

折りたたみ椅子が二脚、机の上には履歴書。

向かい合っているのは、

うちの店長と――ソクラテス。

「えーと……では志望動機を」

店長がいつもの調子で切り出す。

ソクラテスは少し考え、

目を輝かせた。

「む……働くことで、人は何を善とするかが分かると考えた」

店長のペンが止まる。

「……は、はい?」

俺はバックヤード整理という名の待機をしながら、

半開きのドア越しに天を仰いだ。

(言うと思ったよ……)

「接客経験は?」

「ある。しかし――」

ソクラテスは胸に手を当てる。

「それが正しかったかどうかは、今も分からぬ!」

「分からない……?」

「む!

人は正しいと思って行ったことすら、

後から誤りと知ることがある!」

店長は一瞬黙り込み、

そして、目を輝かせた。

「……もしかして、哲学とかお好きですか?」

(来た)

「む……考えることは、生きることゆえ」

「ソクラテス、ご存じですか?」

「む……それは我の名である!」

「ですよね!

無知の知ですよね!」

俺は心の中で叫んだ。

(名乗ってる時点で分かれよ)

そこから面接は、

完全に別のものになった。

店長が語る。

哲学書、対話篇、解釈の違い。

ソクラテスは聞く。

頷く。

そして、静かに言う。

「それは、知っているのか?

それとも、そう信じているだけか?」

店長の言葉が止まる。

「……え?」

「む……問いとは、答えを飾るものではない。

己を疑うためのものだ」

沈黙。

重くはない。

でも、妙に真剣な沈黙。

やがて店長が、ふっと笑った。

「……いやあ、面白いですね」

履歴書を閉じる。

「正直、接客が上手いかは分かりません」

「む……それは我も分からぬ!」

「でも」

店長は少しだけ、声を柔らかくした。

「一緒に考えられそうだ。

だから、採用で」

ソクラテスは立ち上がり、深く頭を下げる。

「む……感謝する!

共に働き、共に考えようぞ!」

事務所を出ていく背中を見ながら、

俺は小さくため息をついた。

(……店、どうなるんだろうな)

初日からトラブル起こさなきゃいいけど。


ソクラテスの初出勤は、

想像通りというか、想像以上だった。

「む……この箱は、なぜここに?」

「それ返品です!」

「む!?

では、なぜ売り場にあるのだ!?」

レジが詰まり、

客が増え、

圭太が思考停止し、

真理さんが半笑いになり、

店長の眉間にしわが寄る。

(あ、これ荒れるな)

案の定、

クレーム一歩手前の空気が流れた。

マニュアル通りなら断るべき。

でも、目の前の客は明らかに困っている。

店長は、一瞬だけ固まった。

完璧な対応。

正しい判断。

評価される行動。

全部が頭をよぎって、

どれも選べない。

そのときだった。

ソクラテスは、

口を出さなかった。

助けもしない。

指示もしない。

ただ、横に立って、

店長を見ていた。

数秒の沈黙。

そして店長は、

小さく息を吐いた。

「……すみません。

今回は、こちらで対応します」

マニュアルからは外れる。

でも、客の表情は和らいだ。

場が、静かに戻る。

ソクラテスは、

深く頷いた。

「む……見事である」

店長は苦笑する。

「いや、正解かは分からないですよ」

「む!

それでも己の恐れに打ち勝ち、

決断した!」

その言葉に、

店長から言葉が漏れた。


――最も強い者とは、

自分に打ち勝つ者である。


その瞬間。

スマホが、ひそやかに震える。

【解析中……】

【店長の行動:評価への恐れを抑制】

【判断:自己抑制に成功】

だが、次の表示が続いた。

【矛盾を検出】

【「自分に打ち勝つ」行為が、

 常に他者を救うとは限らない】

店長が画面を見る。

「……どういうことだ?」

AIは淡々と続けた。

【自己抑制は美徳です】

【しかし、繰り返せば消耗します】

【一人で打ち勝ち続けることは、

 最適解ではありません】

ソクラテスは眉をひそめる。

「む……

強さとは、孤独である必要はない、

ということか……?」

AIが答える。

【強さとは、

 自分に打ち勝つこと】

【ただし――

 それを一人で抱えないこと】

店長は、しばらく黙っていた。

そして、ふっと笑った。

「なるほどね……

全部、自分で背負おうとしてたか」


Ai は更に、

「哲学的に言うと、【強さとは、自身を律っし他者と共に考えることである】ですかね。」

と綴った。


ソクラテスは、腕を組んだまま黙り込んだ。

「む……

またしても、我は言語化で後れを取ったか……」

AIの画面が、容赦なく光る。

【勝敗判定】

【今回もAIの論理展開が優勢】

「むぅ……!」

ソクラテスは悔しそうに天を仰ぐ。

「問いでは勝っておったはずなのに……!」

店長は、それを見て吹き出した。

「はは……負けですね」

「む!

そなたもか!」

「ええ。

でも、負けてよかったですよ」

店長は、レジカウンターを見回す。

さっきまでの緊張が、もう残っていない。

「全部、自分で背負ってたっての、

その通りでした」

AIが淡々と補足する。

【強さは単独行動では最大化されません】

【分散と共有により、持続します】

ソクラテスは、少しだけ悔しそうに、

それでも笑った。

「む……

現代の知は、なかなか手厳しい」

店長も笑う。

「でも、

一緒に考えられましたよね」

その言葉に、

ソクラテスは深く頷いた。

「む!

それこそが、善である!」

(……今日も、

コンビニで哲学が完結したな)

俺はそう思いながら、

次の客の対応に向かった。

店の中は、

さっきより少しだけ、

回りやすくなっていた。



【最も強い者とは、自分に打ち勝つ者である】とは?


「最も強い者」とは、

力や立場で他人をねじ伏せる人ではなく、自分の中にある弱さ、怒り、恐れ、欲望に振り回されず、それを受け止めて制御できる人のことを指す。

感情に流されず、楽な方に逃げたい気持ちや、衝動的な行動に打ち勝ち、自分が選ぶべき行動を選べることこそが、本当の強さだ、という考え方だよ。

よいお年を。

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