【名言3】私は、自分が何も知らないということを知っている
もう一つの小説が完結したので、また書き始めましたので宜しくお願いします。
狭い一室で、大学生とソクラテスは向かい合っていた。
「で、君は今、何か仕事をしているのか?」
ソクラテスが尋ねる。
「いや……まだ何もしてない」
主人公は肩をすくめる。
「む……では、我はどう働けばよいのか……?」
ソクラテスは真剣な顔で目を輝かせ、主人公を見つめた。
主人公は少し考え、笑いながら言う。
「じゃあ、とりあえず俺と同じコンビニでバイトしてみるか?」
「む……なるほど!
若き者と共に働き、現代の善を学ぶのだな!」
ソクラテスは胸を張り、使命を帯びたかのように言った。
こうして彼は、現代社会での働き方を学ぶため、主人公のバイトに同行することになった。
二人はアパートを出て、コンビニの前に立つ。
「ここが俺のバイト先だ」
主人公が指さすと、ソクラテスは目を大きく見開き、周囲を観察する。
「む……ここが現代の善を学ぶ場……!」
店内に入ると、忙しく動く店員たちの姿が目に入る。
主人公は苦笑しながら言った。
「じゃあ、まずは同僚を紹介するね」
レジ担当の真理さんが軽く手を振る。
「初めまして。今日から一緒に働く……わけじゃないんですよね?」
「まだです」
主人公が答えると、真理さんは笑って頷いた。
「それで、もう一人。バイト仲間の圭太くん」
圭太は軽く会釈する。
ソクラテスは深く頭を下げ、真剣な声で言った。
「む……我、ここで学ばんとする者、ソクラテスと申す!」
主人公は内心ため息をつく。
(……今日も振り回されそうだな)
ふと見ると、圭太が商品棚の前で固まっている。
主人公は小声でソクラテスに説明した。
「こいつ、考えすぎるあまり行動が遅いんだ。
計画は立てるけど、なかなか手を出せなくてさ」
ソクラテスは静かに圭太の前へ歩み寄る。
「む……若き者よ。
そなたの行動は、慎重であり、思慮深い」
そして、いつもの言葉を口にした。
「『私は、自分が何も知らないということを知っている』」
圭太はその言葉を噛みしめるように、棚を見つめながら言う。
「その通りです……
この商品はこう配置した方がいいとか、
こう売った方がいいとか、色々考えるんですが……
でも、出過ぎた真似はまずいんじゃないかって、いつも考えてしまって……」
ソクラテスは深く頷いた。
「む……慎重さと謙虚さ。
それは学ぶ者として、正しき姿勢である」
そのとき、圭太は棚の上の商品がわずかに揺れていることに気づいた。
「……落ちそう……でも、どうすれば……」
支えるべきか、整理してからか。
頭の中で思考だけが巡り、手は止まったまま。
次の瞬間——
商品が次々と棚から落ちた。
「わっ!」
床に散らばる商品。
店内に小さな騒ぎが広がる。
ソクラテスは静かに言った。
「む……考えすぎて、
手を動かす前に事態が動いたのだな……」
圭太はうつむいた。
「……考えすぎて、結局、手が出せませんでした……」
主人公は商品を拾いながら呟く。
「……行動しなきゃ、始まらないんだよな」
そのとき、スマホの画面がひそやかに光る。
【圭太の行動を解析中……】
【慎重すぎる思考により、行動が遅れ、事態が悪化】
【提案:小さな行動を優先せよ】
主人公も頷く。
「完璧な答えを持ってる人なんていない。
だから、まず動いて、覚えるんだ」
画面に一文が表示された。
「無知とは、立ち止まる理由ではない。
行動する理由である。」
圭太は静かに読み上げる。
「……知らないから、動いていい……」
そして、棚に手を伸ばした。
「次は……考えすぎる前に、動いてみます」
その横で、腕を組んでいたソクラテスが眉をひそめる。
「む……それは……
わ、わたしの言葉ではないな……?」
AIが淡々と答える。
「あなたの思想を、現代的に拡張した表現です」
ソクラテスは天を仰いだ。
「知らぬことを知っていたのに……
その先を、言語化されてしまったか……!」
主人公は笑い、
圭太も少しだけ、肩の力を抜いて笑った。
【私は、自分が何も知らないということを知っている】とは?
人はたいてい、少し知っただけで「分かったつもり」になってしまう。
だがソクラテスは、
どれだけ学んでも、人は完全には分からない
という事実そのものを、はっきりと自覚していた。
「自分は知っている」と思った瞬間、
人は考えることをやめる。
問いを立てなくなり、学びは止まる。
だからソクラテスは、
「私は知らない」という地点に立ち続けた。
それは立ち止まるためではない。
問い続けるための姿勢だ。
やっぱり哲学は難しいです(笑)




