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普通

普通に知らないで終わる

作者: 高月水都

前作の初恋の女の話。

「メリンダの髪って、綺麗なストロベリーブロンドだな」

 常連の客が褒めてくれるのを聞いて、

「ありがと。自慢の髪なのよ」

 メリンダはそっと見せつける。


「ちなみにこの髪を維持するのに向いているのはこの新商品のシャンプーとリンス。恋人に買ってあげたら喜ばれるわよっ」

 カウンターに置いて宣伝をすると、髪を褒めてくれた客は呆れたように笑い。


「メリンダに掛かれば全部商売の話だな」

「褒めても値下げしないわよ。好きな女性の好感度を上げるものにけちけちしない♪」

 この常連の客が最近花屋の看板娘と良い仲なのは商人ネットワークでしっかり知っているのだ。


「ったく商売上手だな」

 常連の客が文句と言うか愚痴を言いながらもシャンプーとリンスを購入してくれた。律儀だなと思いつつ、さすがにシャンプーとリンスはおまけにあげれないが、最近商品として売り出そうと思っているバスボムをおまけにつけておく。


「気前いいなっ」

「宣伝だからね。良いと思ったら次回は購入してね♪」

「ちゃっかりしているな」

 そんないつも通りの会話を楽しみ次のお客を待つ。


 カランコロンと扉につけてあるベルが鳴り、どこかの貴族の家に勤めているような恰好の女性の二人組が訪れる。


「この店のこの商品よ。お嬢さまがお求めなのは」

 先輩らしき女性が告げるのは毛染めの缶。


「これが一番長く、綺麗に染まるのよ」

 きちんと覚えなさいと教えて、缶を数本レジに持っていく。


「これを下さい」

「はい。分かりました」

 値段を告げて、袋に詰めていく。


「店員さんも染めているのですか?」

 後輩らしき女性がじっと私の髪を見つめて尋ねる。


「えっ、これは……」

「こんなに綺麗に染まるなら。確かに購入する甲斐がありますね。どうやって染めていますか? 肌荒れとかは?」

 矢継ぎ早に聞かれて、先程袋に入れた商品のカラーが私の髪の様なストロベリーブロンドだと気付き、勘違いしているのだと思った。

 だけど、訂正する暇もくれない。


「髪を染めると髪が傷んでしまって、肌荒れも心配なんですよ」

 どうしたらいいでしょうと相談までされて、

「それなら、このシャンプーとリンスを……」

 髪質をよくするのに最適なのは確かだ。嘘は言っていない。


「なら、それも買います」

 すぐにお金を払ってくれたので追加で袋に入れた。


「これでお嬢様の髪が傷むのもなくなるかしら」

 心配そうに出ていく客の後ろ姿を見送って、私のような髪に憧れているのかなと想像してみる。


「あっ」

 ふと壁に掛けてある時計を見るとそろそろ休憩の時間だ。


「おか~さん。時間だから出てくね~」

 奥でのんびりしている母に声を掛けて、早朝からがんばって作ったお弁当を持って外に出る。


「ニール!! 来たよ~」

 あるアパートに行き、呼び掛けるとすぐに疲れた顔で出てくるニール。


「大丈夫? 忙しかった?」

「いや……集中し過ぎて、昨日寝ていなかった」

 集中し過ぎると寝食を忘れてしまう。ニールにまたなんだねと苦笑いを浮かべる。


「メリンダが来てくれなかったら時間を忘れて倒れるところだった」

「……気を付けてよね」

「ああ。うん。…………頑張る」

 こういう時在宅の仕事って大変なんだなと自宅と家で空間が分かれていてよかったと思ってしまう。


 作ったお弁当をニールがすぐさま受け取って、ニールは空いている手を差しだしてくれるので手を繋ぎ公園に向かう。


 ニールは翻訳家だ。遠い異国の言葉もニールは知っているのでさまざまな国の評判の本を翻訳する仕事が多く寄せられている。


 ニールの翻訳したその国の郷土料理や道具が気になるという客が見えて、その商品を紹介することが多いので気が付いたら親しい関係になっていた。

『メリンダの店で取り扱っているから実際にその本に出ている物が分かって助かるよ』

 とニールに言われて嬉しかったことがある。


 今日のお弁当の中身も先日出版された本に出ていた料理だ。


「先日。翻訳された話を妹に読み聞かせて違和感が無いか確かめてもらったんだけど……」

 公園でおかずを摘まみながら話をしてくれる。


 ニールは翻訳した本をその後妹に読み聞かせて意味がわからないとか語尾がおかしくないか確認をしてもらっている。本人的には大丈夫だと思っても全体的の流れで違和感が出てくることもあるとか。


「妹はロマンチックだと言って感動していたし、元の国でも大ヒットだけど、どうも感性的に分からなくて……」

 感情移入できなかったと困ったように愚痴をこぼす。


「どんな話? 大まかでいいけど」

 客観的に感じた方が翻訳が進むと言っていたニールがそこまで愚痴をこぼすなんて珍しいなと思ったので尋ねると。


「う~ん……。貧しい暮らしの女性が大怪我を負っている男性を助けるんだ。で、手当てをしているうちに愛が育まれて、関係を持つ。まあ、そこまではお約束だけど、その後男性は怪我が治ったら女性を置いて去って行くんだ。で、女性のお腹には男性の子供が出来て、女性は女手一つで子供を育てて、様々な苦労をしてやっと子供が大きくなって家庭の手伝いをしてくれるようになった矢先に男性が迎えに来たけど、男性は実はその国の王で、王妃も子供もいた。で、今まで貧しい暮らしをして文字も書けなかったのに王の愛妾としてさまざまな教育をされて、それでいて貴族に冷遇されて……まあ、なんやかんやってのめでたしめでたしというのが」

「何それ? 今までの子供を育てた苦労とかを知らないとはいえ、奥さんも子供も居たのに呼び寄せて、今までの環境ががらりと変わって冷遇されて、めでたしめでたしって……」

「だよな。だけど、それがロマンチックって……」

「貧しい暮らしをしていたのにいきなり貴族の生活に馴染めないのにフォローもなしで、子供を育てるだけでも大変なのにそれでも愛があれば大丈夫って言うの?」

 理解できない。


「女性は初恋だったからこそ受け入れていたけど」

「分からないわね。簡潔な説明だからかもしれないけど、いきなり初恋だからって、そんな環境の違う場所に足を踏み入れられないわね」

 いつもならニールの翻訳した本を読むけど、今回は読めないかも。


「でも、迎えに来てくれたことがいいとか……身分違いの愛とか……」

 フォローをされても分からない。


 そう言えば、昔お金持ちそうな子供が迷子になっていたのを助けたことあったな。あの時困っていたのを見過ごせなかったからつい助けたけど、戦々恐々していた。

 誘拐犯とか子供に危害を加えたと勘違いされて罰せられたらどうしようとか。


 もし、その本のパターンで行くとしたら私の元にその迷子になった子供がいきなり初恋だと言って私の意見も聞かないで無理やり自分の結婚相手……下手したら愛妾にして今まで庶民の暮らしをしていたのに貴族としての生活の枠組みに入れるというわけだろう。


「身分違いの相手に迎えに来てもらうのがいいと言っていたな……」

「それで相手に自分の常識を押し付けられて、ノイローゼになるパターンでしょ。お断り」

 わたしは身の丈に合った生活をするの。


 そんな押し付け真っ平ごめんだ。


「だよね。――メリンダと感性があってよかった」

 ニールの嬉しそうな言葉に私も同意するように頷いた。



実際はこんな感じで、もし名乗り出てくるようにと言われても出てきません

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― 新着の感想 ―
初恋って思い出補正とかもあってキラキラしたまま保存されてる物なんですよね。時が経つにつれて現実はどんどんかけ離れた物になっていく事が殆どなんですけど。 王太子は夢見がちな人だったのですね。
現実だったら、やべーー王子ですもんね。
フィクションはフィクションだから楽しめるんです。 現実にそれやったら、ただの人でなし。 小さな金魚鉢で暮らしていた小魚を、こっちの方が大きく広くきれいだからと 水族館の巨大水槽にぶちこまれたら、小魚…
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