9 古代遺跡 2
ただでさえ、国家存亡の危機なのにダンジョンの経営再建まで背負い込んでしまった。
でも、親友のケトラの頼みだから、何とかしなくちゃね。
ここで社長時代の知識を総動員する。何かの本で読んだが、「目的の明確化」が大事だというのを思い出した。ダンジョンの目的はダンジョンポイントを回収することだ。詳しい回収方法は省くが、ぶっちゃけ、入場者が多くなれば、それだけでポイントは貯まるようだ。激しい戦闘が行われれば貯まりやすいとかはあるけど、それよりも多くの入場者を確保すれば自然とダンジョンポイントが稼げる仕組みになっている。
一方、ヴィーステ王国としても多くの商人や観光客に来てもらえれば、それだけで外貨が稼げる。物珍しさで物も買ってもらえる。
だったら、ヴィーステ王国の利益とダンジョンの利益を最大化する方策を考えてはどうだろうか?
閃いた!!私って天才かもしれない!!
★★★
3日後、企画書を書き上げた私は、みんなと一緒に再び古代遺跡を訪れた。すぐにケトルにマスタールームに案内された。
「それで僕はどうすればいいのかニャ?」
「では、発表します!!このダンジョンをホテルにします!!」
みんなキョトンとしてしまった。これは作戦だ。
というのも一旦、突拍子もないことを言って、驚かせてからプレゼンに入れば、成功率が上がるからだ。心理学的には「アハ体験」がどうとかいう理論らしい。
私は商売の本質は理解していなかったけど、小手先のプレゼン技術は高いからね。それが元で、荒唐無稽な夢物語を役員に信じ込ませてしまったというのはあるけどね・・・
「意味が分からないニャ!!ここはダンジョンだニャ!!ホテルじゃないニャ!!」
「まあ、話を聞いてよ。ここのダンジョンの最大の売りは何だと思う?」
ケトラが手を挙げる。
「なんにもないニャ!!あったらこんなことには、なってないニャ!!」
「ひ、酷いニャ・・・」
「本当にそう思う?でもあるのよ。この国に来た最初の頃を思い出してみて。何に一番困った?」
「それは暑さニャ!!それに夜は物凄く寒いし・・・あっ!!」
「気付いたようね。つまりダンジョン内が適温だということよ。ダンジョンは一般的に過ごしやすい温度になっているわよね?一部の火山ダンジョンなんかを除いてだけど。他の場所にあるダンジョンであれば、大した強みにはならないだろうけど、この国では違うよね?」
バルバラが感心したように言う。
「ティサにしては、珍しく冴えておる。快適さを売りにしたホテルにするというのは、いい案じゃ」
これにケトルが口を挟む。
「でもダンジョンぽくないダンジョンは、ダンジョン協会から指導が入るニャ。前のマスターの件もあるし、変則的なダンジョンには厳しいニャ」
「それについても、対策は考えてあるわ。何もダンジョン全てをホテルにしなくていいのよ。たとえばだけど、1階層から最上階までをホテル、地下1階層から5階層までをダンジョンにしてみたらどう?」
「それなら問題はないニャ。詳しく聞かせてほしいニャ」
完璧だ。顧客の心を鷲掴みにした快感・・・思い出すなあ・・・
調子に乗った私は、幻影魔法でパワーポイントのような画像を出現させ、得意気にプレゼンを続けた。
「ホテルの従業員だけど、ケットシーと職にあぶれている市民を雇用する予定よ。それに料理もいいものを出そうと思っているわ。サンドクラブとサンドサーペント料理は必須ね。ホテルで出す料理のコンペを開いてもいいわね。ターゲットは富裕層ね。ここでしか味わえない神秘的な体験ができるから、少し割高でも来てくれると思うわ」
ケトラが言う。
「夢が広がるニャ・・・」
「それと地下のダンジョンだけど、臭いが少なく、血の出ない魔物だけの構成にしてはどうかしら?ターゲットは旅行で来た貴族。ちょっとした冒険感覚ね。それと、この国の兵士や冒険者には訓練所として活用してもらうのよ」
これにはエレンナが感心して声を上げる。
「それはいいぞ!!暑すぎると訓練どころではないからな。この国の兵士や冒険者に実力がないのも、十分な訓練ができていないからだ。何なら私が鍛えてやってもいいぞ。何たって熱くないからな」
「後は・・・」
私は思い付く限りのことを話した。皆真剣に聞いてくれる。
「じゃあ、それぞれでやれることをやって行こう。オープンは1ヶ月後を目途にしましょう!!」
「私はケトルの補佐をするニャ。一人にするとまた、変な失敗をするかもしれないからニャ」
「そんなことしないニャ」
エレンナも続く。
「早速訓練をしてやろう。魔物がいなくても訓練くらいはできる。ここの軍はあまりにも酷いからな」
レドラ、バルバラ、ロクサーヌも続く。
「私は引き続き狩りをする。大量に食料が必要だろ?」
「妾は、魔導士の育成じゃな。流石に妾一人でかき氷を作るのは無理じゃからな」
「私はとりあえず、水の羽衣を改良して、ウォーターベッドを作るッス。温度調整ができるタイプにするので、スイートルームにでも置いてほしいッス!!」
「じゃあ、みんなで頑張ろう!!」
「「「オオオー!!」」」
何かプロジェクトが動き出した感じがしてきた。こういうのって楽しいんだよね。
「だったら私は集客を頑張るわ!!任せてよ」
そして1ヶ月後、無事にダンジョンはオープンすることになった。名前は「始まりの遺跡」とした。ここから私たちのサクセスストーリーが始まるという願いを込めてね。
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