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8 古代遺跡

 皆の活躍もあり、無事に収穫時期を迎えることができた。

 これで当面は食料問題に悩まされることはないだろう。しかし油断はできない。問題は山積みだからね。他部族との関係は悪化し、借金も返さなくてはならない。間違っても今のまま、ゼノビアに返すことなんてできない。


 次に何をするか?

 私は後顧の憂いを絶つことにした。それは勇者対策だ。


 少しゲームの話をすると、ヴィーステ王国の王都パルミラを訪れた勇者パーティーは、圧政に苦しめられている国民に心を痛め、何とかできないものかと調査を開始する。調査の結果、魔族が女王と入れ代わっていることを突き止め、女王になりすましていたサキュバスを討伐する。そして真の女王であるゼノビアを救出し、お礼に大型魔道船を貰えるという流れだ。

 もしこのサキュバスが、ヴィーステ王国の乗っ取り計画を実行しなければ、魔族と人族の全面戦争という悲劇は起こらなかっただろう。まさに「無能な働き者」だ。


 このイベントでキーとなるのは、「真実の鏡」というアイテムだ。「真実の鏡」を使うと幻影魔法が解除されるのだ。逆に言えば、このアイテムがないとイベントが進まない。「真実の鏡」はパルミラのすぐ近くにある古代遺跡で入手できるのだが、それを勇者が来るまでに回収しておこうと考えた。そうすれば、バレることはないだろうしね。


 もしかすると勇者と戦闘になるかもしれないが、それは極力避けたい。何たって私は戦闘力が高くないのだ。ゲームでは名前もなく、ただの「サキュバスA」だったからね。もちろん単体で戦うことは考えていない。今の戦力だと負けることはないだろうが、無益な戦闘は、優しい魔王様は望まないだろうからね。


 そんなわけで、私たちは古代遺跡に向かうことにした。理由は、「観光資源の確保」という、もっともらしい理由をつけてだけどね。


 メンバーはいつものケトラとエレンナとバルバラにレドラだ。ケトラが言う。


「なんか遠足みたいで楽しいニャ!!魔王学園の遠足を思い出すニャ」

「ケトラ、これは国の存亡を懸けた調査よ。真剣にね」


 エレンナがツッコミを入れてくる。


「それはそうだが、ティサもお菓子ばかり用意していただろ?トップがこれでは、部隊が締まらんぞ」

「そ、それは・・・遭難した時のことを考えて・・・」

「だったら、干し肉とかにしてはどうだ?」


 バルバラが間に入ってくれる。


「エレンナよ、その辺にしておいてやれ。それにわらわたちがいれば、危険はないじゃろうし」


 古代遺跡はピラミッド型の巨大な建造物だった。

 中に入ると大量のマミーやグール、スケルトンが襲ってきた。難なく討伐していく。


「大して強くはないけど、臭いがヤバいニャ・・・誰がこんなダンジョンを作ったのかニャ?神経を疑うニャ」


 レドラが答える。


「私もそう思う。流石にグールやマミーを食べる気にはならんしな」

「流石にそれは食べないよ・・・」


 そんな感じで、最上階まで無事にたどり着いた。そして、宝箱の中から「真実の鏡」を発見し、回収する。


「幻影魔法を解除するだけの魔道具か・・・最上階まで来たというのにお宝がこれではのう」

「それには同意するニャ。お宝も駄目、魔物からは魔石が少し取れるだけ、おまけに臭い!!こんなダンジョンは潰したほうがいいニャ!!」


 私も100パーセント同意する。でも目的は「真実の鏡」の回収だから、別にいいんだけどね。


 そんな時、突然ケットシーの少年が現れた。


「そんなこと言うニャ!!僕だって頑張っているんだニャ!!」


 誰だ、コイツは?


 ケトラが言う。


「ケトルじゃないか?こんなところでどうしたのニャ?」

「実は・・・僕はここのダンジョンマスターなのニャ。酷いニャ・・・散々馬鹿にして・・・」


 ケトルによると、あまりの言われように居たたまれなくなって、出て来たようだ。詳しく話を聞くとダンジョン経営に行き詰っているようだった。


「ダンジョンをオープンしたはいいものの、全く冒険者が来ないニャ。このままでは近い内に破綻するニャ・・・同族の就職先を作ろうと頑張ってきたのに・・・ウッウッウッウウウ・・・・」


 ケトルは泣き出してしまった。

 泣いて済む問題ではないし、そもそもなぜここにダンジョンをオープンさせた!?

 優良企業を倒産寸前まで追い込んだ私が言うのもアレだが、激しく間違っている。だって大したお宝もなく、ただ臭いだけのダンジョンにクソ暑い砂漠を渡ってやって来る冒険者なんて、まずいないだろう。それこそ、勇者くらいなもんだ。


「ケトルに聞くけど、どうしてここにダンジョンをオープンしたの?冒険者が来るわけないじゃないの」

「それは安かったからだニャ。居抜き物件で、すぐにオープンできるし、早くダンジョンマスターになりたかったから、よく考えずに買ったニャ」

「じゃあこの臭すぎる魔物の選定は何?」

「それは前のマスターの趣味だニャ。ダンジョンポイントが足りずに仕方なく、ダンジョンの体裁を保つために前のマスターが残していった魔物発生装置スポーンを使い回しているニャ」


 更に詳しく聞くと、前のマスターはリッチのマッドサイエンティストだったらしく、ダンジョンの儲けを度外視して、怪しい実験を繰り返していたそうだ。そして一向にダンジョンポイントを納めないマスターに業を煮やしたダンジョン協会はダンジョンを差し押さえたらしい。そして長年不良債権となっていたこのダンジョンをケトルが買ってしまったというわけだ。


「悪いが、自業自得じゃのう」


 バルバラが辛辣な言葉を投げ掛ける。更にケトルが泣き出した。

 ケトラが言う。


「こんなことを頼むのは、筋が違うかもしれないけど、どうかケトルを助けてほしいニャ。ケトルは頑張り屋のいい奴だニャ。このとおりだニャ」

「ケトラ・・・」


 ケトルも私と同じ、「無能な働き者」だ。見捨てるのは簡単だけど、なぜか見捨てられないんだよね。ケトルを見捨てたら、全てを投げ出すようだしね。


「分かったわ。この国を救うついでに、このダンジョンも救ってあげる。私に任せてよ!!」


 ダンジョン経営のノウハウはないが、これでもハーバード大学でMBAを取得しているからね。

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