67 それぞれの夜 2
魔王様・・・オサムが戻って来たのは明け方近くだった。
「いつまで待たせるのよ!!」
「ご、ごめん・・・でも最高のプロポーズを用意したから、すぐに行こう」
まあ、急遽のことだったから仕方ないと思い、転移スポットで転移した。
転移したのは、「奇跡の遺跡」だった。
朝焼けを見ながらのプロポーズか・・・
オサムにしては、上出来だ。
しかし、先客がいた。ケトラとケトルだ。
「ケトラ、もし生きて帰って来れたら、僕と・・・」
「それはフラグになるニャ」
「でも・・・今しか・・・」
「生きて帰ってくれば、いいだけニャ。そうしたらもう一度、プロポーズしてほしいニャ」
「うん!!」
オサムの顔が引きつる。
「だ、大丈夫だ・・・代案も用意している」
今度は、聖女の壁にやって来た。ここも絶景と言えば絶景だ。草原から昇る朝日は、かなり幻想的だ。代案を用意するなんて、オサムも成長したものだ。
しかし、残念なことにこちらも先客がいた。勇者とシャシールだ。
「先生!!こんな危険なことは止めましょう。今から逃げても大丈夫です」
「それはできないよ、ムカイ。これは勇者に与えらえた使命だ。それにここで逃げたら勇者じゃなくなるよ」
「先生・・・では、最後の最後までお供致します。そして生きて帰ったら、私と・・・」
「本当にこんな私でいいの?苦労するよ」
「もちろんですよ」
「ムカイ・・・ありがとう」
二人は抱き合い始めた。
オサムが言う。
「ムカイ・・・もしかして、秘書の向井さん?彼も失踪したって聞いたけど」
「そうみたいね。勇者が嫌で失踪したわけじゃなかったのね」
「じゃあ、次の場所へ・・・」
「もう少し、覗いてみない?面白そうだから」
しばらく勇者たちを観察する。
会話から勇者が無理して「ボクっ娘」になっていたということが分かった。こちらの世界で男女同権を主張するためだという。勇者らしいといえば、勇者らしい。
また日本では、国会議員を辞めて、近々、某県の県知事選に出馬予定だったみたいだ。
「こんな大事な時期に・・・早く日本に帰らないと・・・」
「ムカイ、ここでの私は勇者パーシーだ。世界を平和にしなければ、帰るに帰れないよ」
「そういうところは先生らしいですね」
「政治家でも勇者でも世界を平和に、そして人々を幸せにすることに違いはないからね」
勇者は熱い思いを持っている。ただ、方法は激しく間違っているけどね。
まあ、警戒していたシャシールが転生者で、勇者の秘書さんだと分かって、よかった。でも勇者のどこを気に入ったんだ?
それはオサムにも言えることだけど。
そんなことをしているうちに夜が明けてしまった。
「オサムはいいの?勇者に任せて辞退してもいいんじゃない?」
「それはできないよ。魔王としての責任もあるし」
「そう・・・だったら私も一緒に行くわ。これでもヴィーステ王国開発担当大臣だし、魔王軍四天王だしね」
そんな冗談を言っているうちに集合時間となった。
結局、プロポーズはされなかった。というか・・・
「魔王的には、いきなり結婚とか無理じゃないの?」
「そ、そうだな・・・手続きとかも複雑だし、式の準備だけで半年は掛かる」
「じゃあ、私たちも無事に帰ってくればいいだけだし、気長に待つわ」
「す、すまない・・・」
面白いことに立場が逆転してしまっている。
オサムに集合前に言われた。
「智子、悪いがここからは魔王とティサリアだ。士気に関わるからな」
「はい、魔王様。魔王軍四天王、智将ティサリア。力の限り魔王様をサポート致します」
「うむ、では参ろうか?」
正体を知ってしまっている私たちは、吹き出して笑ってしまった。
「絶対に皆の前で笑うなよ。これでも魔王なんだからな」
「もちろんよ、魔王様」
★★★
集合場所に着くと、これから命を懸けた作戦に臨むとは思えない程、甘い雰囲気が漂っていた。
ケトラとケトルはベタベタしているし、勇者はというと他の勇者パーティーから祝福を受けていた。
「シャシール殿が勇者様の伴侶となってくれれば、私たちも安心だ」
「結婚式はどこでしますか?「奇跡の遺跡」がいいと思います」
「そうですね。ゼノビア女王に言えば、配慮してくれそうですしね」
勇者とシャシールも続く。
「みんなありがとう。もちろん式にはみんなを呼ぶよ。ボクとしては、ダイバーシティーやデザートフォレストでもやりたいと思っている。それに北大陸や小国家群でもね」
「だったら、新婚旅行を兼ねて、皆で旅をしましょう。そのときにまた支援者を募りましょう。数は力ですからね」
遠目で見ていたバルバラが言う。
「全く締まらん奴らじゃ。魔王様、ちょっと気合いを入れてはどうですかな?」
「兄上、ビシッと言ってやりましょう。奴らは舐めています」
仕方なく魔王が勇者たちに声を掛ける。
「婚約おめでとう。これからも二人が末永く幸せになることを祈っている。今後、様々な困難に直面することもあるだろうが、二人なら乗り越えていける。悲しみは半分、喜びは倍に・・・それが結婚というものだ・・・」
バルバラがツッコミを入れる。
「まるで、結婚式の挨拶のようじゃのう。魔王様は何か雰囲気が変わったな」
「うむ・・・何かあったのだろうか?」
本当のことを言うと、作戦に一番集中してないのは、我らが魔王様だけどね。
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