66 それぞれの夜
最後の夜、私は魔王様に呼び出された。
重要な話があるという。
そうか・・・魔王様は私に・・・
私は告白される気満々で、指定されたレストランに向かった。
楽しい食事の後に魔王様に切り出された。
ここで告白?
もうちょっと雰囲気のある場所がよかったんだけどね。
「ティサが俺を好いてくれていることは分かっている。だが、その気持ちには、応えられない」
私は頭が真っ白になった。予想外のことだったからだ。
そんな私をよそに魔王様は話を続ける。
「ティサ、君は「魅了」のスキルが使えない。今まで騙してきて悪かった。本当にすまない」
パニックになった。
「そ、そんな・・・でも私がスキルを使ったら、みんなは言いなりに・・・」
「それは一言で言えば、忖度だ」
「そんな・・・」
「もちろん、最初から使えなかったわけではない。それには理由があるんだ」
魔王様が言うには、子供の頃の私は魔法やスキルの天才だったらしい。
調子に乗った私は、魔王様に「魅了」のスキルを使ってしまい、魔王様が身に付けている「精神攻撃反転」の魔道具で、スキルを封印され、更に魔王様に「魅了」されてしまったようだ。
「サキュバス族との関係を壊したくなかった俺は、ティサを魔王軍に引き取ることにした。そして、魔王軍の隊長クラス以上には、ティサが「魅了」のスキルを使った雰囲気を出したら、掛かったフリをしろと通達していたんだ。それにティサは俺に「魅了」されているから、騙すのは簡単だった。もちろん、君を悲しませたくなかったからだ」
冷静になって考えると、私は相当痛い奴だ。穴があったら入りたい。
ただ、皆が私のことを思って演技をしてくれていたと思うと、有難い気持ちにもなる。
「だから、これからお前に掛かっている「魅了」を解く。それでも俺を好きと言えるか?もし、そういう気持ちがないのなら、今回の作戦を辞退しても構わない」
魔王様はスキルを解いた。
何かが抜け落ちた感覚がした。しかし、魔王様への気持ちは変わらなかった。
「今も変わらず、魔王様をお慕いしております」
正直な気持ちだった。
多分、「魅了」のスキルだけではなかったのだろう。これまで私のことを心から思いやってくれたことは十分分かるし、それに魔王様がイケメンには違いないからね。
「そ、そうか・・・だが、その気持ちには応えられない。ティサ、驚かずに聞いてほしい。俺は勇者と同じ世界からやって来た。信じられないかもしれないけど」
魔王様も転生者?
思考が追い付かない。
「理解できないかもしれないが、ここはゲームという仮想の世界だ。俺はどうしても元の世界に帰りたい。俺もティサのことは憎からず思っている。しかし、俺は元の世界に帰らなけらばならないんだ」
魔王様が勇者にこだわった理由が分かった。
どうしても、日本に帰りたかったのだろう。
「そ、そんな・・・でも、帰れるか帰れないか、分からないわけですし・・・この際、私とここで・・・」
魔王様は少し考えて言った。
「まず俺の別世界での人生を話す。俺には子供の頃から想いを寄せている女性がいた。彼女は我儘で気分屋で、でも頑張り屋で優しい子だった。俺は惚れた弱みか、彼女の言いなりだった。子供の頃は頻繁に彼女の家に招かれた。それは俺と遊ぶためではない。俺はあることをやらされていた」
魔王様が言うには、FFQ3というゲームソフトで、ひたすらレベル上げだけをやらされていたそうだ。
あれ?どっかで聞いた話だな・・・
「それでも俺は嬉しかった。彼女と一緒に居られることが・・・それに彼女はちゃっかりしていて、俺がレベルを上げている間はずっと勉強をしていたよ。彼女はずっと成績はトップだったしな」
何て女だ!!
魔王様にそんな酷い仕打ちをするなんて!!
「だから、俺はこの物語の結末を知っている。ゲームのとおりだと、魔族は勇者に討たれて全滅する。そうならないように俺は、魔王として改革を行った。ただレベル上げしか、やってこなかったから、細かいシナリオなんかは分からなかったが・・・」
魔王様は懐かしそうに言う。
「今思えば、もっとストーリーを知っておけばよかったと思っているよ。魔王になって、何をどうしていいか、分からなかったしな。でも最後のラスボスを倒す時だけは、彼女に見せてもらった。そしてラスボスを倒したときにこう言われたんだ『オサム、大好き!!』ってな。その時の魔王の名前を偶然覚えていたから、俺は魔王と気付いたんだけどな」
「もしかして、その時の勇者パーティーは、「勇者、商人、商人、踊り子」では?」
「よく分かるな。ティサにそういう能力があるのか?まあ、話を戻すと、その彼女が今は窮地に陥っているんだ。だから、俺は元の世界に帰って、彼女を支えないといけないんだ。それに彼女は今、失踪してしまっている。彼女のマンションを訪ねたけど、もぬけの殻だった。手掛かりを探していたところで、こちらに転生してまった。だから・・・」
間違いない。この鈍さは間違いなくオサムだ。
思わず私は叫んだ。
「オサムの馬鹿!!なんで私が智子だって気付かないのよ!!日本にいる時に言ってくれれば、私だって受け入れたのに・・・」
言って思ったが、それは私も同じようなものだけど。
「智子なのか?そうか・・・だったら結婚しよう」
沈黙が流れた。
「それはいいけど、プロポーズはもっと雰囲気のある場所で、指輪とか用意してさ・・・一生に一度しかないんだからね」
「そ、そうだな・・・だったら少し待ってくれ。最高のプロポーズをしてやる」
魔王様は私をレストランに残し、転移臨時の転移スポットから転移していなくなってしまった。
結局、私はどうしたらいいんだろうか?
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