64 世界の危機
賠償金も無事支払われ、戦後処理もようやく落ち着いた。
私は再び引継ぎの準備に追われ、ゼノビアは各国に外遊に出掛けている、それもクレオラと一緒に。
ゼノビアとクレオラは仲が良い。よく口喧嘩はするけど、お互いを思い合っているのが、傍から見ても分かる。それを世界各国にアピールするのが狙いのようだ。裕福になったヴィーステ王国に他国が工作を仕掛けて来ないとも限らない。つけ入る隙を与えないためでもある。
順調といえば、順調だがシャシールの調査は難航している。全くと言っていいほど、悪い噂は出て来ない。調査を担当しているケトラも頭を悩ましている。
「おかしいニャ・・・ここまで完璧な奴は見たことがないニャ。こっそり、魔王様直属の諜報部隊にもお願いしたけど、結果は同じニャ」
「もしかしたら、本当に勇者のことを心から想っている、いい人なのかもね?」
「あんな奴のどこがいいのかニャ?」
「ケトラだって、人のこと言えないんじゃないの?それでケトルとはどうなのよ?」
「そ、それは・・・極秘事項で話せないニャ!!」
バルバラも会話に入って来る。
「呑気なものじゃな。まあ、今までが忙しすぎたからのう。しばらくはゆっくりできると思うぞ」
「バルバラ・・・それってフラグにならない?」
冗談で言ったことだが、本当にフラグになってしまった。
3日後、ゼノビアとクレオラが外遊を途中で中止して、緊急帰国したのだ。
ゼノビアが慌てた様子で言う。
「大変よ。ローダス教国が大量のアンデットに占拠されたわ!!すぐに対策を取らないと!!」
「ゼノビア!!女王が焦ってどうするのよ。まずは落ち着いて・・・」
「落ち着いてられないわ。すぐに各国と連携を取って・・・」
「だから、まずは落ち着きなさいと言っているでしょ!!」
私は、二人を宥める。
「仲が良いのは分かりましたが、対策を練りましょう。まずは緊急の大陸会議ですね。場所ですが、ダイバーシティーでどうでしょうか?」
「そ、そうね。場所的にもベストだわ。では、女王として命じます。皆の者!!緊急の大陸会議を開催します。その準備をしてください。明日には各国に通知ができるように!!」
また、厄介事に巻き込まれたようだ。いつになったら、私は魔王国に帰還できるのだろうか?
★★★
2週間後、大陸会議が始まる。
驚いたことに各国の足並みは揃っていた。あのユーラスタ帝国とスタリオンが同じ意見を述べているからだ。概ねまとまったところで、意気揚々と勇者がやって来た。
「ボクは嬉しいよ。世界各国が協力して有事に対応するなんてね。ボクの理想に近い・・・」
しかし、ユーラスタ帝国の代表者の発言で、勇者は青ざめてしまう。
「今回のアンデット大量発生については、勇者殿に一任しようと全会一致で決定した」
「えっ!!ぼ、ボクにどうしろと?」
「発生原因を突き止め、解決してもらいたい。こんなことは勇者殿にしか頼めんからな」
シャシールが割って入る。
「待ってください!!あまりにもそれは・・・」
言い掛けたところで、帝国の代表者が遮る。
「何も丸投げというわけではない。我が帝国としては、国宝クラスの聖剣「勇者の剣」をお譲りする」
更にスタリオンの関係者も続く。
「我がスタリオンは、国宝の「勇者の楯」を差し上げる」
更に小国家群連合も。
「私どもは、活動資金として金貨100枚を支給いたします。帝国さんやスタリオンさんには及びませんが、気持ちだけ受け取ってください」
各国とも足並みが揃ったのは、厄介事を勇者に丸投げすることにしたからだ。どうやら、この会議の前から事前にすり合わせていたようだ。アンデットの大量発生、しかも一国が乗っ取られるなんて前代未聞だ。対応策なんて考えつかない。
もし、一国だけで対処しようとすれば、決死隊を選抜し、ローダス教国に潜入。そして、何とか情報を集めて、対策を練るのが一般的だろう。
ただ各国が絡むと、どの国も貧乏くじは引きたくはない。
なので、決死隊の役目を勇者に負わせようとしたのだ。帝国とスタリオンは、国宝クラスの「勇者の剣」と「勇者の楯」を勇者に譲ったわけだが、二つの装備は勇者以外に装備できないし、宝物庫に眠っているだけの物なので、痛くも痒くもない。
小国家群連合にあっては、金貨100枚(日本円で100万円程度)なので、国レベルの話だと、本当に気持ち程度でしかない。
更にゼノビアが続く。
「我が国や騎馬王国は難民の受け入れで、手一杯になるでしょう。それにローダス教国からアンデットが溢れ出せば、最前線は我が国や騎馬王国になります。防衛戦力を配置するだけでも、かなりの出費です」
小国家群連合の代表者が乗っかる。
「我々も援助を考えております。もちろん帝国さんやスタリオンさんもですよね?」
「もちろんだ」
「うむ」
青ざめる勇者パーティー。
シャシールが言う。
「これでは、私たちに死ねと言っているようなものでしょう?」
その通りだ。
そもそもの話、この世界の勇者はそういった存在なのだ。各国の厄介事を押し付けられ、魔王討伐という無理難題を押し付けられるね。子供の頃は、そういうものだと思っていたが、大人になって思うと、理不尽すぎる。
でも、おかしい。
ゲームでそんなイベントはなかったはずだ。あくまでも仮説だが、一向に戦おうとしない勇者に業を煮やしたシステムが、イベントを発生させたのかもしれない。
ただ、ここで勇者が倒れれば、本当に世界の危機かもしれない。それに勇者は、かなりぶっ飛んだ奴だが、決して悪い奴ではない。私だって、できれば勇者を助けたい。でも、この状況なら勇者を犠牲にするのは、有効な手ではある。
「もう少し、話し合おう!!きっといい解決策が見付かるはずだ。たとえば、対話を試みて・・・」
ゼノビアがぴしゃりという。
「アンデットが、対話できるわけがないでしょう。つまり、勇者殿は私たちヴィーステ王国の国民に死ねと言っているのですね?」
これに、各国の代表者が続く。
「精強な我が帝国軍人であれば、喜んで神の御許に向かうだろう」
「勇敢なスタリオン軍人は、死を恐れん。笑顔で散っていくだろう」
「私たちも同じです。義勇兵を募ります」
堪り兼ねた勇者が言う。
「ぼ、ボクが行くよ・・・行けばいいんでしょ?」
後味は悪いが、仕方ない。
議長のゼノビアが、議題を切り替える。
「ここからは難民の受け入れ、防衛線の構築について議論致しましょう」
立ちすくむ勇者を無視し、各国は議論を始めた。
そんな時だ。会議室のドアが開いた。
なんと入って来たのは、魔王様だった。
「概ね話は聞いている。我が魔王国も全面的に協力する。それと勇者パーティーには、我が魔王国からも同行者を出す」
予想外の展開だ。
勇者と魔王が共闘するなんてね・・・
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