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転生したポンコツ女社長が、砂漠の国を再建する話  作者: 楊楊
最終章

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63 勇者の町

 講和会議が行われるのは、帝国西部の大都市スードラだ。

 勇者パーティーの一員であるシャシールの出身地で、かなり発展していた。警備も厳重なようで、問題はなさそうだった。


 私たちはまず、シャシールに接触した。

 というのもシャシールに根回しを頼んでいたからだ。


「上手くまとまると思います。ただ、各国の面子を立てるために、茶番劇に付き合ってもらわなければなりませんがね」


 シャシールは優秀だったが、懸念点もある。

 彼の案では、勇者も講和会議に出席する予定だという。その点を指摘する。


「最後の調印で、スタリオンと帝国の顔を立てるためです。帝国主導で講和会議を成功させたとなると、スタリオンが黙っていませんからね。なので、勇者様という国の権威に縛られない方の存在を利用いたします」


 話を聞く限り、問題はなさそうだ。


「分かりました。ただ、勇者様は予想外のことをされるので・・・」

「その点も大丈夫です。勇者様には最後の最後で登場していただきます。プログラムで言うと、女王陛下と新教皇との調印までは、別室で待機してもらうことになっております」


 私は少し考えて、回答した。


「分かりました。ここまで交渉をまとめてくれたことに感謝いたします。ただ、勇者様のことは、くれぐれも頼みますよ」

「もちろんですよ」


 シャシールと話した後にみんなに意見を聞いた。

 バルバラが言う。


「シャシールという奴は、本当に優秀なようじゃな・・・勇者にはもったいない人物に思えてならん」


 ケトラも答える。


「そうだニャ。勇者に心酔していなければ、魔王国にスカウトしてもいいくらいだニャ」


 エレンナも同意見だった。


「勇者の効果的な利用法か・・・考えたものだな」


 反対は出なかったので、別室で待機していたゼノビアに意向を伝えた。ゼノビアもこの案には満足していた。


 ★★★


 会議は翌日なので、私たちはスードラの町を観光することにした。

 町は賑わっており、市場などを見て周る。市場には私たちの主力商品であるスパイスも売られていた。それもびっくりする位の価格で。

 ケトラが言う。


「私たちも、もうちょっと高く売ってもいいんじゃないのかニャ?」

「そう思うけど、今のままでいいと思うわ。私たちが格安でスパイスを卸しているからこそ、帝国も攻めて来ないわけだし。その辺はゼノビアにも言っておかないとね」


 バルバラが言う。


「そうじゃな。欲をかくと碌なことにならんからな」


 そんな話をしながら町を歩いていると、異様な集団に出くわした。彼らはお揃いの服を着て、道行く人に声を掛けていた。


「勇者様の支援にご協力を!!」

「今、会員になったら勇者様グッズが無料で貰えますよ!!」


 何だろう、あれは?


 近くを通ると声を掛けて来た。詳しく事情を聞く。


「私たちは勇者様を支援する勇者サポータークラブの者です。勇者様の活動に感銘を受けた私たちは、自主的に活動しているんです。怪しい集団に思われるかもしれませんが、あのサイード商会も協力してくれているんです」


 サイード商会とは、シャシールの実家の大商会だ。


「旅の方ですか?もしよろしければ、こちらをご覧ください」


 渡されたのは、勇者の功績や思想が記載されたパンフレットだった。

 それを見たエレンナが言う。


「な、何だこれは?功績のほとんどが私たちのやったことじゃないか・・・」


 確認すると、私たちがやった施策も多く記載されていた。遺跡を開発し、港を開発、世界初の大陸会議を開いた等々・・・全てが勇者の功績にされていた。

 集団の代表者が言う。


「驚かれてますね?でも勇者様が成し遂げたことです。勇者様は戦争のない平和で平等な社会を目指して頑張っておられます。どうかご支援を!!」


 ケトラが文句を言いそうになったので、バルバラが諫めた。


「ケトラ、奴らに何を言っても無駄じゃ」


 仕方なく、金貨1枚だけ寄付して、その場を立ち去った。

 思い返してみると勇者は、前世のときもこういった功績泥棒をよくしていた。もう怒っても仕方ないけどね・・・


「まあ、勇者のことは置いておいて、明日の会議に集中しましょう」



 ★★★


 講和会議が始まった。

 一言で言えば茶番だ。もう話はついているからね。


 ただ、会議の参加者は真剣に議論をしている。

 スタリオンの関係者が「賠償金が高すぎる。あまりにも理不尽だ」と言い、帝国側が譲らない展開を見せ、小国家群連合の代表者が宥めるといった展開だ。そして、最終的には事前にすり合わせた金額に落ち着いた。ヴィーステ王国としては損のない金額だし、帝国もこちらからお礼という形で賠償金の一部が手に入るから大喜びだ。

 そして、スタリオンは帝国の意見を少し曲げさせ、ローダス教国に恩を売った形になって満足し、小国家群連合は、この後にローダス教国と交易関係の条約を結ぶことで合意しているようだ。


 打算だけで成り立っている事前会議が終了し、次の日、愛想笑いを浮かべたゼノビアと心労でやつれた新教皇が出席する調印式が行われた。ここで満を持して満面の笑みを浮かべた勇者が登場した。


「辛い過去や恨みつらみは、ここで水に流そう。みんなで平和な世界を作っていくんだ!!」


 熱い演説が始まったが、勇者の信者以外は皆、冷めた目で見ていた。



 調印式の後、帰国した私たちはクレオラにも報告した。

 報告書に目を通したクレオラが言う。


「よくやったわ、ゼノビア。それにティサリア大臣もご苦労様。でもこの会議で一番利益を得たのは勇者ね」


 その通りだ。

 実はこの条約には、勇者に関する条項もこっそりと盛り込まれていた。


 1 ローダス教国は勇者を再認定する。

 2 各国は勇者の意向を最大限尊重する。

 3 国際会議の議長は勇者とする。

 4 勇者を世界平和の使者とする。


 各国は、シャシールの手の平の上で転がされていたというわけだ。

 これで勇者の権威は高まった。情報によると勇者サポータークラブの会員は倍増したそうだ。新たに戦争を終結に導いた功績が追加されたからね。


 私はケトラに指示した。


「どうも臭うわ。シャシールのことをもう一度調べてくれる?」

「分かったニャ。もしかしたら、何かを見落としている可能性もあるからニャ」


 無事に戦争が終結したのだが、私たちは、優秀過ぎるシャシールに不信感を抱いたのだった。

気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!

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