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転生したポンコツ女社長が、砂漠の国を再建する話  作者: 楊楊
最終章

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60/71

60 聖戦 3

 すぐにそれぞれが動き出した。

 私はまず、戦士アデラの紹介で勇者パーティーに最近加入した人物と面談することになった。その男は20代半ばの精悍な顔の男で、名前はシャシール・サイード。帝国西部の大都市スードラに拠点を持つ大商会サイード商会の御曹司だ。


 なぜ、こんな人物が勇者パーティーに?


 そう思うほど、シャシールは優秀だった。

 こちらが彼の力量や真の目的を見極めるために面談したのだが、逆にこちらが施策について、アドバイスされた。


「私の見立てでは、隣接する小国家群連合、ユーラスタ帝国、スタリオン、協商連合はすぐには動きません。特に帝国には、私の父に頼んで工作を仕掛けています。皇帝陛下の感触もいいですしね。ですので、騎馬王国の分断工作に力を入れるべきだと考えております」


 大帝国の皇帝ともパイプがあるようだ。益々怪しい。


 しかし、アドバイスは的確だった。  

 実際のところ、小国家群連合、ユーラスタ帝国、スタリオン、協商連合は聖戦が発動されたからといって、すぐに攻め込んで来ないだろうというのが、こちらで掴んだ情報だ。小国家群連合は、お得意の両天秤作戦を決め込むとのハジャスからの情報があるし、ユーラスタ帝国、スタリオン、協商連合はそもそもが三竦みの状態だから、無理をして聖戦に参加するメリットはない。

 となると、後は騎馬王国だが・・・


「シャシール殿、騎馬王国への工作はどのようなことを考えられていますか?」

「騎馬王国としては、ヴィーステ王国とローダス教国のどちらが勝っても利があるように動くはずです。騎馬王国もヴィーステ王国と同じく、部族の集合体で、一枚岩ではありません。既に切り崩し工作は成功しております。自分たちが直接被害に遭うわけではないが、戦場に最も近いので関心は高い。そんなところです」


 既に幾人かの族長には、「勇者の考えに賛同する」という確約を取っているらしい。

 本当にできる男だ。


 一旦休憩をして、ケトラが集めた情報を教えてもらった。


「シャシールは、かなり評判がいいニャ。元々大きかったサイード商会を大発展させたのも、シャシールだニャ。勇者パーティーに加わるためにサイード商会は弟に譲っているニャ。私だったら絶対にそんなことはしないニャ」


 バルバラが言う。


「そんな優秀な奴が、なぜ勇者に賛同するのかが、分からん。わらわには何か裏があるようでならん。ティサよ、シャシールの真の目的を探らねばならんな」


「それは私も思うよ。この後は、工作内容なんかより、どうして勇者パーティーに入ったかということを中心に聞いてみるわね」



 ★★★


 予想外の展開を迎えた。

 勇者についてシャシールに尋ねると、シャシールは堰を切ったように話始めた。


「勇者様は、本当に素晴らしい。勇者様の理想の世界を作ることが、私の使命だと気付かされたのです。ですから、弟にサイード商会を譲り、私は勇者様に仕えるべく、すべてを投げ出して馳せ参じたのです。勇者様にご理解のあるヴィーステ王国は貴重な国です。そんな国の危機を見過ごすわけにはいきません。最大限協力させていただきます」


 目つきからして、かなりイッている。本当に勇者に心酔しているのだろう。

 しばらく、勇者の素晴らしさを聞かされた後、具体的にどうするかという細かい話になり、シャシールとは別れた。


 面談後にケトラとバルバラがやって来た。


「アイツもヤバい奴だニャ。勇者を語る顔がもう狂信者だニャ」


 バルバラも続く。


「親や兄弟も悲しんでおるじゃろうな。あんな訳の分からん勇者の信者になるなんてのう・・・」


 全くその通りだ。

 シャシールは、かなり優秀だ。それに私に策まで授けてくれた。だが、勇者に心酔している。彼にそうさせているのは、何なのだろうか?


 答えは出ないが、利用できるものはすべて利用しないとね。

 多分アレだ・・・前世でいう実家の隣の鈴木さんの息子さんだ。一流大学を出て、一流企業に就職したのに、変な宗教に引っ掛かって、おかしなことになった人がいた。多分この世界では、シャシールはそれに近いのだろう。


「ただ、シャシールは勇者とは違い、現実が見えているわ。彼の予想が当たらないことを祈るけどね・・・」


 別れ際、シャシールが言った言葉を思い出した。


「一度は大きな戦闘をしなければならないでしょう。その戦況によって、様子見を決め込んでいる国々が動き出すと思われます。ですので、その一戦に国家の存亡が懸かっていると言っても過言ではありません。その際には、勇者様は戦場から引き離しておきます。理想を熱く語る勇者様には、そんな現実を見せたくありませんからね」


 シャシールは勇者の理想をどうすれば実現できるかに行動の主眼を置いている。その理想自体があってるか、間違っているかは別にしてね。



 ★★★


 それからしばらく、計画に沿って周辺国への外交活動を積極的に行っていたところにローダス教国の使者がやって来た。書状を確認する。書状を読んだゼノビアが激怒する。


「これは酷いですね。「奇跡の遺跡」だけでなく、「始まりの遺跡」も無条件で明け渡せですって?それにヴィーステ王国に居住する亜人と獣人をすべて、奴隷として教国に引き渡すように・・・」

「こちらとしては破格の条件ですよ。それに賠償金も請求しませんからね」


 一呼吸置いて、ゼノビアが書状を破り捨てた。


「ふざけたことを!!掛かってくるならいつでも来なさい。神の名を騙る詐欺師どもめ!!使者殿がお帰りのようですわ」


「ふざけているのは、貴方たちのほうですよ。きっと後悔することになりますよ」


 使者は捨て台詞を吐いて去って行った。

 こうして、私たちは待ったなしの状況になってしまったのだ。

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