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6 食料危機

 職場環境は良くなったが、それだけでは問題は解決しない。

 喫緊に対応しなければならないのは、食料問題だ。これは明らかなゼノビアの失策の所為だ。ゼノビア失策ランキングのベスト3に入るぐらいのものだ。


 その話の前に少し、ヴィーステ王国の地理を解説しておく。

 ヴィーステ王国は、中央大陸のほぼ中央部に位置する国で、北は海、東は軍事国家スタリオン、ユーラスタ帝国、南は騎馬王国ダービット、西は小国家群連合に接している。国土の8割は砂漠で、ナール川流域や砂漠に点在するオアシスに部族ごとに分かれて、国民は暮らしている。そのような環境なので、王国と名乗っていても、実際は部族の集合体でしかないのだ。

 慣例として、ヴィーステ王国最大のオアシスである王都パルミラとナール川の流域を押さえ、最大勢力であるゼノビアのツェンドラム部族が女王を輩出している。


 ヴィーステ王国が建国されたのも、周辺国に対抗するためだった。

 今も超大国のユーラスタ帝国や領土拡大政策を取っている軍事国家スタリオンはもとより、騎馬王国ダービットも小国家群連合もヴィーステ王国の利権を奪い取ろうと画策している。幸いヴィーステ王国はスパイスや岩塩、砂糖などの輸出品が多くあり、周辺国の思惑を逆手に取って、上手く交易で利益を上げて、やりくりしてきた歴史があった。先代のクレオラ女王の時代までは・・・


 ゼノビアがやった政策は、貴重なナール川流域の農地で、小麦や米などの穀物の生産を大幅に減らし、輸出品であるスパイスや砂糖の生産に力を入れた。ゼノビアの考えでは、新造した商船を使って安く大量に小麦などの穀物を輸入し、スパイスや砂糖を大量に輸出して大儲けしようと思ったのだろうけどね。

 ただ、大量に輸入するにも海上交易ができなくなった現状では、国内の食料自給率を下げただけに終わってしまった。


 そうなると各国から足元を見られ、肝心の輸出品である砂糖やスパイスも安く買い叩かれてしまう。そして資金不足に陥り、必要物資も買えなくなってしまった。


「ゼノビアは馬鹿ニャ!!食べ物がなければ死人が出るニャ。いくらスパイスがあっても、そんなに腹は膨れないニャ」


 ケトラの言う通りだ。

 でも私に言わせると、やっている本人は案外気付かないものだ。社長時代、良かれと思って安売り路線に切り替えたが、肝心の「ちょっとだけ贅沢な家具」を求めて大森家具に足を運んでくれていた、多くの顧客を失ってしまった。

 この時私は、「価格を半額にしても、売り上げを3倍にすればいい」と本気で思っていたからね。


「ゼノビアだけを責められないわ。止める側近がいれば防げただろうし、どう考えてもユーラスタ帝国の策略に引っ掛かっているわね」


 ユーラスタ帝国は大穀倉地帯を抱えており、自国の小麦を大量に売りつけようと画策していたのだと思う。ユーラスタ帝国に留学していたからこそ、甘い言葉に引っ掛かったのかもしれない。大型魔道船もユーラスタ帝国から借金までして建造しているからね。


「ここにいないゼノビアのことを言っても仕方がないわ。まずはこの王都周辺だけでも食糧事情を改善させましょう。それで意見を出してくれる?」


 バルバラが言う。


「ゼノビアは大馬鹿者じゃが、間違いに気付いて、今年の生産計画は以前の水準に戻しておる。後3ヶ月もすれば収穫時期じゃから、それまで凌げば何とかなるじゃろう」


 ゼノビアが私より優れている点は、間違いに気付いて軌道修正したことだろう。私は最後の最後まで、意固地になって、そんなことはしなかったけどね。


 エレンナが意見を出す。


「砂漠には大型の食べられそうな魔物が多くいたぞ。ここら辺の冒険者には無理だろうが、魔王国から暑さに強くて、戦闘力の高い奴らを連れてくれば何とかなるだろう。それか暑さを軽減する魔道具を支給してもらうかだが・・・」


 社長時代の私なら、間違いなく却下した意見だ。一人でやれると啖呵を切っていたから、魔王様に頼るなんてできなかっただろうしね。でも今の私は違う。


「駄目元で頼んでみるわ。最悪は魅了スキルで魔王様をメロメロにして・・・」


「それはないニャ」

「絶対ない」

「無理じゃ」



 ★★★


 次の日、私は魔王国に戻り、魔王様に報告書を手渡して、援助を申し出た。


「暑さを軽減する魔道具の開発だけでなく、技術者も必要だろう?だったらロクサーヌを派遣しよう。それと暑さに強く、戦闘力も高い者だが・・・マドラーム、前に言ってなかったか?」


「火山地帯に住む、レッドリザードのレドラを派遣しましょう。レドラは女ですが強いし、統率力も高いですからな」


 あっさりと受け入れてくれた。当然か・・・魔王様は私にメロメロだからね。


 3日後には、ハイドワーフのロクサーヌとレドラを筆頭にしたレッドリザード30名がやって来た。レドラから事情を聞く。


「この度は我らを受け入れてくれて感謝する。この恩に報いることを誓おう」


 レドラはレッドリザードの族長の娘で、戦闘力も統率力も高い。しかし、有能すぎることが問題だった。レドラには兄がいるのだが、兄よりもレドラを次期族長にとの声も多くあって、部族が分裂するかもしれないとの懸念があった。なので、レドラはひっそりと一人旅に出ようと思っていたそうで、今回の派遣は渡りに船だったという。


「こんな私にも、これだけ多くの者がついてきてくれることは、意外だったがな」


 レッドリザードは、リザードマンの一種族で赤い鱗が特徴だ。リザードマンの区別なんて、全くつかない私には分からないが、リザードマンの中では、レドラは美人だそうだ。結局、男ってそういう所しか見てないんだよね。


 ロクサーヌも優秀だった。


「魔力を込めれば、暑さが軽減される装備を持ってきたッス。水の羽衣というッス。中の水を凍らせたら、かなりひんやりするッスよ」

「だったらバルバラの魔法と相性がいいわね?」

「魔法が使えない者には、魔石を取り付けるタイプもあるッスけど、魔石代が掛かるッスからね」


 実際に着てみたら、なかなかの物だった。これなら半日くらいは活動できそうだ。


 すぐに私は、レドラやエレンナと共に大型で、食べ応えのある魔物を討伐に向かったのだった。

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