59 聖戦 2
ゼノビア、クレオラを交えて、今後の対応を協議する。
「ゼノビア、女王の先輩として言わせてもらうけど、いくら腹が立っても、その場の感情で使者をぞんざいに扱うことは、良くないわ」
エレンナやバルバラたちが口々に言う。
「ティサも同じようなことをしたと思うが?」
「うむ、その場の感情で使者を怒らせた者が言うセリフではないな」
「でも私は嬉しかったニャ。アイーシャたちも、そう思っているニャ」
クレオラが言う。
「その辺は後で反省するとして、過ぎたことをあれこれ言っても仕方ないわ。問題は今後どうするかね。何か意見はある?」
私は意見を出した。
「少し危険ですが、勇者様を利用してはどうでしょうか?」
こういったことは、勇者が黙っていないだろうし、頼りになりそうだ。とんでもないことを起こしそうな予感もするが、今はそれに頼るしかない。
クレオラも賛成意見を述べる。
「危険なことだけど、いい案だと思うわ。後は、結果も含めて女王陛下が責任を持てるかどうかね?」
少し考えたゼノビアが言う。
「責任は私が取ります。勇者殿にお願いしましょう」
バルバラが言う。
「あ奴なら、思いも寄らない方法で解決するかもしれんな。それと、教国の真の目的は調べたほうがいいかもしれん。あそこまで聖地に執着するのは異常じゃ」
「それは任せるニャ。もう配下の者を教国に送り込んでいるニャ」
協議の結果、情報収集に努め、仕方なくだが勇者に頼ることになった。
★★★
次の日、状況が一変する。勇者パーティーの戦士アデラが慌てた様子で、駆け込んで来た。
すぐに状況を聞く。
「大変な事態になった。ローダス教国は、既に聖戦の準備を整えて、こちらに攻めてこようとしている。取り急ぎ、私が知らせに来たのだ」
丁度よかった。
「アデラ殿、こちらも勇者様にお願いしたいことがあったのです。実は・・・」
私は対応策を要約してアデラに説明した。
「多分、力になれそうにない・・・というのも勇者様は、勇者資格を教会から剥奪されたのだ」
一同に衝撃が走る。
詳しく聞くと、デザートフォレストを出発した勇者一行は、世界各地回っていたのだが、行く先々で教会があくどい方法で金儲けしていることに激怒し、教会の総本山であるローダス教国に乗り込んだそうだ。
「勇者様には、落ち着いてじっくりとこちらの要望を伝えるように進言したのだが、聞き入れてくれなかった。教国で10年に1度行われる復活祭の会場に乗り込み、教皇や枢機卿たちを前にこう言ったのだ。
『神を語る詐欺師め!!悔い改めろ!!』
これに激怒した教会から、勇者資格を剥奪されたのだ」
ゲームでは神のお告げが教会にあり、それで勇者と認められるという設定だった。ゲームであれば、いくら無茶なこともをしても、勇者はずっと勇者だが、この世界ではそうではなかったようだ。各国が彼女を勇者として扱っていたのも、教会のお墨付きがあったからこそだ。そうでなければ、即刻処刑されていただろう。
しかし、一体どういうことだろうか?
仮説として考えられるのは、私や勇者がゲームのストーリーを全く無視して、好き勝手にしたため、システムの修正力が働いたのかもしれない。まあ、証明することなんてできないけどね。
「勇者様の同行者も様々だ。教会に勇者資格を剥奪されたことで離脱する者、変わらず勇者様に付き従う者。そして、厄介なのは勇者資格を剥奪した教会に激怒して、『大聖堂を焼き討ちにしてやる』とかいう過激な奴らだ。仕方なく私が、過激な奴らを連れて、勇者様の元を離れてここに来たのだ。彼らには、勇者様を支援する戦力を集めると言ってな」
更に聞くと、教会は新たに勇者を認定したという。
バルバラがまとめる。
「勇者が力になってくれるどころか、更なる厄介事を引き起こしたということじゃな。ここにアデラ殿が来たことで、聖地を不当に占拠している旧勇者の一派を討ち倒すという大義を与えてしまったのう」
「本当に申し訳ない。そちらがそんな状況だとは、思いもしなかった」
前女王のクレオラが落ち着いて言う。
「敵の敵は味方と言うじゃない。こちらの味方が増えたと思いましょうよ。もちろん協力してもらえるわね?」
「もちろんだ」
クレオラが言う。
「戦争は避けられないと思うわ。それも過去に例のないくらいの規模のね。ゼノビア、前女王としてアドバイスするけど、向こうが聖戦を発動するなら、こちらは「砂の盟約」を発動しなさい」
青ざめたゼノビアが言う。
「そこまでの事態なのですね・・・」
「最悪の最悪を考えれば、そうなってもおかしくはないわ」
「分かりました。すぐに発動準備をします」
ゼノビアに「砂の盟約」について聞いた。
教会の聖戦と同じような感じで、ヴィーステ王国の国家存亡の危機に対して発動されるもので、現代で言う「国家非常事態宣言」と「国民総玉砕」を併せたようなものらしい。つまり、国家の存亡を懸けて戦うことを宣言するものだ。
クレオラが言う。
「まあ、発動だけして外交カードにも使えるしね。それくらいこっちが本気ということを見せないとね。聖地を取ったところで、国はボロボロになるという脅しになるわ」
エレンナが言う。
「戦力を考えると教国だけであれば、どうということはない。だが、周辺国が同時に攻め込んで来たら、かなり厳しい。戦闘も重要だが、外交にも手腕が必要だ」
「ゼノビア、戦場には私が立ちます。貴方は、死に物狂いで外交をやりなさい」
「お、お母様・・・」
アデラが言う。
「実は最近勇者様の同行者になった者が、かなり有能なのだ。彼が加入してから資金管理も苦労しなくなったし、交渉力もある。今は血の気の多い奴らの相手をさせているから、明日にでも紹介しよう」
この時期に勇者の仲間になるなんて、かなり怪しい。少し、調べたほうがいいかもしれない。
私は、ケトラに目配せをした。ケトラも理解したようで、すぐに部屋から出て行った。
このゲームの修正力が、勇者や私のようなイレギュラーを一度に始末しようとしているのかもしれない。
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