57 荒療治
次の日、私は魔王国に戻り、ゼノビアを訪ねた。
「ゼノビア!!大変よ。クレオラ様が倒れたの。ベッドから起き上がれない状態なのよ。すぐに側に行ってあげて!!」
「で、でも・・・」
渋るゼノビアに言った。
「親なんて、いつまでも元気でいるとは限らないのよ。会いたくても、もう会えない人もいるんだからね」
それは、私のことだけどね。
オルグストンが言う。
「ゼノビア、行こう。今回に限り、お前が嫌がっても、無理やり連れて行く」
「・・・分かったわ・・・」
私は、ゼノビアとオルグストンを連れて、クレオラの元に向かった。
★★★
パルミラの王城、元クレオラの部屋。ゼノビアは、なんだかんだ言っても、クレオラの部屋はそのままにしていた。
ベッドに臥せったクレオラにゼノビアが駆け寄る。
「お母様・・・本当にごめんなさい。不出来な娘で、申し訳ありません。お母様が大切にしていたヴィーステ王国をボロボロにしてしまって・・・本当に・・・本当に・・・」
「久しぶりに会ったと思ったら、謝ってばっかりじゃないの!!女王が、そんなんじゃ駄目よ。自信を持って。たとえ不安でも、それを悟らせないようにと、教えたでしょ?」
「は、はい・・・」
少し間をおいて、クレオラが言う。
「ところで、どうしたの?そんなに慌てて。まるで、私が不治の病みたいじゃないの?」
「そ、それは・・・ティサリアが、『ベッドから起き上がれない』って言ってたから・・・」
「慣れない仕事をしたから、ちょっと持病の腰痛が悪化したのよね。この年齢で長時間の立ち仕事は辛いからね」
鬼の形相で、ゼノビアが睨んでくる。
「ティサリア!!どういうことよ!?」
「嘘は言ってないわよ。ベッドから起き上がれないのは本当よ。回復魔法ですぐに治せるんだけど、そうしなかったのは、元宰相のアロヨと相談してそうしたのよ。どう見ても働きすぎだから、しばらくは休ませてほしいってね」
「それにしても・・・・」
「騙し、スカしは交渉の基本よ。貴方も女王なんだからね。じゃあ、私はこれで失礼するわ。折角の機会だからね。オルグストンも行くわよ」
私はオルグストンを連れて、退出した。
オルグストンも私も心配なので、部屋の外で聞き耳を立てていた。二人とも親子だし、お互いのことを大切に思っているから、ぎこちなかった会話もだんだんと弾んで行く。
オルグストンが言う。
「騙し討ちに近いやり口だが、ティサには感謝している。これでゼノビアとクレオラ殿が関係を修復してくれればいいのだがな」
「私もそう思うわ。できるかどうかは、本人たち次第だけどね。会話の感じからすると、仲直りできそうな気はするけどね」
それから30分程経った頃、急に怒鳴り声が響いた。
「ゼノビア!!貴方をそんな甘ったれに育てた覚えはないわ!!何が自信がないよ!!女王がそんなんでどうするのよ!?」
「だ・か・ら!!女王は辞めるって言ってるじゃないの!!私には無理だって」
「やる前から無理だって!?そんなことも教えたつもりはないわ!!」
「もうやったんだからね。大失敗したけどね」
「あんなのやったうちに入らないわ!!それに簡単に投げ出すような子に育てた覚えはありません!!」
私とオルグストンは、慌てて部屋に入り、二人を止めに入った。
何とか二人を落ち着かせた。
「つまり、クレオラ様は、ゼノビアに女王をしてほしい。でもゼノビアは、女王をやる自信がないということですね。となると、ゼノビアに女王としてやっていけるように自信をつけてもらえればいいんですよね?」
ゼノビアが答える。
「私だって、できるならやりたい。でも、また国が滅茶苦茶になるかもしれないと思うと、不安で堪らないのよ・・・お母様が大切に育てて来たヴィーステ王国だしね・・・」
クレオラが言う。
「だったら、私に考えがあるわ。ティサリア大臣、ちょっと頼めるかしら?」
クレオラから、説明を受ける。
ゼノビアを見ると、顔が青ざめている。オルグストンが反対意見を言う。
「それは流石にゼノビアが・・・」
言い掛けたところで、クレオラが言う。
「オルグストンさん!!貴方も貴方で悪いわよ。ゼノビアを甘やかしすぎです。優しくするだけが本当の愛ではないのよ!!」
「そ、そうだが・・・」
流石のオルグストンもクレオラの迫力に負けてしまった。
「ではやりますね。ゼノビア、諦めなさい。これも試練よ・・・」
私はゼノビアに幻影魔法を掛けた。
★★★
私は執務室で報告書を読んでいる。
側にいたバルバラに言う。
「ゼノビアも頑張っているみたいね。クレオラの秘書として、こき使われているらしいけど・・・」
実は、ゼノビアに幻影魔法でダークエルフの姿に変え、クレオラの秘書見習いということで、クレオラが厳しく躾けることになったのだ。だから今、クレオラはトリスタに居る。行儀作法から、書類整理など、本当に厳しく指導されている。ゼノビアがクレオラを退位させたのも、この特別指導が影響しているらしい。
「魔導士もそうじゃが、下積みを経験しておらんと、碌でもない者に育つからのう」
「バルバラは、下積みを経験したの?」
「妾クラスになれば、そんなものは必要ないのじゃ」
だからか・・・
それを言ったら、私もだけどね。
今思えば、私も父の下で修業すればよかったと思う。でも、あの当時はプライドの塊で「私はアメリカでMBAを取得して来た天才」と、本気で思っていたからね。
私はもう、父と仲直りすることはできないけれど、ゼノビアにはクレオラと仲直りしてほしい。
報告書とは別にクレオラからの個人的な手紙も送られてきており、それも確認する。
「本当にありがとう、ティサリア大臣。近況だけど、ゼノビアには、トリスタの塩田事業と船着き場の増設関係をやらせているわ。どちらも、利権が絡むことだし、難しい交渉をしないといけないから、いい勉強になるわね。これが成功すれば、大きな自信になると思うわ。それができたら、今度はファラーハと交渉でもさせてみようと思うのよ。あのオバちゃんをやり込められたら、一人前と認めるわね」
ゼノビアの苦労が伺える。
私だって、あのオバちゃんには、やり込められてばっかりだからね。
でもよかった。近い将来、本当に立派な女王が誕生することだろう。
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次回から最終章となります。




