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転生したポンコツ女社長が、砂漠の国を再建する話  作者: 楊楊
第五章 一難去ってまた一難

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54 和平交渉

 難しい仕事を引き受けることになってしまった。

 こんなことは勇者の仕事だろうに・・・

 でも仕方がない。そもそもの話、勇者が問題を引き起こしたのだから。


 和平交渉を進めるに当たって、各国の現状をまとめる。

 まずスタリオンだが、属国や植民地だった国や都市が反旗を翻し、協商連合として独立したことは、怒り心頭だ。すぐにでも攻め滅ぼしてやりたいと思うところだが、そうも行かない。それはユーラスタ帝国という超大国の存在があるからだ。スタリオンは現在ユーラスタ帝国と領土問題を抱えている。全軍を協商連合の討伐に当ててしまうと、帝国との戦線が維持できなくなる。ここ30年ほどは、大きな戦闘も起こっていないので、合理的に考えれば、帝国と手を握り、協商連合に戦力を集中することも考えられるが、それはまず無理だろう。スタリオン自体が反帝国を声高に叫んでいるからだ。


 続いて協商連合だが、悪く言えば寄せ集め集団だ。

 元属国や植民地の集まりなので、まとまりがない。反スタリオンで連携しているだけで、各個撃破されれば、太刀打ちできない。圧倒的に不利な状況なのだが、帝国とスタリオンとの関係があるからこそ、何とか独立までこぎ着けている。


 そして帝国だが、こちらは漁夫の利を得ようと画策している。

 スタリオンと領有権を主張し合っている土地は、大して利用価値はなく、お互いプライドや見栄から領有権を主張しているに過ぎない。なので、採算度外視で奪い取ろうとするまでは考えておらず、スタリオン自体を攻め滅ぼそうとも考えていない。帝国に比べれば、スタリオンは豊かな土地ではないし、わざわざ統治する必要もないのだ。


 勇者の悪運なのか、大規模な戦闘に発展していないのも、こういった国際情勢があるからだ。

 バルバラが言う。


「あの勇者は、運だけは強いのう。下手をすれば世界大戦になってもおかしくないのじゃがな」

「そうだね・・・」

「それで策はあるのか?」

「あるにはあるけど、どうなるか分からないわ。とりあえず、話合いには応じてくれることになったけどね」


 タチアナが奔走し、何とかスタリオンと話ができる場をセッティングした。帝国も仲裁者として、参加を表明している。


 まあ、あまり期待はしてないけどね。



 ★★★


 極秘会談が行われたのは、大発展中のサイロ港だ。

 立地条件もあるが、ファラーハの活躍が大きい。何気にこの会談を成立させたのは、ファラーハだからね。

 もちろん、世界平和のためではない。利益の為だ。協商連合とスタリオンの戦争がきっかけで、帝国も参戦すれば、ヴィーステ王国にも大きな影響が出る。戦争は儲かるというが、不確定要素も多いため、ファラーハとしては、平和な状態のほうが利益が見込めると思ったのだろう。実際サイロ港は、順調に発展しているしね。


 会談は非公式なので、ファラーハが経営するホテルで行われた。

 スタリオンからは王太子のニコライ、協商連合からはタチアナ、そして帝国からは皇太子のチャーチルが顔を揃えた。

 会議室に入り、少数の護衛を残し、すぐに文官や従者などは退出させられた。本当に腹を割って話をするようだった。


 タチアナが最初に礼を述べる。


「この度は、忙しい中・・・」


 言い掛けたところで、ニコライ王太子が遮る。


「時間がもったいない。あの条件を帝国は呑んだのか?どうも信用ができんがな」


 チャーチル皇太子が返す。


「こちらとしても悪くない案だ。多くの者が、あんな土地など、そちらにくれてやればいいと思っている。だが、スタリオンに渡すことだけは許さんという意見が多いのも確かだ」

「それはこちらもだ。帝国の物にならないのなら、承認も得られやすい」


 タチアナが言う。


「ということは、双方とも承認されるということでよろしいのですか?」

「ああ」

「その通りだ」


 開始5分で話がまとまってしまった。

 この解決策というのが、スタリオンと帝国が領有権を争っているカスティーヤ地域を協商連合が統治するというものだ。

 カスティーヤ地域には、双方とも多くの軍隊を配置している。たとえばだが、相手が5000の軍隊を配置していたら、必然的に同数を配置しなければならない。また、双方が嫌がらせのように大規模な演習を行ったりするから、かなりの経費が掛かっている。双方の文官連中からは、「あんな土地くれてやれ」という意見も出ていたが、長年争い続けた土地で、しかもプライドの塊のような両国は、引くに引けない。


 そこに協商連合が統治するという案が出たので、渡りに船だったらしい。

 また、勇者対策として、議会政治をする予定で、スタリオン、帝国ともに同数の評議員を派遣することで話はついている。

 双方とも、政治的にカスティーヤ地域を奪い取ると国民には説明するそうだ。


 ニコライ王太子が言う。


「それと勇者の馬鹿の対策も兼ねている。この際だが、勇者についてのみ帝国と足並みを揃えることにする。本当に仕方なくだがな」

「こちらもだ。勇者関係の情報についてのみ、そちらにもすぐに提供しよう」


 勇者という共通の敵がいる為、お互い歩み寄りを見せている。勇者が想定した平和とは全く違うだろうけどね。


 ある程度、話ができたところで、チャーチル皇太子は退出した。

 今後は正式なルートで詳しく条件を調整するようだ。


 ★★★


 ニコライ王太子が残っていたタチアナに声を掛ける。


「タチアナ、よく頑張った。これで我が国の未来も明るい」

「ありがとうございます、お兄様」


 意外に仲が良かった。

 後でタチアナに聞いてみたら、ニコライ王太子もスタリオンの行く末を憂いていたそうだ。特に軍隊の維持費が国庫を圧迫している状況で、近い将来破綻する可能性もあったという。そのために帝国との領土問題を解決したかったようだ。

 また、植民地や属国の反乱対策にも多くの出費があり、それも削減したかったので、ニコライ王太子としては、協商連合の独立を契機にそれも解消できて、喜んでいるらしい。


「スタリオンの軍隊は精強です。自国の防衛だけを考えれば、今まで程、軍事費を掛けなくてもいいのです。そうすれば、他に回せますしね。このような素晴らしい解決策を示してくれた女王陛下には、感謝してもしきれません」


 実はこの案は、私が出したのだ。

 落語の「三方一両損」の話を思いつきで話したところ、上手く嵌ったのだ。落語では、3両入った財布を落した男が、拾って来た男に「俺は江戸っ子だから、一度落とした財布は受け取れない」と受け取りを拒否する。拾って来た男も「俺も江戸っ子だから、他人の財布は受け取れない」と拒み喧嘩に発展する。それで、時の奉行大岡越前は、この者たちのさっぱりした性格に感銘を受け、自分が1両を出費して、「普通なら3両受け取れるところを2両ずつで双方1両損、儂も1両損したから、三方一両損だ」と喧嘩を仲裁した。


 まあ、この話を応用し、和平を実現させたのはタチアナだったけどね。

 帝国とスタリオンは土地を失い、協商連合は厄介事を背負い込むことになった。


「タチアナ殿、何とか和平は実現しましたが、まだまだ問題は山積みですよ」


「十分分かっています。スタリオンと帝国の評議員と勇者様の相手・・・考えてだけでも、胃が痛くなりますよ。でも、血が流れなかっただけよかったと思います」


 本当に勇者は悪運が強い。

 少しは陰で苦労している者たちに目を向けてくれればいいのだけどね。

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