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転生したポンコツ女社長が、砂漠の国を再建する話  作者: 楊楊
第五章 一難去ってまた一難

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52 勇者パーティーの今

 ターバに到着した。

 難民用テントが建ち並び、多くの難民が一時的に居住しているようだったが、思ったほど荒れていなかった。例のごとく、サンドサーペントやサンドクラブを大量に狩って持って行ったことで、難民からは好意的に迎えられた。


「女王陛下自ら、私たちのために振る舞ってくれている」

「砂漠という厳しい環境だけど、ここはいい国かもしれないな」

「スタリオンで虐げられているよりは、ここのほうがいいな」


 難民のほとんどは、ゼノビアが失策を繰り返していたことなんて知らないので、難民にも優しい女王というのが大方の評価だ。

 バルバラが言う。


「思ったほどは荒れておらんな。ターバの代表者は、意外に優秀なのかもしれんな」


 しばらく、慰問を兼ねて見て周ったのだが、その理由が分かった。

 かなりやつれてはいるが、勇者パーティーの初期メンバーである戦士アデラ、魔導士シンディー、回復術師ヘレンが勇者の同行者を通じて指示を出し、何とか問題を起こさないようにしていた。


「テントがない者は申し出ろ!!西区に若干の空きがあるから、そちらに回せ!!」

「食料の配給は夕方です。それまで待ってください!!」

「治療が必要な方はこちらに!!」


 勇者はあの調子だが、三人は確実に成長しているようだ。


 しばらく、その様子を見ていたのだが、私に気付いた三人が声を掛けてきた。


「女王陛下!!お久しぶりです。本当にご迷惑をお掛けして、申し訳なく思っております」

「その話は、今はいいわ。それよりも勇者殿の姿が見えないようだけど?」


 回復術師のヘレンが、答えづらそうに言った。


「勇者様は、町の代表者と協議をしておりまして・・・あまり、いい話にはなっていないようなのです」


 詳しく事情を聞く。

 現時点でもターバは、難民で飽和状態なのだが、勇者の馬鹿は、更に難民を受け入れるようにターバの代表者に要請しているという。


「もちろん、このままターバに難民を受け入れ続けることなんてできないと分かっています。その辺を勇者様にも説明したのですが、『目の前の人を救えなくて、何が勇者だ!!』と怒り出されてしまいまして・・・私たち三人は、勇者様とターバの代表者の板挟みになってしまって困っているのです」


 戦士アデラも続く。


「見てのとおり、今でもやっとの状態だ。これ以上難民が増えれば、破綻するのは目に見えている。勇者様の主張が間違っていないだけに、こちらも対処のしようがないのだ」


 勇者が言っていることは正論だ。何も間違っていない。

 しかし、そんな理想論だけではどうしようもない。物資も資金も人員も限りがある。この数の難民を受け入れているだけでも感謝してほしいものだ。


 それと三人だが、かなり疲労が溜まっているように見える。かなり苦労しているのだろう。

 この三人は元々、勇者パーティーとして、戦闘をメインで集められたのだから、これ以上政治的なことに期待するのは酷だろう。


「ここまで問題も起こさずにやって来れたのは、三人のお蔭よ。勇者殿については、私に任せなさい。誰かがガツンと言ってあげないとね」


「ありがとうございます。女王陛下には、お世話になりっぱなしで、恐縮です」



 ★★★


 三人と一緒に私たちは、ターバの役所にやって来た。

 職員に事情を説明すると、すぐに代表者の元に案内された。今も勇者と代表者が難民について、議論を交わしているという。

 代表者の執務室に着くと、外にも聞こえるくらいの怒号が響いていた。


「だから!!難民をもっと受け入れろと言ってるじゃないか!!」

「そう言われても、こっちも限界なんだ!!水も食料も限りがあるし、人もいない」

「そこを何とか知恵を絞って、解決策に導くのが、上に立つ者の務めだろ?指導者が無能だと、困るのは民衆だ!!」

「あったら、とっくの昔にやっている!!それと小娘!!言葉遣いには気を付けろ。お前が勇者じゃなかったら、即刻切り殺しているところだ」


 これを聞いただけで、最悪の状況だと理解できる。

 私はすぐに勇者とターバの代表者の間に入った。私に気付いたターバの代表者が謝罪を述べる。


「こ、これは女王陛下・・・お見苦しいところをお見せいたしまして、申し訳ございません」


「気にしないでください。活発な議論は必要ですからね」


 一方勇者はというと・・・・


「久しぶりだね、女王さん。この分からず屋に女王さんからも、何か言ってもらえないかな?」


 勇者は前世と同じで、絶対に自分の意見を曲げない。

 それで私がどれほど苦労したことだろうか・・・まあ、私なんてまだ可愛いほうだ。もっと可哀想なのは、彼女の秘書だった男性だ。いつも勇者と支援者たちとの板挟みになり、まとまりかけた話も勇者が癇癪を起して、おじゃんにすることもよくあった。嫌になって失踪したとしても、不思議ではない。


 まあ、そんな昔話は置いておいて、問題は勇者をどうするかだ。

 ここに来る際に、私もそれなりに案は持ってきている。一言で言えば、勇者をここから追い出すことだ。

 状況を分析すると、今の難民の数であれば、何とか捌くことができる。サイロ港は建設ラッシュだし、ファラーハが拠点にしているアレッサも好景気に沸いているから、ある程度の人数であれば受け入れることができるだろう。ファラーハに貸しを作ることになるだろうけどね。

 また、ダイバーシティもどんどん発展しているから、迫害されている獣人や亜人も受け入れられるし、ノッカーたちのような鉱山労働に向いた種族がいれば、ハジャスに頼んでもいい。


 問題は一気にターバに難民が来たことなのだ。

 少しずつであれば、何とか捌ける。ただ、ここで勇者の肩を持ち、ターバに難民を受け入れ続けることは得策ではない。ターバの代表者の顔を潰すことにもなるし、勇者が増長して、どんどんと難民を連れて来る事態になるかもしれない。


「勇者殿、お気持ちはよく分かりますが、ターバにも限界があるのです。こちらの者も、悪意があって難民を排除しようとしているのではないのです。物理的に無理なのです。難民の受け入れを拒否するのは、ターバの代表者として、当然のことなのです」


 勇者は食い下がる。


「でも、そこをなんとかするのが・・・」


「何とかできればいいのですが、そんな策は思いつきません。それよりもまずは、根本的な原因を・・・」


 そもそもの話、難民が大量に発生したのも、政情が安定しないからだ。

 難民の中には、政情が安定すれば、故郷に帰りたいと思っている者も多くいる。つまり、協商連合とスタリオンとの争いが解決すれば、難民問題は自然と解決する。一部の獣人や亜人などは、ダイバーシティなどに居住するだろうけど。

 なので、勇者をターバから追い出し、政情を安定させる策として、勇者に講和の使者になってもらおうと考えていた。


 もちろん危険性はある。

 しかしこの世界において、勇者の権限はかなり強い。あれだけ無礼なことをしても、入国禁止程度で済んでいるしね。

 だから話くらいは聞いてくれるだろう。また、勇者に自分で蒔いた種は、自分で刈り取ってもらおうという個人的な思いもあった。


 前世を含めて、どれだけアンタに迷惑した者がいると思っているんだ!!

 少しは、反省しろよ!!


 それを口に出すと、勇者との関係が崩れるので、それとなく皮肉を込めて言った。


「つまり、勇者殿にはスタリオンと協商連合との交渉が上手くいくように協力願いたいのです。講和が成立すれば、難民問題も自然と解決するでしょう。今のまま、難民を受け入れ続けるなんて、とてもできません。それこそ、砂漠を緑に変えるくらいのことをしなければね」


 少し考えた勇者は言った。


「それは名案だ!!魔法と物資を総動員すれば、可能だろう。よし!!そうなったら、すぐに計画を練ろう。ボクの力で、砂漠を緑に変えてやるんだ。女王さんも協力してくれるよね?」


 そっちか!?


 そういえば、勇者はこういう奴だった。

 砂漠を緑に変えるなんて、皮肉以外の何物でもないのに・・・

気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!

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