47 開発
廃鉱山をあてがわれたノッカーとノームたちだが、意外に大喜びだった。
「やったぞ!!こんな立派な山を貰えるなんて、ツイてるぞ!!」
「それも三つだ!!穴を掘り放題だ!!」
「手当たり次第に掘るなよ!!計画的にだ。まずはこの山をしっかり開発しないと」
私はノッカーたちの代表者に今後の予定などについて話をした。ノッカーたちの代表者はノックスという男だった。
「まずは生活環境を整えてください。その間はこちらで、支援いたします」
「ありがとう。こんな立派な山をくれるなんて、有難いよ」
「喜んでいただいて、こちらも嬉しく思います。ただ、ずっと支援はできませんので、何か資金を稼ぐ方法を考えないといけませんね」
「それはそうだな・・・」
それからしばらく、ノックスから話を聞いた。
まずノッカーとノームだが、移住してきた者たちは、ほとんどが混血だという。ノッカーとノームの間に子供ができると、その子供はどちらかの特徴を引き継ぐようだ。魔王国に居た時は厳密に分けれられていたそうだが、魔王国を出てからは、明確な区別はつけていないそうだ。
「手先が器用な奴もいれば、穴掘りが得意な奴もいる。そんな感じだ。もうノッカーとノームではなく、別の種族かもしれないな」
居住地はどちらも地中を好み、集団で住むので、あてがわれた廃鉱山は、願ったり叶ったりの環境のようだ。
「長旅でお疲れだと思います。しばらくは生活環境を整えて、ゆっくりとしてください」
「そうさせてもらうけど、気の早い奴はもう、その辺を掘り返しているからな」
★★★
それから2週間、ジャスミンが駆け込んで来た。
「凄いですよ!!廃鉱山で魔石が大量に採取できました。普通は掘らないような場所を掘って、ノッカーたちが見付けました。これで、問題は解決ですね!?」
「そうですね・・・そうなるといいですけど・・・」
すぐに現場を確認し、ノックスから見立てを聞く。
「このペースで掘っても、10年は持つな。俺たちに掛かれば、こんなもんだ」
その後、ハジャスに報告に向かう。ジャスミンが嬉しそうに報告する。
「これで全て、問題は解決です。じゃんじゃん掘って、じゃんじゃん、儲ければいんですよ!!」
しかし、ハジャスは渋い顔で言った。
「それは承認できん。それと、このことは、しばらく秘匿にしてくれ」
「父上、なぜですか!?早速、結果を出したではありませんか?それに魔石があれば、この地はもっと発展します」
「お前は何も分かってない」
「分かっていないのは、父上のほうです!!」
親子喧嘩が始まってしまった。こういうちょっとしたことが、将来大きな溝になるんだよね。経験者は語るというやつだ。
仕方なく仲裁に入る。
「二人とも、落ち着いてください。ハジャス様、私のほうからジャスミン様には説明しますので、この場は、これで収めてもらえませんか?」
「客人の前で失礼した。ジャスミンよ、ティサリア殿の話をよく聞くように」
私はジャスミンを連れて、退出した。
「本当に分からず屋なんですから!!」
ジャスミンの怒りはまだ収まらないようだった。
ジャスミンの執務室で、少し話をする。
「ジャスミン様、なぜハジャス様があのようなことを言ったか、分かりますか?」
「分かっていますよ。私のことが嫌いなんでしょ?私のやる事なす事、全てが気に入らないだけなんですよ。本当にもう!!あの分からず屋は腹が立つ!!」
ハジャスがもっと丁寧に説明すればよかったのにと思ってしまう。だが、ハジャスはあの性格だ。基本的に必要事項しか言わない。それは娘に対しても同じだろう。私の父もそんな感じだったな・・・
「それは違うと思います。ハジャス様が反対されたのも、理由があるのです」
「理由なんてないわ。私が嫌いなだけよ」
「そうではありません。まず、ハジャス様が移民の受け入れ自体を渋っていた理由を考えてみてください。これはハジャス様だけでなく、住民、特に鉱夫の反発が大きいと聞きました。もしこの状況で、ノッカーたちが魔石を廃鉱山から掘り出してしまったらどうでしょうか?」
ジャスミンは、何かに気付いた顔をする。
そもそもの話、鉱夫が移民の受け入れを反対しているのは、仕事を取られると思っているからだ。ハジャスが秘匿にすることを指示したのも、自分たちよりも優秀な鉱夫が来たと思われて、ノッカーたちに敵意が向かないようにするためだ。
「話はそれだけではありません。魔石を掘れば掘るほど儲かるというものではありません」
これはどの世界でも共通だ。石油にたとえると生産量が限られているから高値で売れる。金だって、ダイアモンドだってそうだ。採掘できる量が少なく貴重だから、あんな高値がつく。その辺に転がっていたら、誰もお金を出してまで買おうとは思わないしね。
だからこそ、ハジャスは魔石の採掘量を秘匿にし、更に生産量を抑えるなどして、上手く魔石の価格を維持して来た。掘っても掘っても生活が楽にならないなんて、悲惨だからね。そのお陰もあり、ゴルド部族は比較的裕福で、力も強い。
領土を拡大しようとしたり、もっと儲けようと思えば、違うやり方もあるだろうが、このままの状態で次世代に引き継ぐということを最優先に考えれば、悪くはない施策ではある。
「そ、そんな・・・それではノッカーたちが頑張ったのは無駄だというのですか?」
「全くの無駄ではありません。たとえばですが、こっそりとヴィーステ王国に卸してもらい、援助した資金や物資の返済に充ててもらいます。これくらいなら、ハジャス様も承認してくれると思います。ただ、表向きは国から支援を受けている可哀想な種族ということになります」
「それはあんまりです。彼らには生き生きと、誇りを持って暮らしてもらたいのに・・・」
ハジャスもジャスミンも部族のことを憂いている。でもやり方が全く違う。もっとコミュニケーションを取っていれば、誤解が解けただろう。でも今なら間に合う。もうそんなことができない私が言うのもおかしな話だけどね。
「ハジャス様もジャスミン様と同じ気持ちだと思います。ただ、あの性格ですから、誤解されることも多いのではないでしょうか?」
「本当に不器用なんですから・・・でも一体どうすればいいんでしょうか?」
「それを考えるのが為政者の務めです。ハジャス様もそうですが、女王陛下もいつも思い悩まれていますよ」
ジャスミンは少し考えて言った。
「私も悪かったですね。もっと大きな目で考えてみます」
そうは言ったものの、私だっていい案なんて思いつかない。誰か一発で解決する方法を教えてくれないだろうか・・・
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