40 都市開発
私はティサリア大臣として、大草原にある新都市建設予定地に来ている。
来てみてびっくりだ。多種多様な種族がいる。どれも見た目がアレだが・・・
難民には大きく二つのタイプに分けられる。一つは北大陸の不穏な動きを敏感に感じ取って、早めに避難して来た人族だ。こちらの大半は、ファラーハやハジャスに確保されてしまった。もう一つは奴隷となっていたり、北大陸の辺境に隠れ住んでいた亜人や獣人たちだ。後者が大草原にある新都市建設予定地に多数やって来た。
亜人や獣人の中でも、比較的人族に近い容姿をしているエルフやドワーフ、ハーフ獣人などはファラーハたちに確保されていたので、人族と見た目が大きく異なる種族が多くやって来たのだ。
主な種族は、下半身が馬のケンタウルス族、下半身がヘビのラミア族、下半身が蜘蛛のアラクネ族、リザードマンの一種で緑の鱗を持つグリーンリザード、成人でも子供サイズの身長しかないハーフリングなどだ。彼らは決して無能ではないのだが、その容姿から、迫害をされてきた歴史がある。なので、ある者は不安に怯え、ある者は疑いの目で私たちを見ている。
まずは、彼らを安心させようと思い、各種種族の代表者を集めて会合をすることにした。
「私はヴィーステ王国開発担当大臣のティサリアです。皆さんが安心して暮らせるようにサポートをさせていただくためにここに来ました。これは女王陛下肝入りの政策なのです」
ケンタウルス族の代表が言う。
「それには感謝する。それで我々はヴィーステ王国女王に従えばいいのか?」
「いいえ、違います。皆さんが独立して生活できるまでは支援しますが、最終的には皆さんだけで、この都市を運営してもらいたいのです」
これには、他の代表者たちがざわつく。
ラミア族の代表が言う。
「つまり、この中から王を選べということか?」
「少し違います。皆さんの中には、勇者様に奴隷から解放された方も大勢いらっしゃいます。この町は勇者様の理想に近い形で運営していこうと思っています。それは各部族の代表がそれぞれ意見を出し合って、最終的には多数決という形で意思決定をしていくものです」
ハーフリングの代表者が言う。
「果たして、そんなことが可能なのでしょうか?勇者様には奴隷から解放していただいて感謝しています。その時、勇者様からそのような話も聞いたことがあります。そうなれば本当にいいと思っていましたけど、実際にできるのでしょうか?」
「できるかできないかは、やってみなければ分かりません。それに私たちもサポート致します」
皆、戸惑っているようだが、反対意見は出なかった。
★★★
この政策を実行するに当たり、すべて彼らの思い通りにはならないような手は打っている。会議に参加するアイーシャと私たちヴィーステ王国の担当者には拒否権を持たせており、あまりにも無茶な議決はさせないようになっている。また、魔王国からも多くの種族を入植させている。レッドリザードやタートル族、ゴブリン族はもちろんだが、コボルト族やインプ族にも希望者が多く、受け入れているのだ。彼らを上手く使って、こちらの思惑通りに世論を誘導することも可能だしね。
開発は順調に進む。
資金も物資も豊富にあるし、人も揃った。町はどんどんと大きくなっていく。また、居住区を分けたことで、種族間のトラブルも思ったほど起きていない。
ここまで上手くいったのは、勇者のお蔭でもある。多くの者は勇者に感謝しているのだ。だから、困ったことがあれば、「勇者様はこう言った」と言えば、大体収まる。というのも、北大陸で勇者は本当に奴隷を解放してしまったのだ、それも武力を使わずに。
やり方はストライキとデモだった。最初はある農場で、家畜のように扱われていた奴隷たちを扇動し、ストライキをさせた。そして、雇用主に奴隷としてではなく、従業員としての待遇を認めさせた。この運動が北大陸全土に広がり、奴隷制が実質廃止に追い込まれたというわけだ。
ただ、この世界にはデモやストライキのほうを規制する法律なんてなく、デモ隊は暴徒化し、治安はかなり悪化しているようだけどね。
そして、勇者は解放した奴隷たちや不当な扱いを受けている者に対して、こう言ったそうだ。
「中央大陸には、僕の理想に近い国が多い。彼らは僕の理想に共感し、頑張ってくれている。君たちにも見せたいよ」
だから、難民がこぞってこちらにやって来たのだ。
勇者がやったことが良い事か悪い事かは、意見の分かれるところだろうが、私たちはそんなことよりも目の前の問題を解決しなければならないからね。
初めての代表会議で私はそれぞれの代表に言った。
「この町は騎馬王国ダービットの脅威にさらされています。私たちヴィーステ王国が皆さんを守り続けることはできません。ゆくゆくは皆さんだけで、この町を守っていかなければならないのです」
これにケンタウルス族の族長、タロスが反応する。
「自分たちの町は自分たちが守る。当たり前のことだ。それに騎馬王国の騎兵隊など大したことはない。我々ケンタウルス族にかかれば、一捻りだ」
多くの代表者が賛同する。
「返り討ちにしてやる」
「ここはいい町だ。誰にも渡さない」
「絶対に守るんだな」
これなら大丈夫だろう。
「では、今回は最初の会議ということで、議題はこちらで決めてきました。その議題ですが、この町の名前です。これは皆さんに決めていただきます。皆さんが心から愛し、誇りに思える名前なら、こちらから何も言うことはありません。私はこれで失礼しますね」
次の日、報告があった。
この町の名前、それは「ダイバーシティ」であった。
如何にも勇者が好きそうな名前だ・・・
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