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転生したポンコツ女社長が、砂漠の国を再建する話  作者: 楊楊
第四章 勇者が町にやって来た

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35 勇者滞在中

 本当にうるさい!!


 私だけでなく、スタッフ全員がストレスで倒れそうだ。その原因は奴だ。今も目の前で喚いている。


「ボクはまず、奴隷制度を廃止しなければならないと思っている。また、宗教問題も解決しないといけない。教会の腐敗も目に余る。それには話し合いだ!!各国が参加する国際会議を主宰したい。女王さん、もちろん協力してくれるよね?」

「そ、そうですね・・・前向きに検討してみます」


 政治家みたいなことを言って、あしらった。

 どうして私が直接相手をしているかというと、専属スタッフがストレスで出勤拒否状態になってしまったからだ。


 労働環境の改善を声高に訴えているお前が、なぜウチの貴重なスタッフを壊すんだ!!


 そもそもの話、勇者はパルミラに居着いてしまったのだ。

 というのも、私がスタリオンとの交渉で使った「手紙届いてないよ」作戦に感銘を受けたようで、私の元でしばらく学びたいと言ってきた。


「戦争自体、無かったことにする。そんなことは思いつかなかった。女王さんには、ますます興味が湧いたよ。しばらく近くで勉強させてもらうね」


 まあ、勉強というよりは、自分の主張を声高に訴えているだけなのだが・・・


 他のパーティーメンバーはというと、戦士のアデラはエレンナとレドラに訓練をつけてもらっていて、魔導士のシンディーと回復術師のヘレンは、バルバラに師事している。あまりにも自分たちの戦闘力が低いことに焦った三人からお願いされ、そのような措置を取った。

 今では、何とかこの砂漠でも戦えるくらいにはなっている。


 魔王軍が勇者パーティーメンバーを鍛えるのも、おかしな話だと思うのは、私だけだろうか?



 ★★★


 そんな状況の中、緊急会議が開かれた。もちろん勇者対策会議だ。

 ケトラが言う。


「もう限界だニャ。「始まりの遺跡」のスタッフもストレスが溜まっているし、勇者が居るからという理由で、客足も落ちているニャ」


 それはそうだろう、「始まりの遺跡」の宿泊客は貴族や王族、裕福な商人がメインだ。勇者の思想とは相容れない。


 エレンナも続く。


「軍にも影響が出ている。戦争の悲惨さを説き、いずれは軍隊を解散すべきと兵に吹き込んでいる。このままでは士気に影響する」


 バルバラが言う。


「何か対策を打ったほうがいいぞ。このままではヴィーステ王国が内部崩壊するじゃろう」


 それは分かっている。

 周辺各国にしてみれば、どの国も勇者に来てほしくない。比較的、高待遇だった小国家群も、政治的な理由で高待遇にしていただけで、是非とも勇者に来てほしいという国はない。


 本当にどっかに行ってほしい。


「私だって限界よ。誰か預かってもらえないかしら・・・」


「ファラーハはどうだニャ?」

「駄目よ。分かるでしょ?」

「ザルツ部族はどうだ?」

「せっかく関係が改善されたのに、またぶち壊されるわ」


 そんなとき、バルバラが言った。


「トリスタに送ってみてはどうじゃろうか?クレオラ前女王もおるし、総督府は女性スタッフも多いから、何とかなるじゃろう」


「そうね・・・受けてくれるかどうかは分からないけど、頼むだけ頼んでみるよ。最悪短期の視察ということにするわ。ここのスタッフも限界だからね」


 というか、私が限界だ。


 この提案はあっさりと受け入れられることになる。

 


 ★★★


 無事に勇者をトリスタに厄介払いできることになったのだが、根本的な解決にはならない。この国にいる間は、常に勇者の脅威に晒される。かといって、他国も受け入れてくれない。だったらどうするか?


 そこで私は思いついた。勇者をこの大陸から追い出そう。


 まず、国際会議を開くことにした。

 大陸すべての国を呼ぶ必要はない。勇者の被害を受けた小国家群の代表、ユーラスタ帝国の代表、スタリオンの代表にパルミラまで来てもらうことにした。

 奇しくも、勇者が提案した国際会議が開かれることになった。そのメイン議題が「勇者をこの中央大陸から追い出す」というのは、とんだ皮肉だ。


 会議には、ファラーハとハジャスにも来てもらった。会議が紛糾した時にファラーハがユーラスタ帝国の立場に立ち、ハジャスが小国家群の立場に立つ。私は不本意ながらスタリオンの立場に立って、上手く議論をまとめるためだ。

 特にスタリオンとユーラスタ帝国は犬猿の仲だから、かなり気を遣う。



 そして、この世界では多分、初となる国際会議が開かれることになった。

 スタリオンの代表団の中には、タチアナがいたので、ティサリアに戻って声を掛けた。少し話をしたところ、スタリオンとしても勇者を中央大陸から厄介払いするのは、大賛成だという。問題はユーラスタ帝国との関係だそうだ。


「私はそこまでではないのですが、ユーラスタ帝国の風下に立つことは、絶対に許せないという風潮があるのです。なので、その辺をご配慮いただけたら幸いです」


 ファラーハからも話を聞く。


「とにかく勇者を追い出してほしいとのことよ。スタリオンについては、眼中にないって感じね。明らかにスタリオンを優遇するようなことをしなければ、大丈夫だわ」


 ハジャスからも・・・


「こちらは、流れが決まるまでは態度を示さないだろう。もちろん、勇者を追い出すことは賛成だ。二つの大国が勇者を追い出すことで、合意する話になれば、こちらはそれに追随する形になる」


 つまり、「勇者を追い出すこと」については、既に合意していると言っていい。問題は如何に各国の面子を保つかだ。


 会議が始まり、私は挨拶とともにこう言った。


「ヴィーステ王国女王のゼノビアです。お忙しいところ、お集まりいただき感謝します。ゆっくりと関係を深めていきたいところですが、そんな時間は我々にありません。事態は深刻で、危機的状況なのです!!このままでは、この中央大陸が崩壊しかねません。ですので、如何に勇者殿を穏便に追い出すかについてのみ、議論を行いましょう!!」


 無駄に危機感を煽り、議題を限定する。ちょっとしたレトリックだが、勢いで「勇者をどうするか?」ではなく、「如何に勇者を追い出すか?」に議題を変更しているからね。


 勘のいい小国家群の代表はすぐに発言をする。この辺りは、大国よりも、普段から外交交渉に苦労してきた小国家群のほうが上手だ。


「それならば、北大陸はどうでしょうか?最近、魔道船による交易で、多少の伝手はあります。相手が、勇者様がどういった人物が知らない今のうちに、勇者様を送りつけましょう」


 これにはスタリオンの代表者が答える。


「こちらはどこでも構わん。この大陸から出て行ってくれればな。何なら、海難事故に見せかけて、海の底に沈めても構わんぞ」


 大きな被害を受けたスタリオンならではの意見だろう。ユーラスタ帝国の代表者も続ける。


「概ね賛成だ。皇帝陛下から直々に何とかしろと言われている。資金は出す。だから早く追い出してくれ」


 スタリオンの代表者が言う。


「民間に払い下げる予定の小型軍艦をくれてやる。整備すれば使えるだろう。別にこちらは不慮の事故が起こってもいいがな」


 まだ言ってる・・・


「私たちと致しましては、乗組員を差し出します。勇者様を慕う者も多くいますので、ついでに彼らを厄介払・・・ではなく、彼らの勇者様と旅をするという要望に答えたいと思います」


 今、厄介払いと言い掛けたよね?


「ヴィーステ王国としましては、提供された軍艦の整備、出発までの勇者殿の面倒を見させていただきます」


 これで上手くまとまった。

 ユーラスタ帝国は「金」、スタリオンは「船」、小国家群は「人」を出し、ヴィーステ王国はそれらをまとめて送り出すという役目を負うことになり、各国とも面子は保てた。


「これで同意がなされました。ですが皆さん、最後の大仕事が残っていますからね」


 しばらくして、勇者が現れた。

 まとまったところで、勇者が登場するように時間調整していたのだ。


「女王さん!!素晴らしいよ!!早速、ボクの提案を実現してくれて。それに集まってくれたみんなにも感謝する。僕の活動に共感し、支援をしてくれるなんて、感動しているよ」


 スタリオンの代表者は、顔が引きつっている。


「勇者殿、実は勇者殿の話を聞きたいという者が多くいましてね。この後、希望者にご指導いただけませんかね?」

「もちろんさ!!」


 勇者の講義に強制参加させられるユーラスタ帝国の若手文官たちは涙目になり、小国家群の文官は、代表者に肩を叩かれて激励されていた。スタリオンはというとタチアナが参加することになった。タチアナも面倒ごとを押し付けられたのだろう。

 そして、ヴィーステ王国はというと、タートル族から3名出してもらった。彼らほど我慢強い種族はいないからね。

 というのも、タートル族はザルツ部族の拠点であるヤルダンを気に入り、住み着いてしまったからだ。魔王軍としても、彼らを持て余していたから、有難かったようだ。


 勇者がいなくなれば、少しは落ち着く。それまで、問題を起こさなければいいのだけど・・・

気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!

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