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転生したポンコツ女社長が、砂漠の国を再建する話  作者: 楊楊
第四章 勇者が町にやって来た

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34 講和会議

 約5000人の部隊を無傷で投降させたことで、スタリオンも講和に応じてくれることになった。


 その前に少し、あの時の話をしよう。

 あれからも勇者は大暴れだった。捕虜にするのも可哀想だと言い出したのだ。それについては、こっちも妥協できなかったので、指揮官のロマノフ将軍以下指揮官クラス100名だけを捕虜にすることにした。


 だったら、勇者をどうやって説得したかって?


 私は勇者にこう言った。


「勇者殿、彼らに教育をしてみてはどうでしょうか?二度とこのようなことを起こさないためにも」

「女王さん!!それは素晴らしい考えだね。ボクがしっかりと教育してあげよう」


 つまり、100人の捕虜を生贄にしたわけだ。

 勇者の教育はもはや洗脳に近かった。勇者の講義内容は平和主義から民主主義の成り立ち、フェミニズムと多岐に渡った。かなり偏ってはいるが、お金が取れるレベルの講義だった。不思議なもので、10人程は勇者に心酔していたけどね。


 捕虜たちはターバに収容したのだが、問題を起こすこともなかった。逃げても周りは砂漠で生きて帰れないし、ロマノフ将軍の存在も大きかった。ロマノフ将軍はスタリオンには珍しく、理性的な将軍で、今回の作戦もターバを包囲し無血開城、それを軸に講和に持ち込み、賠償金とターバを割譲して戦争を終わらせる予定だったそうだ。

 話を聞いたエレンナによると、ロマノフ将軍はこう言ったそうだ。


「我々は潜在的に侵略の恐怖に怯えている。軍事国家の宿命だな。もちろん、ヴィーステ王国についてもだ。こちらから攻めても大して利はないが、そっちからこちらに攻めれば、それなりに利があるだろ?追い込まれたら、攻めてくるかもしれんからな」


 今回の侵攻もユーラスタ帝国に向けての牽制の意味もあったようだ。ヴィーステ王国とユーラスタ帝国が揃って攻めてきたら、厄介だという考えのようだ。世界には色々な考えがあるのだと、勉強になった。もしかしたら、その辺りに解決策があるのかもしれない。


 ★★★


 あれから1ヶ月後、ターバにスタリオンの使節団がやって来た。今回はティサリア大臣として臨む。相手が使節団で王族が来るわけでもないから、ゼノビアが相手をするだけで、舐められてしまうからね。


 使節団の代表はタチアナという女性文官で、30歳前後の金髪青目の美人さんだった。この若さで、使節団の代表、しかも男尊女卑のスタリオンということを考えれば、かなり優秀な人物なのだと推察する。実際に雑談をしても、かなり優秀な人物であることが分かった。


 この交渉に当たって、私は秘策を用意していた。これを理解できるのはそれなりに能力の高い者でないと無理だ。絶対に勇者は無理だろうけど。

 本格的な交渉に入ってすぐ、私はこう言った。


「本当によかったですよ。無事全員救助することができまして。演習か何かだったのですか?」


 これには使節団のメンバーが、口々に「馬鹿にするな」「侮辱しているのか?」と怒声を上げる。

 だが、タチアナは違った。


「宣戦布告の通知が届かなかったのですか?」

「それは何ですか?私たちは遭難中のスタリオン部隊を救助し、特に衰弱の酷かった100名を保護しただけなのですからね」


 使節団は呆気に取られている。

 これはゴルド部族のハジャスが使った作戦の応用、「手紙届いてないよ」作戦だ。つまり、戦争自体が無かったという話にもって行こうとしているのだ。

 余談だが、ハジャスが使った作戦はヴィーステ王国では、褒められた手ではないが、よく使われるらしい。ゼノビアが「気にしなくていい」と言ったのも、当たり前すぎて、説明するまでもないと思っていたからだ。

 それにヴィーステ王国には、「手紙が届くも届かないも、こっちの都合で決められる」という格言があるくらいだしね。


「スタリオンさんには、かなり失礼なことをしてしまいましたから、これで許してくれると有難いんですがね」


 少し悩んだタチアナが言った。


「本当にありがとうございました。心よりお礼申し上げます。手厚い支援もありがとうございました」


 これには使節団がざわつく。

 しかし、私たちは話を続ける。


「こちらも嬉しく思います。ただ、我が国は財政難でして、必要経費と礼金くらいは、いただけたらと思います」

「分かりました。検討しましょう。確認しますが、あくまでも、()()()()()()ということですよね?」

「その通りです」


 つまり、身代金と賠償金ではないということが重要なのだ。あくまでもお礼という形にする。賠償金と違って、そんなに多くは取れないけど、早く決着はつけたいからね。

 タチアナが話の分かる人で本当によかった。


 そうして、3日で交渉はまとまった。それに3年間の相互不可侵条約も締結することができた。スタリオンの政策には、賛成はできないけど、勇者のように他国に口を出すことなんてしない。そっちはそっちで勝手にやってくれという話だ。

 

 因みに条約の締結に際して、勇者が見届け人となった。勇者は「ボクのお蔭で、世界は平和になった」と大喜びしていたけどね。

 私もタチアナも「お前が原因の戦争だろうが!!」とツッコミは入れなかったけど・・・



 ★★★


 条約締結後、タチアナと少しだけ話をした。特に他意はない。ちょっとした交流のつもりだ。タチアナもそんな感じだった。


「勇者様が来たときは大変でしたよ。王太子殿下なんて、『公開処刑にしてやる!!』って騒いでいましたからね」

「それはどの国もですよ。ウチや小国家群は、こういった無理難題を大国から、日常的に突き付けられていますからね。あの程度で怒っていたら、国が滅びますよ」

「そうなのですね。大国にいるから、気付かないこともあるのですね」


 そして勇者の悪口は加速する。


「勇者様は、スタリオンでは、ヴィーステ王国の工作員か何かだと、疑う者もいたくらいですよ」

「それは流石にありませんよ。あんな危険な工作員なんて、扱いきれません。もし私が、工作員として勇者を使うなら、植民地や属国に送り込んで、独立運動をさせたりしますかね?」


 少しタチアナの表情が変わる。何か気に障るようなことを言っただろうか?


「なるほど・・・そういう手もあるんですね。ティサリア大臣に会えて本当によかったです。勉強になりましたよ」


 スタリオンとは国として、仲良くできないけど、タチアナとは個人的に付き合えそうだ。何かあった時に交渉の窓口になってくれそうだしね。


 そんなこんなで、スタリオンとの戦争は、そもそも始まっていなかったということで、決着がついたのだった。

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