32 勇者が再びやって来た 2
私たちはターバにやって来た。ターバはスタリオンとの国境から約5日の距離にあるオアシスで、細々とした交易をしながら、ここまでやって来た町だ。
こちらが連れて来た戦力は国軍が500、冒険者が100、レドラ率いるレッドリザード部隊30だ。かなり少ない戦力だが、これには訳がある。最悪ターバを放棄して、パルミラで決戦を行う。戦力差からいって、そうなることは、間違いないだろうけど。
ターバについて最初にやったのは、住民の避難だ。冒険者を連れて来たのはそのためだ。冒険者もエレンナに鍛えられているので、住民を守りながら、厳しい砂漠をパルミラまで進むこともできる。早速、避難指示をする。
「必要最低限の物だけ持って、パルミラに避難しなさい。詳しい指示は冒険者に聞きなさい!!」
冒険者や国軍が手際よく住民を避難させていく。
そんなところに、勇者が現れた。
「女王さん、久しぶりだね。いくら女王さんでも言うべきことは言うよ。こんな馬鹿な戦争は止めるべきだ。戦争は何も生まない。悲しい人を増やすだけだ。すぐに戦争を止めるんだ」
おい!!私に言うなよ!!
こうなったのは、お前が原因だし、こっちは攻められてるほうだぞ!!
これを見たパーティーメンバー三人は、上手く勇者を引き離してくれた。
「勇者様、少しでも住民の避難を手伝いましょう」
「私もそう思う。無辜の民が被害に遭ってもいかんからな」
「そうだね。そうしよう」
回復術師のヘレンが残り、私に謝罪をしてきた。
「このような結果になってしまい、申し訳ございません」
「謝るのは後よ。まずはこうなった原因を教えて」
ヘレンが言うには、小国家群を周っている間に勇者は増長したようだ。
小国家群は良くも悪くも、小国と独立都市の集合体だ。一国だけでは、大国に対抗できないことを十分理解している。なので、相手がどんなに理不尽なことを言ってきても、なんとか妥協点を探り、解決策を模索する。超大国のユーラスタ帝国などであれば、勇者の言葉なんかに耳を貸すこともないしね。
小国家群に属する国や都市であれば、勇者の主張すべてを受け入れられないまでも、少しくらいは妥協する。評議員による代議制を取っている都市では、勇者の民主主義の理念を称賛し、獣人が王を務める国では、差別を否定する思想に賛成の態度を示す。女王や女性領主は勇者の男女同権主義に賛成し、自分の権勢を強めようとする。また、財政難を理由に国軍を縮小した国は、勇者の平和主義を最大限利用して、反対派を抑え込んだそうだ。
「私たち三人は、女王陛下のレクチャーを受けていたので、そういうものだと理解できたのですが、勇者様は違いました。熱心に話を聞いてくれることに気を良くし、どんどんと政治や制度にも口を出すようになってしまったのです。そして、そんな状態のままスタリオンに行ってしまって・・・」
まあ、そうなるよね・・・
「私も戦争大好き人間ではないけど、攻めて来られた以上は軍事行動を取らなくちゃいけない。女王として、国民を守る義務があるからね。だから、勇者殿の希望には添えない」
「十分理解しています。何とかこの町から退避するように説得しているところなのですが、聞き入れてくれないのです」
「こちらとしても、そうしてもらえると有難いわ。勇者殿が避難民を先導するとか理由をつけてね」
「分かりました。やってみます。それとこれはお詫びと言ってはアレですが・・・」
ヘレンが差し出してきたのは、スタリオンのコア情報だった。
君!!分かっているじゃないか!!
★★★
次の日、ほとんどの住民の避難を終えたので、ヘレンがもたらした情報やケトラの部隊が取って来た情報を元に軍議を行った。エレンナが言う。
「まずはこちらから先制攻撃だ。バルバラ殿の魔法を中心に少しでも数を減らす。相手は約5000、こちらの10倍だ。それで少しでも進軍を遅らせる。その状況を見ながら・・・」
言い掛けたところで、勇者が遮る。というか、何で軍議に参加しているんだ?
三人を見やると、きまり悪そうにしていた。説得に失敗したのだろう。
「駄目だ!!戦争は何も生まないと言っているだろ!!相手の兵士にも大切な家族がいるんだぞ!!」
それはそうだが、こっちだっている。大人しく帰ってくれれば、こちらは何もしないのだから。
エレンナは勇者を無視して話を進める。
「その後だが、可能な限りターバで戦う。それでも駄目なら潔くターバを放棄する。その際、心苦しいが、このオアシスを消滅させる」
これには、ターバの代表者が苦悶の表情を浮かべる。この者は、ターバの住民の志願兵たちのまとめ役もしてくれている。
そして、思いつめたように口を開く。
「最悪、それでも構わない。だが俺たちは最後まで戦わせてくれ。スタリオンに取られるくらいならそのほうがいいが、そんなターバは見たくない。せめて死ぬ前に一矢を報いたい」
ここでも勇者が叫んだ。三人に口を塞がれていたようだが、それを振りほどいたのだ。
「絶対に駄目だ!!失われた自然環境は二度と戻らない!!今からでも遅くはない。話し合いで解決しよう!!」
勇者は環境保護にも熱心なようだ。
これには、流石の私もキレた。
一体どうしろというんだ!?あれも駄目、これも駄目って、お前は「ダメダメ星人」か!?
「勇者パーシーにヴィーステ王国女王ゼノビアが命じます。退出しなさい」
レドラの部下であるレッドリザード3名が勇者を抱えて連れ出した。
連れ出した後にバルバラが言う。
「うるさいのがいなくなって、清々する。じゃが状況は何も変わらん。初戦は勝てるじゃろう。だが、2戦目3戦目は分からん。被害度外視で総力戦となれば、かなり厳しいぞ。そうなると、相手も引くに引けなくなるじゃろうしな」
エレンナも続く。
「バルバラ殿の言う通りだ。ある程度のところで講和を模索するのが得策だろう」
「難しいニャ。物語なんかだと戦わずに勝ったりするんだけどニャ」
戦わずに勝つ・・・あれ?もしかしたらできるかもしれない。
私は皆を前に言った。
「私に作戦があるの!!」
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