27 和解
私たちは一旦、パルミラに帰還することにした、表向きはだが。
途中で私とバルバラとケトラは、簡易の転移スポットを利用して、魔王国に戻った。これには理由がある。
魔王国に着くと魔王様との謁見を済ませ、私は第一軍団の事務所にやって来た。本物のゼノビアに会うためだ。というのも、また激しく罵倒されるのも嫌だと思った私は、無理やりゼノビアをヤルダンまで連れて行こうと画策したのだ。
事務所に着くと、ゼノビアは相変わらず、忙しそうに仕事をしていた。私に気付いたゼノビアは声を掛けてくる。
「報告書を見る限り、ザルツ部族といい関係が築けているようね。少し安心したわ」
「まあ、最後の大仕事が残っているけどね」
ゼノビアは口では、「もうあの国ことは忘れたい」とか言っていたけど、報告書は必ず読んでいることからも分かるように、ヴィーステ王国のことを今も憂いている。
「実は貴方にお願いがあって来たのよ。今回だけ、私と一緒に来てくれない?」
私は事情を説明した。
「私が行くよりも貴方が上手くやるほうがいいと思うわ。私なんて、最低最悪の女王だしね」
「でも、大丈夫だよ。私がティサリア大臣としてサポートするからさ」
「そうなんだけど・・・自信がないのよ」
そんな話をしている時にオルグストンがやって来た。
「ティサ!!ゼノビアが嫌がっているだろう!!その辺にしておけ」
「でも、これは必要なことなのよ!!」
私が強く主張したのは、ゼノビアの為を思ってのことではない。単純に罵倒されるのが嫌だからだ。
「そうかもしれんが、ゼノビアも辛いのだ」
「オルグストンに聞いてないわ。ゼノビアに聞いているのよ。ゼノビア!!目の前の困難から逃げないで!!」
目の前の困難から逃げるためにここに来た、私が言うセリフではない気がするのだが・・・
「分かったわ。すべて私がやった事だもんね・・・オルグ、ありがとう。でも行くわ」
「お前がそう言うのなら、止めない。だが俺も行く」
おいおい!!リア充ども!!遊びで行くんじゃないんだぞ!!
まあいい、リア充ども、地獄を味わうといい。
★★★
それから1ヶ月後、私はゼノビアとオルグストンを連れて、再びザルツ部族の拠点ヤルダンに向かうことになった。因みにオルグストンは、専属の護衛という設定だ。もう少しで町に入るところで、私はゼノビアに言った。
「凄く辛い気持ちになるかもしれないけど、試練だと思って耐えてね。困ったことがあったら、私がフォローするからね」
「うん・・・」
「俺も側にいるから大丈夫だ」
おい!!お前!!ちょいちょい入って来るなよ!!
何をお前ら、二人の世界に入っているんだよ!!
しばらくして、町に入った。大歓声が聞こえる。しかし、私の想定と全く違っていた。
「ヴィーステ王国バンザイ!!」
「女王陛下バンザイ!!」
「ザルツ部族とヴィーステ王国は永遠だ!!」
「ありがとうございます!!女王陛下!!」
あれ?歓迎されてないか?
バルバラが言う。
「ゼノビアよ。こうなったのもすべて、ティサや仲間たちのお陰じゃ。感謝するように」
「はい・・・ティサリアさん、ありがとう・・・」
「ま、まあね・・ハハハハ・・・」
まあ、アイーシャはブチキレるだろうし、地獄はこれからだろう。
すぐにアイーシャの天幕に入る。打ち合わせどおりにゼノビアはすぐにアイーシャに頭を下げた。
「これまでの非礼、深く謝罪する。許してくれとは言いわない。これからの態度を見てほしい」
ヨシ!!ここだ!!アイーシャ、キレろ!!
「その言葉は受け取った。まずは見てもらいたいものがある。ついて来てくれ」
アイーシャは予想に反してキレなかった。そして私たちを案内したのは、古代遺跡だった。1週間前にロクサーヌとゴブリンたちのお陰でロープウェイが完成した。なので、苦労せずに古代遺跡がある頂上まで行けるようになった。因みにこのロープウェイの利権はファラーハに取られてしまった。あれこれと条件をつけられて、こっちが譲歩するしかなくなったのだ。ゼノビアが「クソババア」と言っていたのも、理解できる。
しばらくして、頂上に着いた。いつ見てもここは絶景だ。
頂上についてすぐにゼノビアは泣き崩れた。
「ハリード・・・貴方が見せたかったのはこれだったのね・・・本当に馬鹿なんだから!!私はこんなのを見せてもらうより、ずっと側に居てほしかっただけなのに・・・ウッウッウウウ・・・」
少し落ち着いたゼノビアは語り始めた。
「ハリードが私を庇って死んだあの日、ハリードに言われたのよ。
『君に見せたいものがある』
それで私たちは頂上を目指したのよ。道中でこう言われたわ。
『姉貴にも見せたいけど、一番最初は君に見せたかったんだ』
凄く嬉しかった。でも私はこう言ったの。
『お義姉様が怒ると面倒だから、二人で見付けたことにしない?それでお義姉様の誕生日に見せるのよ。丁度3日後でしょ?そうしたら怒らないわよ。二人からのプレゼントということにしてね』
『そうだね、姉貴は弟離れができないからな』
そんな話をしていた時にグレートウルフの群に襲われたのよ。こんな所にグレートウルフの群がいるなんて、誰も予想できないわよね。そして、最後までハリードは私を庇ってくれた・・・」
ゼノビアは再び泣き始めた。
アイーシャが優しくゼノビアを抱きしめる。
「馬鹿な弟がすまなかった。謝るのは私のほうだ。そうとも知らず、私はお前を罵倒してしまった」
「こっちも悪かったわ。ザルツ部族に酷いことをしたのは事実だし」
「もうこれで終わりにしよう。ハリードは死んだが、お前はずっと私の義妹だ」
「はい、お義姉様・・・」
お付きの者たちも涙を流している。オルグストンなんて大泣きしている。
あれ?あっさり解決してないか?
★★★
その日は古代遺跡で泊まることになった。夕暮れ時、ゼノビアとオルグストンが絶景を見ながら、何やら話しているのを聞いてしまった。
「ごめんね。まだハリードのことを引きずっているの・・・」
「気にするな。俺がハリード殿に勝てばいいだけだ」
「フフフ、オルグらしいわね。私はね。ハリードや私のお父様のような人を少しでも減らしたくて、強い国を作ろうと思ったのよ。結局失敗しちゃったけどね」
「大丈夫だ。俺が側にいるからな」
私は踵を返し、走り出した。頭では理解している。私は非常にいいことをしたのだと。でも納得できなかった。走り疲れた私は、夕日に向かって叫んだ。
「リア充ども!!モゲろ!!」
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次回から第四章です。とうとう勇者が登場しますよ。




