26 討伐 2
私は少し油断していた。
普通に考えて彼女たちが負けるはずがないからね。戦闘のことを忘れ、今後の対策について、色々と思案していたところにケトラの叫び声が聞こえた。
「ヤバいニャ!!すぐに入口を封鎖するニャ!!」
訳が分からなかったが、レドラが迅速に対応する。
「タートル族部隊!!すぐに展開して、入口を封鎖しろ!!遠距離攻撃部隊は後方で準備!!キツネ獣人部隊は戦闘体制を維持!!」
レドラの号令に合わせて迅速に体制を整える。
洞窟の入口を封鎖したところで、ケトラに話を聞く。
「不覚にも変異種を取り逃がしてしまったニャ。今も変異種は洞窟内を逃げ回っているニャ。それで私は、入口を封鎖するため、急いで戻って来たニャ。後の者は変異種の追跡をしているニャ」
レドラが言う。
「奴の狙いは最初からこれだったのだろう。今までの戦闘で勝てないと判断し、洞窟内で決戦を行うように見せて、頃合いを見て逃げ出す。それに奴が生きている限りは、群れなんていつでも作れるからな」
「そうニャ!!普通に戦えば負けることはないニャ」
そんな話をしているところに巨大なワイルドウルフが現れた。普通のワイルドウルフの大きさの3倍はある。変異種で間違いないだろう。変異種はまっすぐにこちらに向かって来た。タートル族部隊が受け止める。
突き破れないと判断した変異種は、機動力で突破を試みる。
これは不味い。タートル族部隊は機動力がないし、逆に機動力があるキツネ獣人部隊は変異種を止めるパワーがない。タートル族部隊も必死でくらいついて行くが、間に合わない。
だったら私が!!
私は幻影魔法で光の玉を出現させる。
「ライトボール!!」
恰好をつけて言ってみたが、ただ光の玉を出現させ、変異種の顔面にぶつけただけだ。しかし、これはかなりの効果があった。光で変異種の視力を奪ったからだ。
変異種は当たり構わず、暴れまわる。タートル族部隊が上手く防ぎながら、レドラとケトラで攻撃を繰り返す。徐々に変異種は弱っていく。
そこに精鋭部隊が到着した。
バルバラが風魔法で変異種の四肢を切り裂く。そしてアイーシャが双剣で変異種を滅多斬りにする。
「仲間を置いて逃げ出す卑怯者め!!ハリードの仇!!死ね!!」
アイーシャの攻撃は凄まじく、変異種が絶命してからも何度も斬り裂いていた。エレンナが止める。
「アイーシャ殿、その辺にしておけ」
「ああ、すまなかった・・・」
そしてアイーシャが勝鬨を上げる。
「憎きワイルドウルフを討伐したぞ!!」
「「「オオオオー!!」」」
アイーシャは呟く。
「ハリード、仇は取ったぞ・・・」
★★★
戦闘は夜まで続いたので、洞窟前で一泊することになった。食料も討伐したワイルドウルフがいっぱいあるしね。塩やスパイスで少し味付けしただけだが、ワイルドウルフもかなり美味しかった。流石にみんなお酒は飲まなかったけど、かなり盛り上がっていた。
私はというとアイーシャと話し込んでいた。
「ティサリア殿も大活躍であったそうだな?」
「それほどでも・・・目くらましの魔法を使っただけですからね」
「いやいや、あれがなければ、逃走されていたからな。貴殿に何か報いたいのだが・・・」
「では、何か考えておきます」
私は魔法を一発放っただけだが、かなり評価が上がってしまった。
そして次の日、私はアイーシャに言った。
「昨日の報酬の件ですが、帰還する前に頂上に来てもらいたいのです。ちょうど朝焼けで奇麗でしょうしね」
「それだけでいいのか?貴殿がそれでいいのなら、構わないが・・・」
私たちはすぐに下山するのではなく、一旦頂上に向かった。頂上に着くと予想通り、幻想的な風景が広がっていた。朝日が反射し、最初に見た時よりもずっと幻想的だった。アイーシャが涙を浮かべて言う。
「ハリードが私に見せたかったものとは、このことだったのか?そうか・・・そういうことか・・・」
何やらアイーシャは物思いにふけっていた。
しばらくして、アイーシャが声を掛けて来た。
「貴殿はこれを見せたかったのか?」
「はい、この場所からすべてが始まると思いましてね。あそこにある遺跡を開発し、誰もがこの風景を見られるようにしたいんです。この風景を見たら、過去の嫌なことも水に流せるんじゃないかと思いまして・・・」
アイーシャを見ると絶句していた。
あれ?なんか不味いことでも言っただろうか?
「あの・・・アイーシャ様?」
「ああ、少しこの風景に目を奪われていただけだ。感謝する」
それからアイーシャは何も言わなくなった。そこから討伐したワイルドウルフを採取しながら帰還した。あまりに数が多かったので、魔石と宴用の肉だけ採取して、次の日に別部隊に取りに来させるようだった。
そして、町に着くと大歓声に迎えられる。
「ありがとう!!仇を取ってくれて!!」
「アイーシャ様バンザイ!!」
「カメの兄ちゃんたちも、よくやったぞ!!」
カメックが嬉しそうに言う。
「また、褒められたんだな」
★★★
その日は盛大な宴が開かれ、流石の私も少し飲み過ぎた。魔法を一発放った私が英雄扱いだからね。それで飲み過ぎてしまった。
次の日、私はアイーシャに呼び出しを受けた。アイーシャに指定された天幕に向かう。
「ティサリア殿には改めて礼を言う。ありがとう」
「いえいえ、お役に立てて光栄です」
「ゼノビアのことはまだ信じられんが、貴殿らを我がザルツ部族の友と認める。それで友の願いは聞かなければならん」
アイーシャは一度言葉を切った。
「この場で、ゼノビアを許すとは言えん。だが謝罪は受ける。ここに来て誠意ある謝罪をするのなら、許さんでもない」
私は、作戦が成功して嬉しい反面、今度はゼノビアの姿で再び罵倒されるのかと思うと、憂鬱になるのであった。
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