25 討伐
グレートボアとの戦闘が始まった。
タートル族部隊が待機している場所まで、キツネ獣人部隊が上手く誘導してくる。そして、グレートボアの群れがまっすぐにタートル族部隊目掛けて、突進を始めた。
カメックが大声で指示する。
「絶対に通さないんだな!!」
「「「オオオオー!!」」」
物凄い突進だったが、タートル族部隊はびくともしない。完全に動きを止めてしまった。
エレンナが指揮をする。
「遠距離攻撃部隊!!撃て!!」
エルフの弓兵やバルバラが率いる魔導士隊が一斉に弓と魔法で攻撃を開始した。これだけで、多くのグレートボアが討伐される。
頃合いを見て、再びエレンナが指揮をする。
「キツネ獣人部隊!!動きの止まったグレートボアなど、ただの肉の塊だ。勝負を決めろ!!」
キツネ獣人部隊が一斉にグレートボアに向かって行く。そして、あっという間にグレートボアの群を全滅させてしまった。
アイーシャが言う。
「信じられん・・・これが我が軍の実力なのか・・・短期間でここまで強くなるとはな。これならば、グレートウルフの討伐を認めてもいい。それに弟の仇だ。私も出る」
その後、グレートボアの解体作業を終えた私たちはヤルダンに帰還した。市民たちの大歓声に迎えられる。
部隊員は本当に誇らしそうだった。特にタートル族部隊はね。
「俺たちがこんなに称賛されたのは、初めてなんだな・・・もっと頑張らないといけないんだな」
★★★
そしていよいよ、グレートウルフの討伐が始まる。古代遺跡がある丘の麓に部隊が集結する。今回から、指揮官はアイーシャに交替している。エレンナが言うには、ずっと自分が指揮を取れるわけではないから、早めに指揮官を交替したそうだ。
それにアイーシャはかなり戦闘力が高く、エレンナやレドラには勝てないようだけど、エレンナも褒めていたしね。
そのアイーシャは部隊を前に演説を行っていた。
「ここにいる多くの者が、家族を、親しい友人を、恋人を、グレートウルフに殺された。そういう私も最愛の弟を殺された。今こそ、その恨みを晴らす時だ!!1匹残らず討ち取れ!!」
「「「オオオオオー!!」」」
気合十分だ。
だが、作戦はかなり地味だ。安全策を取って、堅実に頂上を目指すだけだからね。具体的には、正面のアイーシャ率いる本隊、カメック率いる左翼部隊、レドラ率いる右翼部隊の三方向から頂上を目指す。私、ケトラ、エレンナ、バルバラは本体と帯同する。
作戦は順調だった。
進軍速度は遅いが、決して無理をせずに着実に進んで行く。途中、戦闘になったが危なげなく勝利していく。忙しそうに走り回る小型種の獣人伝令によると他の部隊も順調に進軍しているようだ。
エレンナが言う。
「進軍速度は関係ない。如何に足並みを揃えられるかだ」
遅いが堅実に進んで行く。丘の中腹辺りで、戦闘は激しくなった。
流石のタートル族部隊もすべてのワイルドウルフを足止めできないでいる。こちらの基本戦術は、タートル族部隊が足止めをして、その間に遠距離攻撃で仕留める作戦なのだが、前衛で足止めできないとなると、かなり厳しい。
でもアイーシャは落ち着いていた。
「訓練通りにやれ!!抜けて来たワイルドウルフの対処法は、散々訓練してきただろ!?」
「「「オオオオオー!!」」」
抜けて来たワイルドウルフをキツネ獣人部隊が取り囲み、1匹ずつ各個撃破していく。多少、怪我人は出たが、救護部隊も連れてきているので、すぐに回復魔法やポーションで治療していく。ここで大活躍だったのが、バルバラだ。
バルバラは回復魔法も一級品だった。
「ありがとうございます、ちっちゃい聖女様」
「礼を言う。幼き聖女よ」
「お嬢ちゃん、ありがとな。俺たちが頑張って、小さい子が働かなくていい国にするからな」
バルバラは例のごとく、怒り出し「妾は子供ではない!!」と言い出しそうになったので、慌てて口を塞いだ。
そんなことを繰り返しながら、進軍する。
八合目付近に来たところで、伝令兵から報告が入る。
アイーシャが言う。
「なに!?ワイルドウルフは1箇所に集結しているだと?」
エレンナが応じる。
「もしかしたら、そこが奴らの拠点かもしれんな。ワイルドウルフの変異種は頭がいいと聞く。このまま、ジリ貧になるよりは、戦力を集中させて戦おうとしているのかもしれん。それにこちらの部隊に機動力がないのも見抜かれているのかもな」
しばらくして、偵察部隊から報告が入る。
「報告致します!!ワイルドウルフは、洞窟にすべて入りました。現在、カメック隊長の部隊が洞窟入口を封鎖しています。ご指示を!!」
アイーシャが言う。
「そのまま待機だ。我らも向かう」
大方の予想では、洞窟内で戦おうとしているとのことだった。
洞窟に到着すると、カメック隊だけでなく、レドラ隊も合流した。
緊急の軍議が始まった。
エレンナが言う。
「ここに親玉の変異種がいるのだろう。流石に洞窟内では、大部隊は展開できん。少数精鋭で臨まなければならんだろう」
レドラも続く。
「10人が限界であろうな。それ以上になると逆に戦えなくなる。奴らの得意戦術は包囲攻撃からの各個撃破だからな。それをやって来るのであろうな」
ここまで作戦が上手くいったのは、相手の得意な戦術をさせなかったからだ。逆にこっちが包囲して各個撃破していたからね。
アイーシャが言う。
「では10人を選ぼう。まずは我が行く。弟の仇はこの手で取る」
それからは、志願者で溢れかえった。
結局、指揮官をアイーシャ、副官をエレンナとカメックが務め、斥候としてケトラ、魔導士兼聖女のバルバラ(この戦いで聖女扱いされている)はすぐに決定した。レドラは、待機している部隊をまとめるために残ることになった。不測の事態を考えてのことだ。そして、残りの5人はタートル族の部隊員が2名、レッドリザードの部隊員が2名、アイーシャの副官ターヒルが選出された。
もちろん私は待機だ。だって戦闘力は高くないからね。
しばらくして体制を整えた討伐隊が洞窟に入っていく。
まあ、このメンバーなら負けることはないだろう。
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