22 湖の遺跡
私たちは、「始まりの遺跡」に赴いた。
ケトルから事情を聞くためだ。スタッフに言うとマスタールームに案内された。マスタールームには臨時の檻が設置されていて、ケトルはそこに監禁されていた。ケトルの姉キトルがケトルを罵倒している。
「この馬鹿!!何でこんなことをしたのニャ!!一族の面汚し!!」
「ご、ごめん・・・みんなの為を思ってやったニャ・・・」
「それがみんなの危機になったら、世話ないニャ!!」
まだ、折檻は続いているようだ。
私はキトルを落ち着かせて、ケトルを檻から出し、事情を聞くことにした。
「ケトル、反省するなら今度だけは助けてあげるわ。だからまず、どうしてそんなダンジョンを買ったか教えて」
「それはだニャ・・・」
ケトルは優秀新人ダンジョンマスターとして表彰を受けたのだが、ダンジョン協会の幹部に「もう少し功績を上げれば、最優秀新人ダンジョンマスターになれる」と言われたそうだ。そして思い切って、大した調査もせずに件のダンジョンを購入したそうだ。
「値段も払えない額ではないし、同じ遺跡型だから、「始まりの遺跡」と同じことをすれば、何とかなると思ったニャ」
「じゃあ、何で失敗したと思う?」
「それは誰も来ないからニャ。来てくれたら、あのダンジョンの良さは伝わるニャ」
商売で一番難しいのは、集客と言っても過言ではない。どんなに美味しいラーメンを作っても、客が来てくれなければ、すぐに廃業だ。ケトルはそこが分かっていない。超優良家具メーカーを倒産寸前にまで追い込んだ私が言うのも、おかしな話だけどね。
「分かったわ、とりあえず現地に行きましょう」
「はいニャ。ダンジョン間転移を使えばすぐニャ」
ダンジョン間転移とは、同系列のダンジョンであれば自由に行き来できる転移スポットのことだ。私、ケトル、バルバラ、エレンナはケトルに先導され、件のダンジョンに転移した。ダンジョンに着くとまず、ケトルはダンジョン内を案内した。
見て周ったところ、「始まりの遺跡」のコンセプトを忠実に再現しており、その辺は評価していいだろう。
バルバラが言う。
「このダンジョンの問題は、誰も来んところじゃろ?ダンジョンの外も確認したほうがいいじゃろう」
「そ、それは・・・あまり見せたくないニャ」
これにキレたケトラがケトルに必殺ネコパンチを炸裂させた。床に転がったケトルが言う。
「仕方ないニャ・・・見せてあげるニャ」
ダンジョンの外に出る。
そこには絶景が広がっていた。
「空が湖に反射して、凄く神秘的だニャ!!」
「まさに天空の鏡だな」
「長く生きた妾でも、ここまでの絶景は見たことがない。この景色を見ただけでも、ここに来た甲斐があるのう」
皆、この絶景には感動していた。湖の水を少し舐めたところ、かなりしょっぱかった。この湖は塩湖で、薄っすらと張っている透き通った水が、このような絶景を作り出したのだろう。
「ケトラ・・・この景色を君に見せたかったニャ。そして、これからも僕と一緒にこの景色を見続けてほしいニャ。ケトラ、結婚し・・・」
言い掛けたところで、ケトラのネコパンチが再び炸裂する。
「な、何を考えているニャ!!今はそれどころではないニャ!!それに場所は合格点だけど、タイミングは最悪ニャ!!」
「ケトラ・・・」
ケトラを落ち着かせ、ケトルから詳しく話を聞いたところ、この絶景を見て購入を決めたという。確かにこの景色は、お金を払っても見たいと思う。
ダンジョンの性能もいい、景観も最高、だったらなぜ、誰も来ないのか?
それは立地条件が、壮絶に終わっているからだ。
ザルツ部族の岩塩採掘所のすぐ近くの丘の上にあるのだが、ダンジョン周辺の魔物は強力で、ダンジョンがある丘の上までやって来ても、採れるのは塩なのでここに来る意味はないのだ。地元の住民でさえ、そうなのだから、冒険者なんて来るはずないのだ。
「ケトラ、ケトルと一緒にこの付近、そしてザルツ部族の調査をお願い。それを元に対策を練るわ」
「はいニャ」
★★★
3日後、ケトラから報告があった。
ケトラの報告によると、ザルツ部族は、かなりゼノビアに敵意を抱いており、いきなりゼノビアがザルツ部族を尋ねるのはリスクが高いとのことだった。
「だったらまた、ティサリア大臣として行くしかないわね」
「そうしたほうがいいニャ」
ケトラに先触れになってもらい、1週間後にザルツ部族の拠点ヤルダンに向かった。メンバーは私、ケトラ、エレンナ、バルバラ、レドラと護衛のレッドリザード10名だ。途中、サンドクラブとサンドサーペントを討伐し、お土産も用意した。
ヤルダンに入る。
ファラーハの拠点であるアレッサが賑わっているのに対して、こちらは閑散として、活気がない。町の人も、あまり元気がないように見える。
とりあえず、私たちがゼノビアの使者という立場を隠して、アレッサでやったようなパフォーマンスを行った。
「サンドクラブにサンドサーペント!?」
「狩って来たのか?」
「これから食べさせてくれるのか?」
かなり驚いている。
すかさず、目の前で料理をして振る舞う。その味や目の前で丸焼きにするパフォーマンスで、住民の心を掴んだかに見えた。
そんな時、族長のアイーシャがやって来た。アイーシャはキツネ獣人で、可愛らしいケモ耳を思わずモフモフしたくなる。しかし、そういう雰囲気ではないくらい怒っているのが分かる。美人が台無しだ。
「貴様らは一体、ここで何をしている!?」
「申し遅れました。私はティサリア、開発担当大臣を拝命しています。こちらには女王陛下の命で参りました。先触れを出したと思うのですが」
「それは知っている!!私が聞いたのは、何をしているのか?だ!!」
「女王陛下の命で、こちらの住民に振る舞えと・・・」
言い掛けたところで、怒鳴られた。
「もういい!!さっさとついて来い!!」
パフォーマンスを中止させられた私たちは、アイーシャに連れられて、アイーシャの拠点にしている天幕に案内された。その時、私たちのパフォーマンスに盛り上がってくれていた住民たちから、一斉に敵意を向けられる。
エレンナとレドラも殺気立つ。
「流石に向かってくることはないだろうが、警戒はしておけよ」
「そうだな。ここまで敵意を向けられるのは久しぶりだ」
武人気質のエレンナとレドラは、落ち着いているが、私は気が気ではなかった。本当のことを言うと、パニックになりそうだった。過去のことを思い出したからだ。
私にもこういった経験がある。社長時代、長年お世話になった取引先を切り捨て、ベテランの販売員や職人を大量にリストラした時だ。長年に渡って大森家具を支えてくれた人々をあっさり切り捨てた私は、激しく罵倒された。
「この人でなし!!」
「こんなに尽くしてきた俺たちにこの仕打ちか?地獄に落ちろ」
「これがお前らのやり方か!?」
私だって、彼らを切りたくなかった。会社の発展を思ってのことだ。でも結果は、非常に残念なものとなったけどね。
青ざめている私をケトラが励ましてくれる。
「ティサ、しっかりするニャ。私たちが付いているニャ」
「戦闘となれば、妾の風魔法で切り刻んでやろうぞ」
「同じく」
「私もだ」
「ありがとう、みんな・・・」
私の社長時代とゼノビアの人生は、不思議と共通点が多い。これには運命的なものを感じてしまう。
でもあの時とは違う。私には支えてくれる仲間がいるのだから・・・
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!




