20 母と娘
今日はゼノビアの母、前女王のクレオラと面会する。
ゼノビアからレクチャーを受けたし、多分大丈夫だ。用件だけ伝えて面会は短時間で終わらせる予定だ。それにクレオラが喜びそうな条件も用意した。完璧だと思おう。
そして、面会が始まった。クレオラは40代後半の女性で、ゼノビアによく似ている。目元なんかそっくりだ。
不測の事態を考えて、面会は私とクレオラだけにした。実際はケトラとエレンナにすぐに対応できるように控えてもらっているのだけどね。
「お久しぶりです、お母様。私も女王になり、お母様の偉大さが身に染みて分かりました」
「貴方もお世辞が言えるようになったのね。成長したことを嬉しく思うわ」
それから、私は条件をすぐに提示した。
「私としては、このトリスタをお母様に統治してもらいたいのです。これはお詫びというよりは、お母様の能力を買ってのことです。ヴィーステ王国は人材難ですからね」
「有難い申し出だわ。でも久しぶりに会ったのだから、少し昔話でもしましょうよ」
それから、クレオラの昔話が続く。
これについては、ゼノビアからレクチャーを受けていたので、何とか躱せた。
「お母様、大変申し訳ないのですが、これでも多忙な身です。次の予定が詰まっていまして、この辺で失礼させていただきます。トリスタの統治の件は考えておいてください」
「そう・・・残念ね。最後に私からのアドバイスだけど、アイーシャとも仲直りしたほうがいいわよ。それにハリードのことは残念だったけど、砂漠に生きていたら仕方ないことよ」
ハリード?誰だそいつは?
アイーシャはザルツ部族の族長だけど、何か関係のある奴か?
パニックになった私は、失言をしてしまう。
「ハリード?どちらのハリードでしたっけ?」
クレオラの表情が一変する。
「やっぱりね・・・貴方、ゼノビアじゃないわね?」
緊張が走る。
心配になったケトラとエレンナが姿を現した。
「バレてしまったニャ!!どうするのニャ?」
どうすると言われてもなあ・・・
私は正直に話すことにした。
私は幻影魔法を解いて、ゼノビアから元のティサリアに戻った。
クレオラは少し驚いていたが、冷静だった。
「落ち着いて聞いてください。ゼノビアは無事です。それに貴方の身の安全も保障します」
「分かったわ。そこの二人を見る限り、私では勝てなさそうだしね。じゃあ説明して頂戴」
私はこれまでの経緯を説明する。もちろんゼノビアと入れ替わった理由は大嘘だけどね。
「私はある啓示を受けたのです。ヴィーステ王国が滅べば、魔族も滅ぶと。私なりに解釈したところ、ヴィーステ王国の滅亡の原因を魔族にあるとされ、人族を総動員して、魔王国に攻め入るのではないかと考えています。それで最初は、ゼノビア様の側近としてこの国を改革しようと思っていたのですが、もうそういう状況ではないので、少し強引な手段を取りました」
クレオラは何かを考えているようだったが、問題はケトラとエレンナだった。
「や、ヤバいニャ!!すぐに魔王様に知らせないと駄目ニャ!!」
「そうだ!!兄上は知っているのか?」
おい!!アンタらが騙されてどうするんだ?
仕方なく、まずはケトラとエレンナを落ち着かせる。
「魔王様には追々話すつもりよ。こんなの信じてもらえないしね。だから、魔王様には知らせずにヴィーステ王国を再建しようと思ったのよ。それに魔王様には言わないでよね。私が嘘吐きだって分かると、がっかりさせてしまうし・・・」
「ティサが嘘吐きなのは知っていると思うニャ」
「うむ、兄上がこれ以上がっかりすることはないだろう」
酷い言われようだが、私は二人を無視した。
クレオラが言う。
「分かったわ。とりあえず信じるわ。こちらの要望としては、ゼノビアに会わせて。ゼノビアの安全が確認されたら、協力はするわ」
★★★
簡易の転移スポットで私は、クレオラを魔王国に連れて行った。
オルグストンに確認してもらったところ、ゼノビアはクレオラとは会いたくないと言っているようだ。
オルグストンが説明をする。
「ゼノビアは、『お母様に合わせる顔がない』と言っている。だが、決して会いたくないわけではないのだ。これは我からのお願いだが、今は会うべきではないと思っている。ゼノビアが自信を取り戻し、胸を張って母上に会えるようになるまで待ってもらいたい」
私はゼノビアの仕事ぶりだけでも、見せてあげようと思って、ゼノビアの執務室に映像が映る魔道具を設置してもらった。
映像では、ゼノビアが生き生きと仕事をしている。多くのスタッフから信頼されているようだ。
クレオラが涙を流しながら言った。
「元気そうでよかったわ。私も意固地になちゃってね・・・こうなる前に助けてあげればよかった。あの時は私も『バカ娘!!勝手にしろ!!』って怒鳴ってしまったからね。あの子もだけど、私も素直になればよかったわ。ファラーハにも『素直になれ』って言われていたのにね」
もしかしたら、私の父もこんな気持ちだったのだろうか?
私としては、「見捨てやがって」と思っていたんだけど、父は父でこういう気持ちだったのかもしれない。
そんな時、オルグストンが予想外のことを言いだした。
「義母上!!我はゼノビアを妻にと考えている。どうか、我にゼノビアを任せてほしい。この通りだ」
オルグストンが頭を下げた。
「あの子も吹っ切れたようね。定期的にこうしてゼノビアを見させてもらうことを条件に、ティサリアさんに全面的に協力することを約束するわ。それでいい?」
「もちろんです」
「まあ、どの道ヴィーステ王国を再建するためには、貴方たちに頼るよりほかにないしね」
イレギュラーはあったけど、何とかクレオラの協力は得られることになる。前女王がアドバイザーになってくれたのは、本当に心強い。
★★★
1ヶ月後、口裏を合わせた私とクレオラは式典に臨む。
正式に私からクレオラにトリスタの統治を委譲したことを知らしめるためだ。私は観衆を前に演説した。
「トリスタは近い将来、世界一の港町になることでしょう。そのためにはお母様の力が必要なのです。トリスタとともに、ヴィーステ王国も発展していきます。その道は険しく、厳しいものになるかもしれません。でも大丈夫です。数々の荒波を乗り越えて来たお母様がいれば!!
私たちはどんな困難も乗り越えられます。目の前に雄々しく浮かぶ、「ニューデザートクイーン号」のように!!」
式典が終わった後にクレオラに声を掛けられた。
「私を立ててくれてありがとうね。あの子もこんなことができれば、こうはならなかったんでしょうね・・・それとアドバイスだけど、ザルツ部族との関係も修復したほうがいいわ。ハリードと関係あることだしね」
「すみません。ところで、ハリードとは一体誰なのでしょうか?」
「まあ!!あの子ったら、肝心なことを伝えてなかったのね。ハリードは、あの子の婚約者だったわ。もう、この世にいないけどね・・・」
今はリア充のゼノビアだが、辛い過去があるようだった。
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次回から第三章となります。ティサリアの苦労は続きますが、きっと乗り越えられるでしょう。




