2 潜入
私は、ケットシーの少女ケトラ、魔王様の妹でダークエルフのエレンナと共に転移魔法で、砂漠の国ヴィーステ王国の王都パルミラまでやって来た。二人とも幼馴染で気心の知れた仲だ。
ケトラはケットシーだけあって、素早く隠密行動に優れている。またスキルで猫化できるので、潜入工作には持ってこいの人物だ。冒険者で言えば、斥候というジョブになるだろう。一方のエレンナはダークエルフなだけあって弓の達人だが、剣技も魔法も一級品だ。戦闘になって、彼女に勝てる者は、そうはいないだろう。
「二人とも分かってるわよね?まずは夜中の内に女王を拘束、朝には私が女王に入れ代わる。ここまでは大丈夫?」
エレンナが言う。
「それは大丈夫だ。乗っ取りまでは心配していないが、その後、具体的にどうするのだ?」
「乗っ取りが終わったら、二人には帰ってもらうんだけど、私の完璧な計画を教えてあげるわ。まず、女王に入れ代わった後、魅了スキルで片っ端から男共を配下に加えるのよ。それこそ、騎士団長から宰相までね。そして、各国を周るのよ。そうしたら、どうなると思う。世界中の国王が私に求婚するでしょ?そうなると世界各地で私を巡って、戦争が起きるわ。そうすれば、自然と私に世界各国が跪く。そこで、こう言うのよ。「私には心に決めた人がいます」ってね」
ケトラも質問してくる。
「ところで、何でこの国にしたのかニャ?」
「それはね。この国が女王が治める国だからよ。他の国だと国王と結婚しないといけないでしょ?書類上だけど、魔王様以外と結婚したくはないからね。それにこの国は領土が世界一だし、金銀財宝もいっぱいあるみたいだからね。こっちは、私の綿密なリサーチで判明したのよ」
「・・・悪い予感しかしないニャ・・・」
「多少のイレギュラーはあるかもしれないけど、そこはほら、私の頭脳と美貌で切り抜けるわ」
エレンナが言う。
「不安はあるが、仕事は仕事だ。とりあえず、潜入しよう」
★★★
ケトラとエレンナのお陰で、難なく王宮の女王の寝室にたどり着いた。
当初の予定では、女王はもう就寝しているはずだったが、まだ灯りがついていた。
「こんな時間まで、何をやっているのかしら?独身という情報だったけど、男でも引き入れているのかしらね。とんだアバズレね」
こっそりと部屋の中を確認する。すると女王は机に向かい、必死に書類仕事をしていた。
「働き者だニャ。これからどうするのニャ?」
「防音の魔法を張ってもらえる?ちょっと予定とは違うけど、相手は一人だし、このまま突入しましょう」
私たち三人は、女王の寝室に雪崩れ込んだ。
女王が驚愕の表情を浮かべ、叫ぶ。
「何者だ!!私をヴィーステ王国女王ゼノビアと知っての狼藉か!?近衛兵!!早く来い!!何をしている!!」
「叫んでも無駄よ。防音の魔法を張っているからね」
一瞬沈黙が流れたので、私はケトラに催促する。
「こ、こちらにおわすは、魔王軍四天王で、国民的アイドルのティサリア様だニャ。大人しくするニャ!!」
「絶世の美女が抜けているけど、まあいいわ」
やっぱり、ここは私のサクセスストーリーの最初の山場だから、ちょっとケトラに協力してもらった。後世の歴史家のためだ。ここまで派手にやれば、書きやすいでしょ?
ゼノビアは言う。
「魔族が何の用?私を殺しに来たの?まあいいわ。殺しなさいよ。私も疲れちゃったし・・・」
おかしい・・・もっと怯えてもいいはずなのに、ゼノビアは何かを諦めている感じがする。
「流石に殺しはしないわ。ただ、今日からこの国は私の物だけどね」
「一体何が目的なのよ?」
「教えてあげるわ。それは・・・」
私は自信満々に完璧な計画をゼノビアに話して聞かせた。
「アンタ馬鹿なの?この国の現状を知らないようね。この国が欲しいのなら、今すぐにあげるわ。もうどうなったっていいしね」
「馬鹿とは何よ!!私は美貌だけじゃなく、魔王軍きっての智将として有名なのよ」
「その通りの意味よ」
「まあいいわ。私はよく同性から嫉妬されるからね。この国の現状が分かる資料や国宝を大人しく渡しなさい。変なことをすると殺すわよ」
ゼノビアは大人しく指示に従った。
「国宝は宝物庫にあるわ。女王だと自由に入れる。それと資料だけど、かなりの量があるわよ。まずこっちが財政状況でしょ。そしてこっちが外交関係・・・軍事関係や陳情は明日に最新の報告書が届くから、それを確認してね。喫緊の予定は明日に宰相が持ってくるから、彼女と話して決めてね。それから・・・」
あれ!?女王ってこんなに大変なの!?
てっきり、一日中ゴロゴロして、派手な服を着て、美味しいものを食べて、楽しく一日が終わると思ってたのに・・・
「後、私って滅茶苦茶国民に嫌われているから、気を付けないと刺されるわよ。じゃあ頑張ってね、女王様」
ゼノビアは何か憑き物が取れたような顔をしていた。
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