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転生したポンコツ女社長が、砂漠の国を再建する話  作者: 楊楊
第二章 母と娘

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19/71

19 開港

 トリスタは人で溢れている。

 今日、本格的に海運事業がスタートしたのを記念して、式典を行うからだ。


 少し話を戻すと、部族との交渉は上手くいった。特にハジャスは「始まりの遺跡」をかなり気に入ってくれた。これまで、3回も宿泊してくれた。その度に小国家群の王族や町の代表クラスを連れて来てくれたので、私も小国家群の代表たちと顔をつなぐことができた。ハジャスは小国家群の会議にも出席しているので、彼らに恩を売りたかったのだろうが、私にも借りを返したつもりだろう。

 そして、そのハジャスだが、リースしている軍艦1隻と商船1隻を小国家群に売ることにした。


 私としては、現金収入が得られるので、いいのだけどね。


 ハジャスとしては、小国家群に恩を売りたかったのもあるが、それよりも自分たちゴルド部族では、軍艦や商船を持て余すと思ったようだ。二つ名の「砂漠のハリネズミ」のとおり、絶対に危ない橋は渡らないのだろう。

 だって、ハジャスは、自分で船を動かさなくても、魔石を私たちや小国家群に売るだけで、かなりの儲けだからね。一応、小国家群から仲介料を取っていたようだけど、かなり良心的な金額だった。


 これは小国家群の防衛能力を高めるためだ。小国家群がズートラ帝国に侵略されたら、明日は我が身だからね。

 そんな訳で、ハジャスとは腹の探り合いをしながらだが、それなりに良好な関係が築けている。


 一方、ファラーハはというと、大活躍だ。

 ナール川に建設したサイロ港は、まだまだ発展途上だが、既に魔道船が寄港できるくらいには、なっており、すでに交易を開始している。

 こうなると東部はファラーハの独壇場だ。


 強欲な帝国商人を手懐け、かなりの利益を上げている。サイロ港については、実質ファラーハに運営を任せ、こちらは4割の利権を貰うだけに留めている。ファラーハがいくら力をつけたとしても、軍事力はこちらが圧倒的に上だし、今の好景気も私たちの協力があってのことだと理解しているので、そう無茶なことは言ってこないだろう。


 いや・・・あのオバちゃんのことだ、また突拍子もないことを要求してくるかもしれない。



 そんなことを思っていると、アロヨに声を掛けられた。

 今の私はゼノビアの姿だ。記念式典に女王が来ないわけにはいかないからね。


「見事です。魔道船も軍艦1隻、商船4隻にされましたしね」

「今の状況じゃ、宝の持ち腐れだしね。それにこれでも十分採算が取れるわ。必要ならまたその時に建造すればいいしね」

「本当に人が変わったようですね?」

「そ、そう?」


 私は曖昧に答えた。


「ところで、ティサリア大臣はどちらに?」

「彼女は別の仕事をしてもらっているわ。色々と彼女も忙しそうだし」

「そういうところは、昔のままですね。この事業を成功に導いた立役者のティサリア大臣を式典に呼ばないなんて、信じられません。ティサリア大臣の手柄を奪うなんて、恥知らずな真似はしないでください」


 呼ばないのではなく、呼べないんだよ。貴方の目の前にいる私が、ティサリアだからね。


「まあいいです。貴方には期待をしてませんしね。それで、クレオラ様と仲直りをしたいとのことでしたが・・・」

「それは考えてあるわ。式典のフィナーレを見ていてくれたら、お母様にメッセージは伝わると思うからね」


 私は笑顔で、アロヨとの会話を終わらせて、「ニューデザートクイーン号」に乗り込んだ。


 式典が終わり、それぞれの船が出港する。先頭は私たちが乗る「ニューデザートクイーン号」、次にブリザドが艦長の魔道軍艦、以下魔道商船と続く。

 先頭の「ニューデザートクイーン号」は、クレオラの象徴でもある。帆船が魔道船を率いているなんて、少し違和感があるが、逆に国民や国外に向けて、クレオラとの仲が修復されたことをアピールできる。


 集まった市民も口々に叫んでいる。


「クレオラ様バンザイ!!ゼノビア様バンザイ!!」

「ゼノビア様は、クレオラ様を許されたのだろう」

「俺たち年寄りからすれば、「まだまだ若い者には負けん」って思えるな」


 市民のウケも上々だ。

 でも、一番見てほしいのはクレオラだ。私は「貴方を大切に思っている」というメッセージが伝わるといいのだけど・・・


 ★★★


 ~ファラーハ視点~


 ゼノビアちゃん、粋なことをするわね。



 私は今、クレオラが軟禁されている屋敷に来ている。軟禁状態とは表向きで、実際は自由に出入りができる。というのもクレオラの右腕のアロヨの存在が大きい。実質総督府が黙認しているからね。


 私は、クレオラに言った。


「どう?ゼノビアちゃんは?」

「本当にあの子なのかしら・・・」


 娘の変わりようにクレオラも驚いているようだ。


「アロヨ、貴方はどう思う?」

「私も人が変わったように思いますね。それと私はティサリア大臣の存在が大きいと思います。非常に合理的な方で、特に印象に残っているのは、『今の私たちに手段なんて選んでいられません。それこそ、ゼノビア様とクレオラ様を仲直りさせるくらいしないと』と言われたことです。合理的ですが、誰もやろうとは思わない手ですからね」


 ふと疑問に思ったことを口にする。


「ティサリア大臣?私は会ったことはないんだけど・・・」

「ゼノビア様の態度では、彼女はあまり表に出したくないのかもしれません。懐刀といったところでしょうか?少し、煽ってみたのですが、ボロは出しませんでしたし」


 クレオラが言う。


「面会の話は受けることにするわ。我が子の成長は見たいしね。あの子が何を考えているか、全く分からないけど、ちょっとは女王らしくなったと思うわ。それと女王なんだから、命令すればいいのにね?そういう優しいところは昔のままだけどね」


 クレオラもゼノビアちゃんも、優しいけど頑固なところはそっくりだ。


「じゃあ、私はこれで帰るわね。書き入れ時だしね。それとクレオラに言っておくけど、私はハンデル部族の利が大きいほうにつくからね。私に味方してほしいなら、それなりのお土産を用意してくれないとね」


「生憎、貴方にあげるお土産はないわ。でもずっと私たちは友だちよね?」


「そうだったかしら?」


 いつものように軽口を叩き合って、クレオラとは別れた。



 オバちゃんから言えることは一つ。ゼノビアちゃん、素直になりなさいね。

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