17 意外にリア充
私たち一行は、ロクサーヌを残して、パルミラに帰還した。
ロクサーヌには引き続き、魔道船の改良をしてもらう。見立てでは、1ヶ月くらいで何とか航行できるレベルにはなるという。ロクサーヌ曰く、ゴブリンたちのお陰だそうだ。また、ブリザドなんかは、もうその気になっているしね。
「俺の艦隊の旗艦が新型の魔道船とはな。とりあえず、訓練をしておくよ。世界一の海軍にしてやるぜ」
まあ、こちらも任せていいだろう。
パルミラに戻り、早速エレンナから報告を受ける。
「こちらは特に問題はない。レドラたちの力を借りずに冒険者と国軍だけで、サンドサーペントとサンドクラブを狩ったからな。時間は大幅に掛かり、怪我人も出たが、それでも彼らの自信になったと思う」
「凄いわね。でもあまり無茶はしないでよね」
「分かっている。無茶を言うなら、三連戦ぐらいさせているぞ」
エレンナは相変わらず、脳筋だった。でも国軍や冒険者の実力がついてきていることは確かだ。
パルミラの統治も安定していることから、私はケトラとバルバラを連れて、魔王国に戻ることにした。
★★★
最初に魔王様と謁見をする。
魔王様も私に会いたいだろうしね。
「ティサ、よくやった。報告は聞いたぞ。それに行方不明になっていたリバイドも確保してくれて礼を言う。竜人族からは、お礼の品が大量に届いたからな」
「マドラームのお陰ですよ。マドラームが凄いドラゴンと、初めて知りました」
「ティサらしいな。それで今日は何か用件があったのか?」
私は魔王様に説明をする。
「ゼノビアに会いに来たのか・・・ゼノビアは今、第一軍団で働いてもらっている。第一軍団長はオーガのオルグストンだから、奴に頼むといい。奴もゼノビアのことは評価していたからな」
しばらくして、オルグストンがやって来た。
「ティサではないか!?久しぶりに「たかい、たかい」してやろう。たかい、たかい!!」
私はオルグストンに持ち上げられた。決して悪い奴ではないが、私を未だに子供扱いしてくるのだ。
「オルグストン!!私は子供じゃないのよ。立派なレディよ!!」
「俺にとっては、いつまでも子供だ」
魔王様が間に入ってくれる。
「オルグストンよ。その辺にしてやれ。それよりも、ティサは、ゼノビアに会いたいそうだ。案内してやってくれ」
「分かりました。それにしてもティサは人を見る目があるな。あんな優秀な女性をスカウトしてくるなんてな」
「そ、そう?」
後で聞いた話だが、魔王様の計らいで、ゼノビアは人質ではなく、スカウトして来た人材ということにしているらしい。
早速、第一軍団の事務所にやって来た。
事務所では、ゼノビアが楽しそうに働いていた。
「倉庫の整理が終わったら、すぐに帳簿を作成してください。多分それだけで、3割程コストカットできるはずです。浮いた分は、次の演習の費用に回しましょう」
「ゼノビア事務局長、食材管理の件で相談が・・・」
「今忙しいから、報告書を読んで、明日回答するわ」
見る限り、できる女だ。ポンコツ女王だったとは思えない。
オルグストンが言う。
「最初は、簡単な事務仕事をさせていたのだが、めきめきと頭角を現し、俺の一存で事務局長にしたのだ。もう彼女は第一軍団になくてはならない存在になっている」
最高の評価を受けていた。
オルグストンがゼノビアに声を掛ける。
「ゼノビア、客人だ」
「私に客人?珍しいわね。あっ!!貴方は・・・」
別室に移動して、ゼノビアから話を聞く。
開口一番、こう言われた。
「貴方には感謝しているわ。私は女王の器ではなかったのよ。それに気付かせてくれて、ありがとう。これは皮肉じゃないからね。心からそう思っているのよ」
「そ、そう・・・それはよかったわ」
「貴方も頑張っているようね。報告書を読む限りでは、私が女王をするよりも、貴方が女王でいたほうが、国の為ね。少し寂しくはあるけど・・・」
私は、今後の方針をゼノビアに伝えた。
「まずは、各部族との関係改善の知恵を借りたいってことね?」
「ええ」
「ファラーハとは、いい関係が築けているから、それを軸にすればどうかしら?あの強欲オバさんのことだから、それなりの代価は必要だとは思うけどね。でも実力は確かよ。それに利に聡い。知っていると思うけど」
それは私も考えていた。
「ファラーハのことはもう話さなくていいわね。私もあのオバさんのことは話したくないしね。じゃあ、ゴルド部族からいくわね。族長はハジャス、良くも悪くも慎重な男よ。ギリギリまで、態度を示さない。でも無能というわけじゃないのよ」
「この前、「始まりの遺跡」の案内状を送ったんだけど、無視されたのは、どういうことかな?」
「多分、様子見をしていたんでしょうね。あの時の状況なら、貴方に味方するか、今のままの関係を維持するかで、迷ってたんだと思う。あまり気にしなくていいと思うわ。私だと、海運事業を再開するとゴルド部族が、より重要な地位になることを説明するかな?今思えば、最初からそうしておけばよかったと思うけどね」
となると、ファラーハに頼めば解決しそうだ。また、あのオバちゃんに吹っかけられることは、覚悟しないといけないけどね。
「続いて、ザルツ部族だけど、こっちは全く対策が思いつかないわ。族長はアイーシャという気の強い女よ。ファラーハが利で動くのに対して、こっちは利では動かない。歴史的にずっと騎馬王国ダービットの脅威に晒されてきたから、戦闘力も高い。それに塩田事業も拡大するんでしょ?だったら、ザルツ部族の岩塩と品目が被るから、難しいところね。それに私もザルツ部族には、恨みを買うような政策を打ち出したしね」
最悪、ザルツ部族は切っても、いいかもしれない。如何に騎馬王国といっても、砂漠を越えてパルミラまでは来れないだろうし・・・
ここまで話してみて、ゼノビアは「無能な女王」ではあったが、決して「無能な人間」ではない。社長時代の研修会で、ある講師が言っていた言葉を思い出した。
「戦う場所を間違えた者、それを人は無能と呼ぶ」
つまり、適材適所ということだ。第一軍団の事務局長であれば、ゼノビアは「有能な働き者」だからね。
私の作戦の肝は、他部族にも海運事業の恩恵を与えることだ。そうすれば、ファラーハなんかは食いついてくるだろうし、ゴルド部族もこちらに利があれば、何とかなるだろう。一度にすべての部族の協力を得るなんて、無理な話だしね。
「分かったわ、ありがとう。それで提案なんだけど、女王に戻ってみない?しばらく私は、開発担当大臣として貴方を補佐するから」
「遠慮しておくわ・・・私には無理よ」
「でも・・・貴方は決して無能ではないし・・・」
「いえ、無能よ・・・歴史に名を残すくらいのね」
ゼノビアは涙を流していた。
「じゃあ、その話はこの辺で。それで、お母様に会ってみてはどう?たった一人の肉親だから、会いたいでしょ?」
「それもやめておくわ。会いたくないわけじゃないの。合わせる顔がないのよ。お母様には、本当に酷いことをしたし、お母様の大切なヴィーステ王国を滅茶苦茶にしてしまったしね」
「分かったわ。今はこれ以上は言わない。それじゃあ、貴方のお母様がどんな人か教えて。女王として、会わないわけにもいかないしね」
「分かったわ・・・」
そこから、ゼノビアは幼い頃のエピソードや、ちょとした笑い話なんかをしてくれた。どれも仲が悪くなる前の話だ。私としては、ゼノビアとクレオラに仲直りをしてもらいたい。だって、私はもう父とは仲直りできないからね。せめてゼノビアたち親子だけでも・・・
私がゼノビアを魔王国に連れて来たことは、ゼノビアに取ってみれば幸運だったのかもしれない。勢いでやった乗っ取り作戦だけど、少しは人を笑顔にできて、よかったと思った。ゼノビアには幸せになってもらいたい。
そう思っていた。オルグストンがゼノビアの頭を優しく撫で、ゼノビアもオルグストンに抱き着いているのを見るまでは。
私は心の中で叫んだ。
モゲろ!!リア充ども!!
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