16 水竜 2
水竜と魔王軍四天王マドラームは、叔父と甥の関係にあるようだ。
マドラームが水竜のリバイドに説教をしている。
「なぜ、家出した?そして、ここで何をしている?」
「家出したのは、修行が嫌だったからだよ。ここに居座っていたら、討伐隊が来る。それを撃退していけば、有名なドラゴンになって、みんなを見返してやれると思ったんだよ」
「なんと馬鹿なことを!!」
マドラームのゲンコツがリバイドに炸裂する。
「お前は人間を馬鹿にしているが、人間は数も多く、中には我らよりも強い個体がいる。それを理解せずに誰彼構わず喧嘩を売っていると痛い目を見るぞ!!」
「は、はい・・・」
もしここで、リバイドが勇者に討たれでもしたら、マドラームも他の竜人族も激怒して、人族に対して侵攻を開始したかもしれない。そう思うと、今回のことはラッキーだった。
バルバラが言う。
「この後、どうするのじゃ?当初の予定では、水竜の死体を持ち帰り、市民を安心させる計画だったがのう?」
それはそうだ。私は提案する。
「悪い事をしたら謝る。基本だよ。それとただ謝るだけじゃなくて、手土産を持って行けば、印象はよくなるかもね?」
「ティサよ。何か案があるのか?」
「もちろんよ」
それからしばらく沖合で、漁を行ったり、シーサーペントを狩ったりした。ブルーリザードもフロッグ族も優秀で大漁だった。リバイドも必死でシーサーペントを狩っていたからね。
船が魚やシーサーペントで埋め尽くされたところで、トリスタに帰還した。
マドラームもリバイドも大きなドラゴン姿で、「ニューデザートクイーン号」の真横を飛んでいたので、市民からは、歓声と言うより、悲鳴が上がった。
「この馬鹿が迷惑を掛けた。詫びの品として、こちらを用意した。好きに食べてくれ。リバイド、お前も謝れ」
「ごめんなさい!!もうしません」
マドラームとリバイドはすぐに飛び去った。この後、リバイドの両親に送り届けるらしい。
市民は歓声を上げる。
「じゃあ、沖合での漁もできるってことだな?」
「ああ!!こりゃあ忙しくなるぞ!!」
「水竜がいなくなったってことは、交易もできるんだろ?」
「そうだね。だったら魔道船の修理やなんかも必要だし、トリスタは好景気になるよ」
持ち帰った魚やシーサーペントを料理していく。
特にシーサーペントはウナギに似た味で美味しかった。できれば醤油が欲しい。そうすれば蒲焼にできるからね。交易の目的の一つには、醬油の確保も入れよう。
まあ、そのまま焼いても美味しんだけどね。
★★★
次の日、アロヨから面会したい旨の要請があった。
多分、アロヨも今後の方針について協議をしたいのだろう。海運事業も沖合漁業も再開できる。となると、トリスタも好景気になる。優秀なアロヨのことだ、次の手を考えているのだろう。
総督府に着くと、職員総出での出迎えを受けた。
気の早いスタッフたちは早速、自分の企画を持って来たりしていた。
「パルミラでは、魔導士の育成に力を入れているのですよね?だったら少し、氷結魔法の得意な魔導士を派遣してくれませんか?魚を冷凍して運べば、パルミラでも美味しい魚が食べられますよ」
「缶詰工場を建設してはどうでしょうか?帝国商人からの融資が受けられるんですよね?」
「貿易では、砂糖やスパイスを輸出することを検討しています。問題は何を輸入するかですね」
どれも、私が考えていたことだ。
私が言わなくても、彼女たちだけでやってくれるだろう。だったら、任せてみよう。社長時代に失敗した原因の一つが、部下に仕事を任せられなかったことがある。社長があれこれと細かいことを指示したら、社員はやりにくいし、やる気もなくなるからね。
「一定の予算以下の企画であれば、アロヨ総督代理に一任しようと考えています。私たちよりも、皆さんのほうが、トリスタの現状に詳しいですからね。なので、アロヨ総督代理に企画を提出してもらえませんか?」
「「もちろんですよ!!」」
早速スタッフが動き始める。チェックは必要だろうが、そこまでは心配していない。危機的状況のトリスタを何とかここまでの町にしたのは、彼女たちだからね。
私はアロヨと打ち合わせを始める。
「先程、スタッフにも伝えましたが、一定の予算内であれば、アロヨ総督代理にお任せします。ただ、他種族を入植させることになりますので、治安の維持には配意してください」
「分かりました。魚介類やシーサーペントの販売などは、お任せください。問題は、もっと大きなことです」
「つまり、海運事業ということですか?」
「そうなのです・・・」
ゲームであれば、「水竜はいなくなりました。海運事業は再開されました。めでたし、めでたし」で終わるのだが、実際はそうはいかない。問題は山積みだ。まず、魔石の確保だ。ロクサーヌやゴブリンたちが頑張ったとしても、燃料となる魔石の使用量がゼロになることはない。どこからか調達する必要が出てくる。魔物を狩りまくってもいいが、それではコストが合わない。魔石が大量に採取できる場所から輸入する必要がある。
それに問題は他にも・・・
「燃料となる魔石の問題、それと他部族との関係でしょうか?」
「はい、ティサリア大臣は何か策がお有りでしょうか?」
無くはない。
ただ、交渉が上手くいくかどうかは分からない。
「魔石の供給先はゴルド部族を考えています。それと海運事業を再開するといっても、他部族との関係は良好に保ちたいと考えています。具体的にはですが・・・」
私は、ざっくりとした計画をアロヨに話した。
「そう、上手くいくでしょうか?他分族との関係は、ティサリア大臣が思っている以上に冷え込んでいます。余程の交渉材料がないと厳しいかと・・・」
「それは十分に分かっています。でも、何十年も他国への負債を抱えたまま、この国が維持できるとは思えません。なので、今の私たちに手段なんて選んでいられません。それこそ、ゼノビア様とクレオラ様を仲直りさせるくらいしないと」
冷静なアロヨが笑い出した。
「ハハハハ、絶対無理だと思いますが、なぜか、ティサリア大臣と話していると、できそうな気もしてきました。ゼノビア様とクレオラ様が和解することは、私だけでなく、多くの国民が望んでいることですからね」
私の提案は、反対されることはなかった。
アロヨたちのスタンスは、「やってみて駄目だったら、反対する」といったものだ。
となると、ここで一度、本物のゼノビアに会ってみるか・・・
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