15 水竜
まずは、船を確保しなければならない。アロヨに聞いてみる。
「あるにはあるのですが、かなり古い帆船でして、整備もされてないんです」
確認すると、その当時としては最新鋭の帆船だった。整備はされておらず、マストも破けている。ロクサーヌが言う。
「この船のほうが、魔道船よりも整備しやすいッス。整備する作業員を集めてもらえば、3日あれば整備できるッス」
バルバラが続く。
「ならば妾が、水竜がいる海域まで風魔法で連れて行ってやろう。スピードだけなら、魔道船よりも速いかもしれんな」
これにアロヨが答える。
「まず作業員ですが、帆船を整備できる船大工は全員解雇しており、この町にはもういません。それと船を動かす水夫ですが、既に別の仕事をさせており、こちらの水夫として運用するのは厳しいと思います。また、彼らは不当に解雇されたことを今でも根に持っており、協力してくれないかと・・・」
これにはマドラームが答える。
「作業員は、ロクサーヌが昔から懇意にしていたゴブリンたちを連れてくればよかろう。それと水夫だが、我に考えがある。明日にでも連れて来てやる」
「凄いわ、マドラーム。ただの脳筋オジさんじゃなかったんだ」
「当たり前だ!!こう見えて、こまごまとした仕事もしておるのだ」
これで、問題は解決した。
しかし、アロヨが言う。
「で、でも本当によろしんですか?女王陛下の怒りを買いませんか?」
「どういう意味でしょうか?」
「この船だけ、ここに残された理由を女王陛下から、教えてもらってないのですか?」
「そ、そうですね・・・どうだったかな・・・どんな話でしたっけ?」
私は曖昧に答えた。
「ティサリア大臣は着任したばかりで、ご存じないかもしれませんが、女王陛下がこの船だけを整備せずにここに残したのは、前女王クレオラ様への当てつけです」
アロヨが言うには、クレオラ女王時代も艦隊は所持していたそうで、年に数回、帝国や小国家群と海上貿易をしていたそうだ。これはクレオラから他の部族に対して、「海上貿易に切り替えることも可能ですよ」というメッセージを送るためだ。
クレオラに海上貿易に切り替える意図はなく、あくまでもカードの一つとして所持していたそうだ。他部族としても、その辺は理解していて、クレオラを女王として立ててくれていたという。
「大型魔道船の建造が始まってすぐに、この船以外の帆船は処分しました。この帆船だけを残したのは、大型魔道船が往来する傍らで、クレオラ様の象徴でもあるこの船が朽ちていく様を見せつけることが目的だったのでしょう。今ではこんな姿ですが、本当に立派な船でした。この「デザートクイーン号」は私たちの誇りでもあったのです」
ゼノビアは本当に何を考えているんだ!!
そう思ったが、自分も同じことをしていたのを思い出した。
自分も父の肝入りで建てられた店舗の横に新店舗をオープンさせたからね。結局、共倒れになったけど。
「だったら心配しないでください。女王陛下もその辺は反省されてますし、ゆくゆくは、クレオラ様とも和解したいと仰られています」
「ほ、本当ですか?この短期間に何があったのでしょうか・・・」
かなり怪しまれてしまった。
「そんなことよりも、まずはこの船の修理です。すぐに取り掛かりましょう」
★★★
次の日から、本格的に動き出した。
まずマドラームが連れて来たのは、50人のゴブリンの作業員だった。その代表者はゴブトというゴブリンで、ロクサーヌとも面識があるようだった。
「ゴブトじゃないッスか!!ゴブトが来てくれたら安心ッス。こう見えて、仕事は丁寧で早いッスからね」
「ロクサーヌの注文に答えられるのは、俺くらいしかいないからな。今度は何をすればいいんだ?」
早速、ロクサーヌはゴブリンたちに指示していた。
そして、水夫として連れて来たのは、ブルーリザード族とフロッグ族の者たちだった。ブルーリザードは、青色の鱗を持つリザードマンで、水中活動が得意だ。そしてフロッグ族は、カエル型の人間だ。ブルーリザード程戦闘力はないが、泳ぎはブルーリザードよりも上手い。
ブルーリザードの代表者はブリザドという男で、レドラとも面識があるようだった。
「ブリザドが来たのか。だったら安心だ」
「俺も次男だから、実家に居づらくてな。お前の真似をして志願したんだ。何でも自由にやれるんだろ?」
「まあそうだが、頑張り次第だな。何せ私は出世して、騎士団長だからな」
「じゃあ、俺は海軍大将でも目指すわ」
「そうしてくれ」
ブリザドが配下のブルーリザードやフロッグ族に声を掛ける。
「こんな俺たちにも、船をくれるらしいぞ!!しっかり働けよ!!」
「「「オオオオー!!」」」
とりあえず、ブリザドを臨時の海軍総司令官に任命した。
「どう?この船なんだけど、動かせそう?」
「ああ大丈夫だ。一昔前の帆船だが、作りは良いし、すぐにでも動かせるぜ」
これなら、何とかなる。
整備は予定通り、3日で終了し、2日を訓練に費やした。いつでも出港できる状態になっていた。
そしていよいよ、討伐に出発する。
出発前に多くの市民が港に詰めかけていた。一応、誰か何か言ったほうがいいと思い、私は演説することにした。
「私たちは、これから水竜の討伐に向かいます!!必ず打ち倒して見せます!!そして、この船を見てください。ボロボロの船がここまで立派になりました。私たちはこの船を「ニューデザートクイーン号」と名付けました。そしてこの船は、この町が発展する象徴となるでしょう。女王陛下に代わって、私が約束します!!」
市民から大歓声が上がる。
私たちは大歓声に見送られて、船を進めた。
★★★
水竜がいる海域には、あっという間に到着した。バルバラの風魔法のお陰だ。
すぐに戦闘体制に入る。ブリザドが大声で指示を始める。
「発射式の銛の準備をしておけ!!マドラームの旦那のサポートだ!!」
いつでも銛を発射できるようにして、船は海域を航行する。1時間くらいしたところで、青色の鱗を持つ巨大なドラゴンが現れた。
「ここは我の縄張りだ!!即刻帰れ!!下等な人間ども!!命だけは助けてやるぞ」
かなりの大きさ、そして人語を話す。シーサーペントの亜種などではなく、完全なドラゴンだ。
私はマドラームに尋ねる。
「かなり強そうなんだけど、大丈夫なの?」
「あれがか?ただの小童だ。あの程度ならサポートなどいらん。一捻りにしてやる」
マドラームが船から飛び降りると、水竜の倍近い大きさになった。大きさだけで言うなら、一捻りにできるだろう。
「小童が!!調子に乗りおって!!竜人族を貶める行為は看過できん。血祭りに上げてやる」
すると、怯え切った水竜が言った。
「えっ!!嘘・・・マドラーム叔父さん?」
「うん?もしかして、リバイドか?」
「そ、そうだけど・・・」
どうやら、水竜はマドラームの知り合いのようだった。
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