14 トリスタの今
元宰相はアロヨという女性で、見た感じ、かなり有能そうだった。
資料によると、現在は総督府の責任者をしているようで、辞職ではなく、左遷という扱いでトリスタに赴任したようだ。文官からの信頼が厚く、かなり引き止められたらしい。今思えば、宰相のままにしておけばよかったと思う。
とりあえず、挨拶を交わす。
「私は開発担当大臣のティサリアです。トリスタの視察に参りました。トリスタについては、女王陛下より、全権を預かっています」
「総督代理のアロヨです。皆さんとは一度、お話をしてみたかったのですよ」
それからしばらく、アロヨと情報交換をした。
まずアロヨの役職総督代理だが、総督が前女王のクレオラで、クレオラが軟禁状態だから、実質はアロヨが仕切っているという。話した感じ、ファラーハとは違い、優秀だが腹芸をしないタイプだ。単刀直入に要点のみを話す。「ザ・官僚」といった感じだ。
「ティサリア大臣は、女王陛下の帝国学園時代のご学友ということですね?」
「そうです。ゼノビア様は、獣人や亜人にも、平等に接してくれていましたので、自然と仲良くなりましたね」
実際、獣人や亜人を排斥する風潮のあるこの世界において、ゼノビアは、それをしなかった。数少ない、ゼノビアの褒められるべき点だろう。
「単刀直入に言うと、不良債権となっている大型魔道船についてですが、まずは海運事業が再開できるように努力を致します。それでも無理なら、潔く売り払おうと思っています。大したお金にはならないでしょうけど」
「分かりました。私共としましては、すぐにでも売り払って、もらいたいと思いますが、一度現状を把握されるのも、いいかもしれませんね」
「では、少し資料を見せてもらいましょう。それから一緒に対策を練ってもらえれば、助かります」
「もちろんですよ」
そこから、総督府のスタッフからトリスタの課題などについて、レクチャーを受けた。当初は、私たちが、ゼノビアの肝入りで連れて来られたスタッフということで、戦々恐々としていたのだが、私の「大型魔道船を売り払うことも考えている」という発言で、心を開いてくれた。みんな真面目で、一生懸命なので、すぐに打ち解けることも出来た。特にかき氷を作ってあげていたバルバラは大人気だったけどね。
「美味しいわね。でも、こんな小さい子が、働かなければいけないヴィーステ王国になってしまったのが、本当に辛いわ・・・」
「失礼な!!妾は断じて、子供では・・・フガフガフガ・・・」
慌ててバルバラの口を塞ぐ。
★★★
総督府のスタッフの協力で、トリスタの現状は把握できた。
一言で言うと、海運事業を再開しなくても十分にやっていける。世界一の大都市になることはないけど、市民が飢えに苦しむようなこともない。アロヨが「すぐにでも、魔道船を売り払ってほしい」と言ったのも、理解できる。結構な維持費も掛かり、今の状態だと赤字を垂れ流すだけの不良債権でしかないからね。
ところで、なぜ海運事業が頓挫したかというと、水竜がトリスタ近海に住み着いてしまったからだ。その所為で、付近の魔物も活性化し、シーサーペントによる被害も増大、主要産業の漁業にも影響が出ているようだった。それに水竜の機嫌が悪いときは、水竜自体が、通行する船に攻撃してくることもあるそうだ。
でもこの総督府のスタッフは優秀だったので、漁業は沿岸部のみにし、沖合での漁業を廃止して、養殖に切り替え、何とか凌いでいるのが現状だ。
「水竜を討伐すれば、海運事業を再開することができるということですね?」
「理論的にはそうですが水竜は強力です。以前に水竜の討伐に向かったのですが、無残な結果に終わりました。幸い死者が出なかったことだけは、不幸中の幸いでした」
今もドッグに入ったままの軍艦がそれを物語っている。
総督府を出て宿に戻る。早速検討に入る。
その前に少し、ゲームの話をすると船を入手した勇者は水竜を討伐できず、船を貰ったはいいが、すぐに出発できない状況に陥る。結局、水竜の力を弱める「翠青の宝玉」というアイテムを手に入れ、再び挑み討伐に成功する。肝心の「翠青の宝玉」だが、大陸の最東端まで行かなければ手に入らない。女王という立場の私が気軽に行ける場所に無く、実質、「翠青の宝玉」なしで、水竜を討伐しなければならない。
「水竜って、私たちだけで討伐できないかな?」
「分からんのう。ただ、不慣れな船上の戦いになるし、絶対に勝てるとは言い切れんじゃろうな」
バルバラでもそう思うか・・・
そういえば!!
「マドラームと水竜とどっちが強いの?」
「比べるまでもない」
「マドラームでも勝てないのかあ・・・」
「逆じゃ。お主は四天王を舐めておるのか?頭の固い馬鹿ドラゴンだが、戦闘力は魔王軍随一じゃ」
なら、マドラームにお願いしてみよう。
すぐに転移スポットから魔王国に戻り、魔王様経由でお願いをした。
「分かった、許可しよう。それとマドラーム、くれぐれも無茶はするなよ」
「分かっています。その辺は加減しますのでな。
それとティサリアよ、何が水竜だ。大型のシーサーペントを見間違えたのだろう?高潔な我ら竜人族が、そのような不埒な真似などせんからな。どちらにしても、一捻りにしてやろう」
「ありがとうね、マドラーム。トリスタは魚が美味しいから、ご褒美は魚で払うよ」
「楽しみにしておるぞ」
マドラームを連れて、宿に戻るとロクサーヌが声を掛けてくる。
「ところで、魔道船なんスけど、あれは本当に酷いッス。軍艦なんか、この町の魔石を全部搔き集めても、水竜の所まで行けないッス。それくらい燃費が悪いッス」
ロクサーヌの説明によると、大型魔道船は欠陥だらけだという。魔道船の動力は、魔石で、スクリューを回して船を進めるのだが、その魔石からスクリューに動力を伝える魔道回路が滅茶苦茶だという。
「酷いもんスよ。これなら、ドワーフの見習いがやっても、ここまで酷くはならないッス。他にも改良すべき点はあるッスけど、一番はそれッスね」
「もし、その魔道回路が修復できたら、燃費はよくなるの?」
「多分、そこそこの船にはなると思うッス。でも最低2ヶ月は欲しいッス。他人が作った船なんで、分析からしないといけないッスからね。これなら最初から作ったほうが早いかもッス」
水竜を倒す戦力は見付かった。でも、そこに行く足がない。
人生とは、こうも上手くいかないものだろうか?
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!




